【完結】転生ヒロインと転生(?)悪役令嬢は逆ハーエンドを回避したい! 〜R18禁エンドはごめんです!〜

koromachi

文字の大きさ
66 / 139

クラリスの本命は…?

しおりを挟む
 コンコン。

 ノックの男が聞こえたかと思うと、聞き慣れた優しい声がした。

「失礼します。私です、トニーです」



「は、はい、どうぞ!」

 机に向かっていたクラリスは慌てて返事をすると、ドアへと向かった。だが、クラリスが動くよりも早く、側に控えていたミミがドアを開ける。

「お帰りなさいませ、アンソニー様」

「ああ、ミミ、ありがとう」

「ア、……ト、トニー様、お帰りなさい!」

「アンソニー様、お帰りなさい。予定よりも早くお戻りになったんですね」

「クラリス嬢、フレデリック殿。ただいま戻りました。私のいない間、何か問題はありませんでしたか?」


 ミミに軽く頷くと、アンソニーは優雅な足取りで客室内に入ってきた。

「ミミさんのおかげでとても快適に過ごしております」

「はい、アンソ……トニー様のご配慮のおかげです!」

 いまだにトニー呼びに慣れないクラリスと、いつも冷静なフレデリックが揃って頭を下げる。


「なら良かった。私の方は思いのほか仕事が捗りまして。先ほど王宮に着いたところです」

 にこにこと甘い笑顔を浮かべながら、アンソニーはクラリスの手を引き、ソファへと座らせた。


「首の傷はだいぶ良くなったようですね」

 隣に座り、包帯の取れたクラリスの首をじっと見つめる。

「はい!あれから毎日お医者様に診ていただきましたし、ジャン様からいただいたお薬もとてもよく効いたようです」

 クラリスは少し頬を染めつつ、元気に答えた。

「よかった……熱は上がってませんか?」

 少し離れたところに立つフレデリックを見やって、アンソニーは尋ねた。

「はい。今までのところ、熱もなく、調子を崩すこともありません」

「そうですか。それなら安心ですね」

 アンソニーは心底安心したという顔で微笑むと、クラリスに向き直った。

「クラリス嬢、これはブートレット公国で購入した本です。貴女へのお土産です」

 途端に甘い空気を醸し出しながら、アンソニーは一冊の本をクラリスへ差し出した。

「え……!これは、ルーマン語の本ですか……!」

「さすがはクラリス嬢。その通りです。以前古語に興味があると話されていたでしょう?こちらの本は装丁も美しく、きっとお気に召すのではないかと思って」

「この本を貸していただけるんですか?!嬉しい……ありがとうございます!」

「ふふ、貸すなどと。言ったでしょう、お土産ですよ。貴女の物です」

「え!で、ですが、こんな高価な物……貸していただけるだけでももったいないぐらいなのに……」

 クラリスは受け取った本をアンソニーの手に戻そうとするが、当然アンソニーは受け取らない。

 優しくクラリスの手を押し返しながら、アンソニーは更に魅力的な提案をした。

「クラリス嬢、この本を読んだらぜひ感想を聞かせてください。そして、今度一緒にブートレット公国に残る、ルーマン時代の遺跡を見に行きましょう」

「ルーマン時代の遺跡……!ぜひ見てみたいです!」

 思いがけない提案にクラリスは目をキラキラさせながら大きく頷いた。

「ふふふ。約束ですよ?」

 頬を紅潮させて瞳を輝かせるクラリスを、兄のフレデリックは複雑な気持ちで見つめていた。



「このままずっとクラリス嬢のそばにいたい所ですが、これから所用でまた出かけなければなりません。また明日、お顔を見に来ますね。もちろん何か困ったことがあれば、いつでも私に言ってくださいね」

「まあ、隣国の視察からお戻りになったばかりなのに、お忙しいのですね」

 驚くクラリスの手を取り、立ち上がると、アンソニーはクラリスの手に軽くキスを落としてにっこりと笑った。

「もう少ししたら仕事が片付いて落ち着くはずです。そうしたら、一番に遺跡を見にお連れしますので」

 片目をつぶって去って行くアンソニーの後ろ姿をクラリスはポーッと見つめていた。




 アンソニーが去り、静かになった部屋で、フレデリックは躊躇いながらクラリスに聞いた。

「なあ、クラリス、お前、アンソニー様のことが好きなのか……?」

「……え!お、お、お兄ちゃん、な、何言ってるの!」

「いや、お前を見ているとそんな風に思えてな……」

「そ、そんなことあるわけないじゃないの!ア、アンソニー様は、公爵家の方よ!私とは住む世界の違う人だわ……」

 必死に否定するクラリスに少し悲しそうな、でも、優しい目を向けながら、フレデリックは続けた。

「お前の気持ちを否定はしない。だが、アンソニー様だけでなく、エラリー様もポールもお前の事を好いているのは間違いないからな。俺は……俺としては、ポールと一緒になった方がお前は幸せになれるんじゃないかと思っている」

「お兄ちゃん……」

「アンソニー様もエラリー様も素晴らしい方だ。貴族なのに驕ることもなく、誰に対しても公平で誠実な対応をされる。しかし、平民のお前が嫁ぐとなれば話は別だ。彼らの気持ちだけで済む話ではない」

「……」

「っ、すまない、お前にそんな顔をさせたかったわけじゃないんだ」

 黙って俯いてしまったクラリスを見て、フレデリックは慌てて弁解した。

「ううん、大丈夫よ。心配しないで、お兄ちゃん。私、もう子供じゃないのよ。ちゃんとわかってるわ」

 兄を心配させまいとクラリスは明るい声で言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

【完結】転生白豚令嬢☆前世を思い出したので、ブラコンではいられません!

白雨 音
恋愛
エリザ=デュランド伯爵令嬢は、学院入学時に転倒し、頭を打った事で前世を思い出し、 《ここ》が嘗て好きだった小説の世界と似ている事に気付いた。 しかも自分は、義兄への恋を拗らせ、ヒロインを貶める為に悪役令嬢に加担した挙句、 義兄と無理心中バッドエンドを迎えるモブ令嬢だった! バッドエンドを回避する為、義兄への恋心は捨て去る事にし、 前世の推しである悪役令嬢の弟エミリアンに狙いを定めるも、義兄は気に入らない様で…??  異世界転生:恋愛 ※魔法無し  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

悪役令嬢に転生するも魔法に夢中でいたら王子に溺愛されました

黒木 楓
恋愛
旧題:悪役令嬢に転生するも魔法を使えることの方が嬉しかったから自由に楽しんでいると、王子に溺愛されました  乙女ゲームの悪役令嬢リリアンに転生していた私は、転生もそうだけどゲームが始まる数年前で子供の姿となっていることに驚いていた。  これから頑張れば悪役令嬢と呼ばれなくなるのかもしれないけど、それよりもイメージすることで体内に宿る魔力を消費して様々なことができる魔法が使えることの方が嬉しい。  もうゲーム通りになるのなら仕方がないと考えた私は、レックス王子から婚約破棄を受けて没落するまで自由に楽しく生きようとしていた。  魔法ばかり使っていると魔力を使い過ぎて何度か倒れてしまい、そのたびにレックス王子が心配して数年後、ようやくヒロインのカレンが登場する。  私は公爵令嬢も今年までかと考えていたのに、レックス殿下はカレンに興味がなさそうで、常に私に構う日々が続いていた。

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

処理中です...