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暴走の顛末
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「ウィル様、いったい何をやらかしたんですか……?」
「……ちょっと、アリスを愛で過ぎてしまっただけだ」
「『ちょっと』ですか……」
「そう言うお前こそ、クラリス嬢に何をした」
「……少し、距離を縮め過ぎてしまっただけです」
「『少し』ね……」
======================
研究室に到着すると、アリスはエスコートされていたウィルの手をさっさと放し、自前の白衣を羽織ると、長い黒髪を後ろでさっと一つ結びにした。
その流れるような仕草の美しさと、普段見ることのない研究者としてのキリッとした横顔にウィルは見惚れた。
だが、アリスはウィルの存在を完全に忘れてしまったかのように、各機材の手引書を探し出し、熟読した後、ウィルそっちのけで実験の準備をし始めた。
しばらくの間は、その様子をにこやかに見守っていたウィルだったが、アリスの次の言葉に、そのまとうオーラが一変した。
「あら?ウィル様?まだいらっしゃったんですの?」
「……アリス。研究に没頭する君も美しくていいが、私の存在を忘れてしまうのはいただけないな。今日は君の実験に付き合うつもりで、仕事は朝のうちに片付けて来たと言っただろう?」
どことなく黒い笑顔を浮かべながら、ウィルはアリスの隣に立った。
「あ、あら、そうでしたかしら?では、ウィル様も白衣を着ていただいた方がいいですわね」
そう言ってアリスは備え付けの消毒済みの白衣をウィルに差し出した。
「着せてくれないか」
「え?」
ウィルはにっこりと笑うとアリスに背中を向けた。
「え?着せるも何も……」
「さあ早く」
「もう!わかりました!」
観念したアリスは白衣を手にウィルの背後にまわった。
「上着は脱がれた方がいいと思いますが」
「じゃあ脱がせてくれ」
「~~!」
「ああ、この方が脱がしやすいかな」
言ってウィルは回れ右してアリスと向かい合う。ウィルのすぐ後ろに立っていたアリスは突然の接近に焦った。
「なっなっ……無理です!ご自分でお願いいたします!」
真っ赤になったアリスはウィルに白衣を押し付けると、すかさずウィルと距離を取る。
「ふふ。私の愛しい婚約者は随分と照れ屋なんだね」
満足そうに笑いながら自身で白衣に着替えるウィルをアリスはキッと睨みつけるが、ウィルは全く動じない。どころか、上着を片付けると、先ほどよりも更にアリスの側に寄って立った。
「ウィ、ウィル様、近すぎます!こんなに近いと動きにくいです!」
「そうかい?ならこうしようか?」
アリスの訴えに、ウィルは距離を取るどころか、アリスの背後から覆い被さるようにピタリとくっついた。
「>#|€#]++£€>%€$$!!?!」
「これなら私の手も君の手と同じように使えるだろう?さあ、好きなように使ってくれて構わないよ」
耳元でウィルの嬉しそうな声が聞こえるが、あまりの密着度に、アリスは混乱し過ぎて突っ込みが追いつかない。
「ん?どうしたのかな?」
すっかり固まってしまったアリスの顔を、ウィルは後ろから覗き込んで驚いた。
「!」
そこには、顔を真っ赤にしてプルプルと震えながら、涙目でウィルを睨みつけるアリスがいた。
「アリス……駄目だよ、そんな顔を見せては……可愛すぎてもっと泣かせたくなってしまうじゃないか」
そう言うと、ウィルはアリスの唇を自身の唇でふさいだ。
「!!」
驚いたアリスはウィルの腕から逃れようとするが、ウィルの力にかなうはずもなく、全く身動きが取れない。
「ん!ん!ん!」
だんだんと息苦しくなってきたアリスが、必死にウィルの胸を叩く。察したウィルがようやくアリスの唇を放した。
「ふあっっ」
「ふふ、アリスはまだキスに慣れていないんだね。鼻で息をするんだよ」
嬉しそうに言うウィルを、アリスは涙目のまま睨みつける。
「ウィル様!突然何をなさいますの!放してください!」
「ああ、アリス。その目がたまらないんだよ。私の理性を試しているのかな?」
