【完結】転生ヒロインと転生(?)悪役令嬢は逆ハーエンドを回避したい! 〜R18禁エンドはごめんです!〜

koromachi

文字の大きさ
58 / 139

早速のお出迎え

しおりを挟む
 二日間馬車に揺られ、ウィルとアンソニーは隣国ブートレット公国に到着した。
 事前に知らせを出していたおかげで、国境には公国の外相が出迎えに来てくれていた。

「ウィリアム王太子殿下、ハートネット公爵令息、ようこそ我がブートレット公国へいらっしゃいました」

「アーゴク侯爵、わざわざお出迎えいただき、ありがとうございます」

「高貴な方をお迎えするのですから、このぐらいは当然ですよ。ささっ、どうぞ我が家の馬車にお乗り換えください」

 ウィルとアンソニーは一瞬目を見合わせたが、すぐににこやかに微笑むと、アーゴク侯爵の誘導に従った。

「せっかくのご好意だしね。大公家の宮殿まで向かう途中、公国の事情もお聞かせいただけるとありがたい」

「あ、わ、私ごときが王太子殿下と同じ馬車に乗るなど畏れ多……」

 ウィルが馬車に乗り込みながら、当然のように言うと、アーゴク侯爵は慌てて後退った。それをアンソニーが笑顔で引き留め、侯爵を同じ馬車の中に押し込む。

「さあ、どうぞ侯爵。ぜひご一緒にお願いいたします」

 アンソニーが後から乗り込み、最後にカリーラン王国の騎士が乗り込むと、馬車の扉を閉めた。

「残りの我が国の騎士達はもう一台ご用意いただいた馬車に乗せていただくことにしよう」

「アーゴク侯爵、何から何までありがとうございます」

「と、とんでもない……」

 ウィルとアンソニーの言葉に、小柄なアーゴク侯爵は汗を拭きながら笑顔を返すのが精一杯だった。



 (ふ、まさか初手から容疑者が接触してくるとはな)

 アグリーの自白によると、粗悪な医薬品と違法薬物の流出元はこのアーゴク侯爵とのことだった。事前に公国に忍ばせていた影達からの報告では、大公家はこのことには無関係で、何も知らないという。

 (恐らく大公家に知られる前に、事故にでも見せかけて葬ろうとでもしたのだろうが。やり方が稚拙だな。さて、直球で攻めてみるか。どこまでボロを出すか)

