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10/17『オンオフ』
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今日、ゲーム内で仲良くしてもらってるプレイヤーさんとリアルで会う。
プレイスタイルが似ているから良くチームを組んでミッションに挑んでいたのだけれど、今度そのゲームの公式大会が行われることになり、一緒に出てみないかと誘われたのだ。
僕が女性アバター、向こうがおっさんアバターでプレイしているんだけど……念のため、鍵付きルームでチャットして【中身男だけど大丈夫?】って聞いたら【問題なし】とのこと。向こうの性別も気になるけど、まぁあのプレイ内容とかアバターからするに同性だろうし聞かなくていいや。
チャットで待ち合わせ場所と時間、お互いの目印を決めた。連絡先を交換できれば早いんだけど、メッセのIDやアドレス類は入力できない仕様になっている。
防犯や個人情報保護のためなんだけど、こういうとき不便だなー。
と、いうわけで。目印であるターコイズブルーのバケハを被って待ち合わせ場所にやってきた。
約束の時間まであと10分程度。
向こうは黄色のスカーフを巻いてくる、とのことだけど……屈強なおっさんがスカーフを巻いている姿を想像しておかしくなった。
でも、中の人がおっさんとは限らないよなー。ボイチャも声質変えられるんだし、中身が俺好みの女の子でも……あぁ、そうそう。ちょうどあっちから歩いてくるような小柄なコ。
あのプレイスタイルからは想像できないような可愛い子だったら、俺はなんかのラノベの主人公になった気分になっちゃう。まぁないだろうけど。
自分の想像に小さく笑いながら待っていたら、声をかけられた。
「あのぉ」
鈴の音のように透き通った可愛い声。さっき見てた女の子だ。
「あっ、はい」
視線がバレてなにか咎められるのか? と身構えたら、違った。
「shin-shinさんですか?」
「えっ、はい。え、もしかして……」
「ツブガイです。えっと、リアルでは初めまして」
「は、初めまして。えー」
「中身もおっさんだと思ってましたよね」
「う、はい、すみません」
「全然。そう思われたかったんで、嬉しいです」
ぅわー、かーわいい。身長150センチもないような小柄さ。良く見れば首に黄色いスカーフを巻いてる。声が高くて背が小さくて、小中学生みたい……はっ。
「あの、女性に失礼かもなんですけど」
「はい」
「一緒にいて、案件発生しませんよね……?」
不安になって聞いたら、ツブさんが笑った。
「大丈夫です。これでもお酒飲める年齢です」
「……年上……?」
「あ、ですよね。十代後半から二十代前半って感じ」
「はい、大学入ったばっかで……」
年上だからどうこうってわけじゃないけど、リアルにいるんだ、こういうタイプの人って感じ。
とりあえず近くのファストフード店に入って自己紹介などしつつ、“公式大会に参加するかどうか会議”を開く。
持参した携帯ゲーム機で試しに協力プレイしてみたけど、やっぱり相性いい。
いつもは低音ボイスで聞いてたツブさんの言葉が、今日は地声で聞こえる。すっごい違和感。
割と乱暴な言葉遣いをする人なんだけど、それはあのおっさんの見た目から発される低音ボイスを通してるからしっくりくるわけで、こんな小柄な女性の、透き通るような声が言うと、驚きとかより違和感がすごい。これは僕の先入観によるものなのだろうか。
ワンプレイ終えて一息つく。
「大会って顔バレしますけど、いいんですか?」
「うん、特に隠すような仕事もしてないし……っていうか、いつもと同じでいいよ? 口調」
「いや、さすがに……年上だって知っちゃったんで」
「えー? じゃあこれからゲーム内でもそうやって喋るの?」
「いや、それはムリかも」
「じゃあいいじゃん。これからもチーム組むだろうし、堅苦しいのはナシにしよう」
ねっ、と笑ったその顔は、年上だとは思えないくらい可愛くて、せっかく繋がった縁を切っちゃいたくなくて、ツブさんとチームを組んで大会に出ると決めた。
毎日決まった時間にログインして、大会出場者用のステージで特訓を続ける。
もし優勝できたら、次も、その次も一緒に大会に出られるかもしれない。
密かに憧れているプロゲーマーになれるかもしれない。
ツブさんはゲーム内で相変わらず渋い低音ボイスでガハガハ笑ってるけど、中身はちっこい女性なんだって知ってるからなんだかホッコリしてしまう。
『shin-shinお前、腕上がってんじゃねぇか⁈ 勝つ気充分だなぁ!』
ツブさんが低音ボイスでガハハと笑う。うーん、とってもギャップある。大会でもこのまま行くのかなと想像したら楽しくなって来た。
『一緒に大会出るの楽しみ! 頑張ろうね!』
不意に出て来た素の口調に心臓が跳ねる。