プルプルと震えながらも強気な態度を崩さないアリスに、ウィルの嗜虐性が刺激される。
「ちょ、ちょっと、ウィル様?!」
ウィルはアリスを横抱きにして移動し、空いている机の上に座らせると、アリスの身体を押し倒すように密着した。
「な、何を?!」
「アリスが悪いんだよ。そんな可愛らしい顔で私を煽るから」
「あ、煽るなんて……」
「いつもと違う白衣姿にまとめ髪もだいぶくるものがあったが……そんな真っ赤な顔で、しかも涙目で睨まれては、もう我慢できないよ」
ウィルはアリスの体の両側に手をついて、逃げ場を奪うと、再び唇を奪った。
口づけがどんどん深くなっていき、ウィルの手がアリスの髪を結ぶリボンを外す。アリスのサラサラの黒髪が机の上に広がった。
「ん!ん!ん!」
アリスの手がウィルの胸をドンドン叩くのを受けて、ウィルはアリスを解放した。
「アリス、だから言っただろう?鼻で息をしないと……」
一瞬身体が離れた隙に、アリスはウィルを押し退けて、研究室を飛び出した。
=======================
「……それのどこが『ちょっと』なんですか」
研究室での一部始終を聞いたアンソニーが呆れた顔で声を上げた。
「だが、アリスは本気で嫌がってはいなかったぞ」
ウィルが不貞腐れた顔を見せる。
「まあ、アリス嬢が本気で嫌がったなら、今頃オストロー公爵が大喜びで婚約破棄の手続きをされているでしょうからね」
「うっ」
「いくら嫌がっていないからと言っても、まだ婚姻前なのですから節度のある距離を……」
「じゃあ、クラリス嬢のあの真っ赤な顔は誰のせいだ」
「あ、あれは、クラリス嬢があまりに無防備で可愛らし過ぎて、つい気持ちが抑えられず……で、ですが、クラリス嬢からは嫌ではないという言葉が聞けそうだったのです!」
「聞けそうだったとは、聞けなかったということか?」
「……いい所でアリス嬢が入って来られて……」
ウィルとアンソニーは顔を見合わせると、深いため息をついた。
「謝罪に行かねばな……」
「そうですね……ひとまず庭園の花を選びに行きますか?」
「ああ。あまり時間を空けない方がいいだろう」
「急ぎましょう!」
二人は慌てて図書室を後にした。
「……ちょっと、アリスを愛で過ぎてしまっただけだ」
「『ちょっと』ですか……」
「そう言うお前こそ、クラリス嬢に何をした」
「……少し、距離を縮め過ぎてしまっただけです」
「『少し』ね……」
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研究室に到着すると、アリスはエスコートされていたウィルの手をさっさと放し、自前の白衣を羽織ると、長い黒髪を後ろでさっと一つ結びにした。
その流れるような仕草の美しさと、普段見ることのない研究者としてのキリッとした横顔にウィルは見惚れた。
だが、アリスはウィルの存在を完全に忘れてしまったかのように、各機材の手引書を探し出し、熟読した後、ウィルそっちのけで実験の準備をし始めた。
しばらくの間は、その様子をにこやかに見守っていたウィルだったが、アリスの次の言葉に、そのまとうオーラが一変した。
「あら?ウィル様?まだいらっしゃったんですの?」
「……アリス。研究に没頭する君も美しくていいが、私の存在を忘れてしまうのはいただけないな。今日は君の実験に付き合うつもりで、仕事は朝のうちに片付けて来たと言っただろう?」
どことなく黒い笑顔を浮かべながら、ウィルはアリスの隣に立った。
「あ、あら、そうでしたかしら?では、ウィル様も白衣を着ていただいた方がいいですわね」
そう言ってアリスは備え付けの消毒済みの白衣をウィルに差し出した。
「着せてくれないか」
「え?」
ウィルはにっこりと笑うとアリスに背中を向けた。
「え?着せるも何も……」
「さあ早く」
「もう!わかりました!」
観念したアリスは白衣を手にウィルの背後にまわった。
「上着は脱がれた方がいいと思いますが」
「じゃあ脱がせてくれ」
「~~!」
「ああ、この方が脱がしやすいかな」
言ってウィルは回れ右してアリスと向かい合う。ウィルのすぐ後ろに立っていたアリスは突然の接近に焦った。
「なっなっ……無理です!ご自分でお願いいたします!」
