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ご褒美をあげよう
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「おお、解毒剤ができたか!」
王の執務室には国王と宰相の他に、ウィル、アンソニー、オストロー公爵、ドットールー侯爵が揃っていた。
「はい。アリス嬢とクラリス嬢のご協力のおかげで、思っていたよりもだいぶ早く完成させることができました」
国王の言葉にドットールー侯爵が答えた。
あれから数ヶ月が経ち、無事に違法薬物に対する解毒剤が完成していた。一番最初の完成品を国王へ献上するべく、オストロー公爵とドットールー侯爵は王宮へ来ていた。
「完成にはジャンの尽力もあったと聞いているが」
「確かにジャンの協力もありましたが、一番の功労者はクラリス嬢の持つ抗体の可能性に気づいたアリス嬢と、研究にこころよく協力してくれたクラリス嬢のお二人です」
「そうか。いずれにしても、若い才能のおかげで最悪の事態は免れたわけだ」
「ええ。わが娘は優秀ですから!」
「はい。私の未来の妻は大変優秀ですから」
オストロー公爵とウィルの声が重なった。
「……殿下、アリスは我が公爵家の宝です。まだ未婚です!これから先も当分嫁ぐ予定はありません!」
「何をおっしゃる、義父上殿。あと一年もすれば、アリスは私の妻になるのですから」
美形同士が黒い笑顔を浮かべながら、互いを牽制し合う。
「コホン。お言葉ですが、お二人とも。今回の一番の功労者はクラリス嬢で間違いないかと。あの細い身体からあんなにたくさんの血液を採取されたのですから!」
そこにアンソニーが加わる。
「……アランよ。今日は褒美をどうするか話し合うはずだったな」
「……そのはずでしたが……アリス嬢とクラリス嬢に直接話した方が早そうですな」
収拾がつかなくなってきた男達を見つめながら、国王と宰相は遠い目をした。
==========================
「ご褒美?」
「ご褒美ですか?」
「うん。陛下が何でも好きなものを言ってくれって」
いつものように食堂で昼食を取りながら、アリスとクラリスのハモリにジャンが答えた。
「僕はもう決めてるけど。アリスとクラリス嬢は何にする?」
「ウィル様は特に何もおっしゃっていなかったけど、どうしてジャンが?」
アリスが不思議そうに尋ねる。
「それがさあ、父上が陛下から頼まれたみたいでさ。アリスとクラリス嬢の希望も聞いておいてくれって」
今日はブートレット公国のディミトリが王宮にやってくるということで、ウィルとアンソニーは出迎えのために学園を欠席していた。
「まあ、陛下が?」
「うん。解毒剤完成のご褒美だって」
「そりゃいいな。クラリス、とびきり高価な物をねだったらどうだ?あんなに血を取られたんだしな」
ポールが楽しそうに言う。
「高価な物って。特に必要ないじゃない」
クラリスが少し呆れた声を出す。
「さすがはクラリス嬢。欲がないのだな」
エラリーが隣で驚いた顔をするが、クラリスは首を振る。
「欲がないわけではありません。ただ、身の丈に合わない高価なものを必要としていないだけです」
「別に形のあるものじゃなくても大丈夫だよ。例えば、王宮に自由に出入りできる権利とか」
「そう言うジャンは何を望むんですの?」
アリスがジャンに聞いた。
「僕?僕はね、王宮の科学研究所を自由に使える権利をお願いするよ」
「まあ!それは素晴らしいですわね!私も同じ権利をお願いしようかしら」
アリスの眼が輝いた。
「あ!それなら、私もお願いしたいことが……」
「うん?何?」
ジャンの言葉を聞いて、クラリスも思いついたように言った。
「私、もしできれば、一度でいいから王宮の図書室を利用してみたかったんです!学園の図書館にもない貴重な本がたくさん収められているとお聞きしました」
「図書室と研究室ね!了解!父上から陛下にお伝えしていただくね」
ジャンがにっこり笑った。
「……クラリス、王宮に行きたいのか?」
ポールが少し心配そうに言う。
「え?王宮に行きたいわけじゃなくて、図書室に行きたいだけよ?」
ポールの様子にクラリスが首を傾げた。
「……」
ポールの顔は晴れない。
「ポールはクラリス嬢が王宮に行くと、アンソニーに会う機会が増えるかもしれないって心配なんでしょ」
ジャンがズバリと言う。
「……そうだ。ただでさえ、クラリスとアンソニーは生徒会の仕事でも一緒になることが多くて心配なのに」
「……確かにそうだな。あれ以来、アンソニーのクラリス嬢に対する態度がますます甘くなっているし」
ジャンの言葉にポールだけでなく、エラリーも頷いた。
王宮の客室でクラリスを囲んで睨み合って以来、三人によるクラリス争奪戦は激しくなっていた。
中でもアンソニーがその立場を存分に利用して、クラリスにグイグイ迫っているのをポールもエラリーも歯噛みしながら見ていたのだった。
「もう!そんな風に言われるなら、ご褒美は辞退します!」
二人の言葉に、クラリスが少しむくれる。
「悪い、悪い、そんなつもりじゃなかったんだ」
「クラリス嬢、すまない、褒美はクラリス嬢の権利だ。遠慮せずに受け取ってくれ!」
ポールとエラリーが慌てて取り繕った。
「じゃあ、話は決まりでいい?ま、僕に任せておいてよ」
