日々の欠片

小海音かなた

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10/29『今日も明日も明後日も』

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「あれ?」
 コートのポケットの中にあるはずの手袋がない。昨日の雪で濡れちゃったから部屋に干して、そのまま忘れて来たみたい。
「どしたの?」
「ううん? なんでもない、帰ろ」
「うん」
 呼吸が白く見える冬の空。モコモコのコートとマフラーで寒さを防ぐ私と彼。
 きっと二人とも、お互いのことを好きなんだって気づいてるけどなかなか言い出せなくて、でもその関係性も心地よくて……今日も二人で帰り道。
 もうそんなの気にするような関係性じゃないんだけど、ポッケに手を入れるのは態度悪いかなって気になって、寒いけど手をさらして歩く。
 喋りながらしばらく歩いていたら、彼が急に気づいた。
「手袋ないの」
「あ、うん。昨日雪合戦したときに濡れちゃったから干してたんだけど、そのまま忘れてきちゃったみたい」
「なんだ、早く教えてよ」
 彼が言って、左の手袋を外して、貸してくれた。
「ありがとう」
 彼の温もりが残る手袋。冷えた指先に熱が染みる。
「ごめんね、左手……寒いよね」
「こっちは……こうしたいかな」
 彼が私の右手を取って、彼のコートのポッケに入れた。
 冷えた指先を温めるように、彼の指が絡む。
「ヤだったら振りほどいて」
「……だいじょぶ」
「ん」
 嫌なわけないじゃんって言えたら良かったけど、ビックリしすぎて言葉が出てこなかった。

 そんなに体温違わないはずなのに火傷しちゃうんじゃないかってくらい熱く感じて、ドキドキして……チラホラと落ちてきた雪が、赤くなった頬の体温で溶けてしまいそう。
「明日も忘れておいでよ。そしたらまた、手ぇ繋げるから」
「……うん」
 さっきよりも少し近くなった距離。二人だけに聞こえるような小さい声量で会話してると、どうしようもないくらいドキドキして、好きだなぁって……。
 駅まであと少しだけど、もうちょっと、このままでいたいって思う。
 服越しに体温を感じちゃうような距離が、離れてしまうのが寂しくて、なんとなく立ち止まる。
「……どした?」
「……」
 まだ一緒にいたいって言ったら、このままいられるかな。でも寒いし、風邪ひいちゃうかもだし、あんまりわがまま言えないよね。
 なんでもないって言って歩き出す決心がつかなくて、道の端っこで立ち止まったまま。
 彼は私の顔を覗き込んで、言った。
「明日も明後日も、その先もずっと一緒に帰ろう。今日だけじゃないから、大丈夫」
 キュキュキューン! と胸がときめいた。
「うん」
 嬉しさを隠せずに笑顔を浮かべたら、彼も同じように溶けた笑みになった。

 私たちはきっと、お互いのことを好きなんだって気づいてるけどなかなか言い出せなくて、でもその関係性も心地よくて……明日も二人で帰り道。
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