真っ赤になったアリスはウィルに白衣を押し付けると、すかさずウィルと距離を取る。
「ふふ。私の愛しい婚約者は随分と照れ屋なんだね」
満足そうに笑いながら自身で白衣に着替えるウィルをアリスはキッと睨みつけるが、ウィルは全く動じない。どころか、上着を片付けると、先ほどよりも更にアリスの側に寄って立った。
「ウィ、ウィル様、近すぎます!こんなに近いと動きにくいです!」
「そうかい?ならこうしようか?」
アリスの訴えに、ウィルは距離を取るどころか、アリスの背後から覆い被さるようにピタリとくっついた。
「>#|€#]++£€>%€$$!!?!」
「これなら私の手も君の手と同じように使えるだろう?さあ、好きなように使ってくれて構わないよ」
耳元でウィルの嬉しそうな声が聞こえるが、あまりの密着度に、アリスは混乱し過ぎて突っ込みが追いつかない。
「ん?どうしたのかな?」
すっかり固まってしまったアリスの顔を、ウィルは後ろから覗き込んで驚いた。
「!」
そこには、顔を真っ赤にしてプルプルと震えながら、涙目でウィルを睨みつけるアリスがいた。
「アリス……駄目だよ、そんな顔を見せては……可愛すぎてもっと泣かせたくなってしまうじゃないか」
そう言うと、ウィルはアリスの唇を自身の唇でふさいだ。
「!!」
驚いたアリスはウィルの腕から逃れようとするが、ウィルの力にかなうはずもなく、全く身動きが取れない。
「ん!ん!ん!」
だんだんと息苦しくなってきたアリスが、必死にウィルの胸を叩く。察したウィルがようやくアリスの唇を放した。
「ふあっっ」
「ふふ、アリスはまだキスに慣れていないんだね。鼻で息をするんだよ」
嬉しそうに言うウィルを、アリスは涙目のまま睨みつける。
「ウィル様!突然何をなさいますの!放してください!」
「ああ、アリス。その目がたまらないんだよ。私の理性を試しているのかな?」
プルプルと震えながらも強気な態度を崩さないアリスに、ウィルの嗜虐性が刺激される。
「ちょ、ちょっと、ウィル様?!」
ウィルはアリスを横抱きにして移動し、空いている机の上に座らせると、アリスの身体を押し倒すように密着した。
「な、何を?!」
「アリスが悪いんだよ。そんな可愛らしい顔で私を煽るから」
「あ、煽るなんて……」
「いつもと違う白衣姿にまとめ髪もだいぶくるものがあったが……そんな真っ赤な顔で、しかも涙目で睨まれては、もう我慢できないよ」
ウィルはアリスの体の両側に手をついて、逃げ場を奪うと、再び唇を奪った。
口づけがどんどん深くなっていき、ウィルの手がアリスの髪を結ぶリボンを外す。アリスのサラサラの黒髪が机の上に広がった。
「ん!ん!ん!」
アリスの手がウィルの胸をドンドン叩くのを受けて、ウィルはアリスを解放した。
「アリス、だから言っただろう?鼻で息をしないと……」
一瞬身体が離れた隙に、アリスはウィルを押し退けて、研究室を飛び出した。
=======================
「……それのどこが『ちょっと』なんですか」
研究室での一部始終を聞いたアンソニーが呆れた顔で声を上げた。
「だが、アリスは本気で嫌がってはいなかったぞ」
ウィルが不貞腐れた顔を見せる。
「まあ、アリス嬢が本気で嫌がったなら、今頃オストロー公爵が大喜びで婚約破棄の手続きをされているでしょうからね」
「うっ」
「いくら嫌がっていないからと言っても、まだ婚姻前なのですから節度のある距離を……」
「じゃあ、クラリス嬢のあの真っ赤な顔は誰のせいだ」
「あ、あれは、クラリス嬢があまりに無防備で可愛らし過ぎて、つい気持ちが抑えられず……で、ですが、クラリス嬢からは嫌ではないという言葉が聞けそうだったのです!」
「聞けそうだったとは、聞けなかったということか?」
「……いい所でアリス嬢が入って来られて……」
ウィルとアンソニーは顔を見合わせると、深いため息をついた。
「謝罪に行かねばな……」
「そうですね……ひとまず庭園の花を選びに行きますか?」
「ああ。あまり時間を空けない方がいいだろう」
「急ぎましょう!」
二人は慌てて図書室を後にした。
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