ジャンがいい笑顔で微笑んだ。
王の執務室には国王と宰相の他に、ウィル、アンソニー、オストロー公爵、ドットールー侯爵が揃っていた。
「はい。アリス嬢とクラリス嬢のご協力のおかげで、思っていたよりもだいぶ早く完成させることができました」
国王の言葉にドットールー侯爵が答えた。
あれから数ヶ月が経ち、無事に違法薬物に対する解毒剤が完成していた。一番最初の完成品を国王へ献上するべく、オストロー公爵とドットールー侯爵は王宮へ来ていた。
「完成にはジャンの尽力もあったと聞いているが」
「確かにジャンの協力もありましたが、一番の功労者はクラリス嬢の持つ抗体の可能性に気づいたアリス嬢と、研究にこころよく協力してくれたクラリス嬢のお二人です」
「そうか。いずれにしても、若い才能のおかげで最悪の事態は免れたわけだ」
「ええ。わが娘は優秀ですから!」
「はい。私の未来の妻は大変優秀ですから」
オストロー公爵とウィルの声が重なった。
「……殿下、アリスは我が公爵家の宝です。まだ未婚です!これから先も当分嫁ぐ予定はありません!」
「何をおっしゃる、義父上殿。あと一年もすれば、アリスは私の妻になるのですから」
美形同士が黒い笑顔を浮かべながら、互いを牽制し合う。
「コホン。お言葉ですが、お二人とも。今回の一番の功労者はクラリス嬢で間違いないかと。あの細い身体からあんなにたくさんの血液を採取されたのですから!」
そこにアンソニーが加わる。
「……アランよ。今日は褒美をどうするか話し合うはずだったな」
「……そのはずでしたが……アリス嬢とクラリス嬢に直接話した方が早そうですな」
収拾がつかなくなってきた男達を見つめながら、国王と宰相は遠い目をした。
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「ご褒美?」
「ご褒美ですか?」
「うん。陛下が何でも好きなものを言ってくれって」
いつものように食堂で昼食を取りながら、アリスとクラリスのハモリにジャンが答えた。
「僕はもう決めてるけど。アリスとクラリス嬢は何にする?」
「ウィル様は特に何もおっしゃっていなかったけど、どうしてジャンが?」
アリスが不思議そうに尋ねる。
「それがさあ、父上が陛下から頼まれたみたいでさ。アリスとクラリス嬢の希望も聞いておいてくれって」
今日はブートレット公国のディミトリが王宮にやってくるということで、ウィルとアンソニーは出迎えのために学園を欠席していた。
「まあ、陛下が?」
「うん。解毒剤完成のご褒美だって」
「そりゃいいな。クラリス、とびきり高価な物をねだったらどうだ?あんなに血を取られたんだしな」
ポールが楽しそうに言う。
「高価な物って。特に必要ないじゃない」
クラリスが少し呆れた声を出す。
「さすがはクラリス嬢。欲がないのだな」
エラリーが隣で驚いた顔をするが、クラリスは首を振る。
「欲がないわけではありません。ただ、身の丈に合わない高価なものを必要としていないだけです」
「別に形のあるものじゃなくても大丈夫だよ。例えば、王宮に自由に出入りできる権利とか」
「そう言うジャンは何を望むんですの?」
アリスがジャンに聞いた。
「僕?僕はね、王宮の科学研究所を自由に使える権利をお願いするよ」
「まあ!それは素晴らしいですわね!私も同じ権利をお願いしようかしら」
アリスの眼が輝いた。
「あ!それなら、私もお願いしたいことが……」
「うん?何?」
ジャンの言葉を聞いて、クラリスも思いついたように言った。
「私、もしできれば、一度でいいから王宮の図書室を利用してみたかったんです!学園の図書館にもない貴重な本がたくさん収められているとお聞きしました」
「図書室と研究室ね!了解!父上から陛下にお伝えしていただくね」
ジャンがにっこり笑った。
「……クラリス、王宮に行きたいのか?」
ポールが少し心配そうに言う。
「え?王宮に行きたいわけじゃなくて、図書室に行きたいだけよ?」
ポールの様子にクラリスが首を傾げた。
「……」
ポールの顔は晴れない。
「ポールはクラリス嬢が王宮に行くと、アンソニーに会う機会が増えるかもしれないって心配なんでしょ」
ジャンがズバリと言う。
「……そうだ。ただでさえ、クラリスとアンソニーは生徒会の仕事でも一緒になることが多くて心配なのに」
「……確かにそうだな。あれ以来、アンソニーのクラリス嬢に対する態度がますます甘くなっているし」
ジャンの言葉にポールだけでなく、エラリーも頷いた。
王宮の客室でクラリスを囲んで睨み合って以来、三人によるクラリス争奪戦は激しくなっていた。
中でもアンソニーがその立場を存分に利用して、クラリスにグイグイ迫っているのをポールもエラリーも歯噛みしながら見ていたのだった。
「もう!そんな風に言われるなら、ご褒美は辞退します!」
二人の言葉に、クラリスが少しむくれる。
「悪い、悪い、そんなつもりじゃなかったんだ」
「クラリス嬢、すまない、褒美はクラリス嬢の権利だ。遠慮せずに受け取ってくれ!」
ポールとエラリーが慌てて取り繕った。
「じゃあ、話は決まりでいい?ま、僕に任せておいてよ」
ジャンがいい笑顔で微笑んだ。
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