 ウィルは無邪気を装って、単刀直入に尋ねる。

「ところで、侯爵。ブートレット公国では最近医薬品の開発が進んでいると伺いましたが、費用は公国が負担しているんですか?」

「え、いえ、はい。あの費用については我が侯爵家が全額負担しています」

 アーゴク侯爵は汗を拭き拭き答える。

「侯爵家の全額負担ですか!それはそれは、大変な額になるのでは?」

 アンソニーがさも驚いたと言った顔で尋ねる。

「あ、はあ、そうですね。ですが、必要なことですので……」

「素晴らしいですね。自国のために私財を投じて医薬品の開発を支援されているとは」

「ああ、まあ、ははっ。妻の家が医者の家系でしてね。その繋がりがあるからなんですよ」

 ウィルに手放しで賞賛され、アーゴク侯爵は満更でもない様子で踏ん反り返った。




「「ブートレット大公にご挨拶申し上げます」」

 無事に大公の宮殿に到着したウィルとアンソニーは、謁見の間でブートレット大公夫妻とディミトリ公世子と対面していた。

「ウィリアム王太子殿下、ハートネット公爵令息、どうか気楽にしてくれ。遠路はるばる来て、お疲れだろう」

 人の良さそうなブートレット大公が、にこにこしながら二人に声をかける。

「お気遣い感謝いたします」

 ウィルは立ち上がり、笑顔を見せた。

「ウィリアム!久しぶりだね、会えて嬉しいよ」

 公世子のディミトリが気さくな調子でウィルの名を呼ぶ。

「ディミトリ、私も君に会えるのを楽しみにしていたんだよ」

 ウィルとディミトリは年も近く、お互い世継ぎということもあってか、昔からよく気が合った。

 そんな二人を嬉しそうに見ていた大公夫人が、夫である大公に進言する。

「あなた、殿下達もお疲れでしょう。先にお部屋でゆっくり休んでいただいたら?」

「おお、そうだな。ディミトリも積もる話はあるだろうが、まだこれから時間はたっぷりあるからな」

「そうですね、父上。ウィリアム、今日の夜は君達の歓迎パーティーを開くからね。それまで部屋でゆっくり休んでて。ヒース、お二人を客室にご案内して」

「ブートレット大公、大公夫人、ディミトリ公世子、ありがとうございます。では、お言葉に甘えて、少し部屋で休ませていただきます」

 ウィルとアンソニーは礼儀正しくお辞儀をすると、ヒースと呼ばれた侍従に従い、謁見の間を後にした。


 ====================================


 その頃、アーゴク侯爵家では、侯爵夫妻が揉めていた。

「殺せなかったですって?!この無能!何のためにわざわざ国境まで出向いたのよ!」

「そんなことを言ったって、私まで一緒に馬車に乗せられてしまったら、事故に見せかけることはできないだろう!下手したら私まで死んでしまう」

「ふん!いっそのこと一瞬に死んでしまった方が疑惑の目をそらせて良かったのに!全く使えないのね!」

「そこまで言うことないだろ!」

「あの二人が大公に密告したらうちは破滅よ!どうするのよ!」

「大丈夫だ。今夜、宮殿で歓迎パーティーが開かれる。そこであの薬を使って二人を静かにさせる」

「今度こそ失敗しないでよ!」

「ああ、任せておけ。ブリトニーに二人を誘惑させるのを忘れるなよ」



「お父様、私を呼びましたか?」

 そこに、アーゴク侯爵家の一人娘のブリトニーがやって来た。母親のメアリーに似て、派手な顔つきの美人だったが、品の無いドレスとメイクがケバケバしい。

「おお。我が宝よ。お前のその美貌で隣国の王子達を骨抜きにしてくれ」

「やだわ、お父様ったら。でも、そうね、隣国の王太子はかなりの美青年だと聞くし。今日の夜会が楽しみだわ」

「さあさあ、ブリトニーちゃん、急いで支度を始めないと!」

 メアリーが猫撫で声を出す。

「はーい。ねえ、お母様、私、あのエメラルドのネックレスを着けたいわ」

「はいはい。わかっているわよ」

 妻と娘がかしましく騒ぎながら去って行くのを、アーゴク侯爵は疲れた顔で見送った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

【完結】転生白豚令嬢☆前世を思い出したので、ブラコンではいられません!

白雨 音
恋愛
エリザ=デュランド伯爵令嬢は、学院入学時に転倒し、頭を打った事で前世を思い出し、 《ここ》が嘗て好きだった小説の世界と似ている事に気付いた。 しかも自分は、義兄への恋を拗らせ、ヒロインを貶める為に悪役令嬢に加担した挙句、 義兄と無理心中バッドエンドを迎えるモブ令嬢だった! バッドエンドを回避する為、義兄への恋心は捨て去る事にし、 前世の推しである悪役令嬢の弟エミリアンに狙いを定めるも、義兄は気に入らない様で…??  異世界転生:恋愛 ※魔法無し  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

悪役令嬢に転生するも魔法に夢中でいたら王子に溺愛されました

黒木 楓
恋愛
旧題:悪役令嬢に転生するも魔法を使えることの方が嬉しかったから自由に楽しんでいると、王子に溺愛されました  乙女ゲームの悪役令嬢リリアンに転生していた私は、転生もそうだけどゲームが始まる数年前で子供の姿となっていることに驚いていた。  これから頑張れば悪役令嬢と呼ばれなくなるのかもしれないけど、それよりもイメージすることで体内に宿る魔力を消費して様々なことができる魔法が使えることの方が嬉しい。  もうゲーム通りになるのなら仕方がないと考えた私は、レックス王子から婚約破棄を受けて没落するまで自由に楽しく生きようとしていた。  魔法ばかり使っていると魔力を使い過ぎて何度か倒れてしまい、そのたびにレックス王子が心配して数年後、ようやくヒロインのカレンが登場する。  私は公爵令嬢も今年までかと考えていたのに、レックス殿下はカレンに興味がなさそうで、常に私に構う日々が続いていた。

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

処理中です...