思いがけずできた年上女性の“友達”に、思春期が終わったはずの僕はドギマギさせられるのだった。
プレイスタイルが似ているから良くチームを組んでミッションに挑んでいたのだけれど、今度そのゲームの公式大会が行われることになり、一緒に出てみないかと誘われたのだ。
僕が女性アバター、向こうがおっさんアバターでプレイしているんだけど……念のため、鍵付きルームでチャットして【中身男だけど大丈夫?】って聞いたら【問題なし】とのこと。向こうの性別も気になるけど、まぁあのプレイ内容とかアバターからするに同性だろうし聞かなくていいや。
チャットで待ち合わせ場所と時間、お互いの目印を決めた。連絡先を交換できれば早いんだけど、メッセのIDやアドレス類は入力できない仕様になっている。
防犯や個人情報保護のためなんだけど、こういうとき不便だなー。
と、いうわけで。目印であるターコイズブルーのバケハを被って待ち合わせ場所にやってきた。
約束の時間まであと10分程度。
向こうは黄色のスカーフを巻いてくる、とのことだけど……屈強なおっさんがスカーフを巻いている姿を想像しておかしくなった。
でも、中の人がおっさんとは限らないよなー。ボイチャも声質変えられるんだし、中身が俺好みの女の子でも……あぁ、そうそう。ちょうどあっちから歩いてくるような小柄なコ。
あのプレイスタイルからは想像できないような可愛い子だったら、俺はなんかのラノベの主人公になった気分になっちゃう。まぁないだろうけど。
自分の想像に小さく笑いながら待っていたら、声をかけられた。
「あのぉ」
鈴の音のように透き通った可愛い声。さっき見てた女の子だ。
「あっ、はい」
視線がバレてなにか咎められるのか? と身構えたら、違った。
「shin-shinさんですか?」
「えっ、はい。え、もしかして……」
「ツブガイです。えっと、リアルでは初めまして」
「は、初めまして。えー」
「中身もおっさんだと思ってましたよね」
「う、はい、すみません」
「全然。そう思われたかったんで、嬉しいです」
ぅわー、かーわいい。身長150センチもないような小柄さ。良く見れば首に黄色いスカーフを巻いてる。声が高くて背が小さくて、小中学生みたい……はっ。
「あの、女性に失礼かもなんですけど」
「はい」
「一緒にいて、案件発生しませんよね……?」
不安になって聞いたら、ツブさんが笑った。
「大丈夫です。これでもお酒飲める年齢です」
「……年上……?」
「あ、ですよね。十代後半から二十代前半って感じ」
「はい、大学入ったばっかで……」
年上だからどうこうってわけじゃないけど、リアルにいるんだ、こういうタイプの人って感じ。
とりあえず近くのファストフード店に入って自己紹介などしつつ、“公式大会に参加するかどうか会議”を開く。
持参した携帯ゲーム機で試しに協力プレイしてみたけど、やっぱり相性いい。
いつもは低音ボイスで聞いてたツブさんの言葉が、今日は地声で聞こえる。すっごい違和感。
割と乱暴な言葉遣いをする人なんだけど、それはあのおっさんの見た目から発される低音ボイスを通してるからしっくりくるわけで、こんな小柄な女性の、透き通るような声が言うと、驚きとかより違和感がすごい。これは僕の先入観によるものなのだろうか。
ワンプレイ終えて一息つく。
「大会って顔バレしますけど、いいんですか?」
「うん、特に隠すような仕事もしてないし……っていうか、いつもと同じでいいよ? 口調」
「いや、さすがに……年上だって知っちゃったんで」
「えー? じゃあこれからゲーム内でもそうやって喋るの?」
「いや、それはムリかも」
「じゃあいいじゃん。これからもチーム組むだろうし、堅苦しいのはナシにしよう」
ねっ、と笑ったその顔は、年上だとは思えないくらい可愛くて、せっかく繋がった縁を切っちゃいたくなくて、ツブさんとチームを組んで大会に出ると決めた。
毎日決まった時間にログインして、大会出場者用のステージで特訓を続ける。
もし優勝できたら、次も、その次も一緒に大会に出られるかもしれない。
密かに憧れているプロゲーマーになれるかもしれない。
ツブさんはゲーム内で相変わらず渋い低音ボイスでガハガハ笑ってるけど、中身はちっこい女性なんだって知ってるからなんだかホッコリしてしまう。
『shin-shinお前、腕上がってんじゃねぇか⁈ 勝つ気充分だなぁ!』
ツブさんが低音ボイスでガハハと笑う。うーん、とってもギャップある。大会でもこのまま行くのかなと想像したら楽しくなって来た。
『一緒に大会出るの楽しみ! 頑張ろうね!』
不意に出て来た素の口調に心臓が跳ねる。
思いがけずできた年上女性の“友達”に、思春期が終わったはずの僕はドギマギさせられるのだった。
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