『義妹が自称ヒロインとやらに取り憑かれているようです。どうしたら良いのでしょう?』というお手紙を頂きましたので。

黒田悠月

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 いつもながらのくだらないやり取りと少女の甘ったるい声音とやたら間延びした語尾に軽い頭痛がする。

 正直、こういう女は生理的に受け付けない。
 
――ほら、鳥肌が立ってるからっ!!

 ゾワゾワする二の腕を擦っていると、「クルップ~」と可愛らしい鳴き声が頭上から聞こえた。

「…………」
「クルクル」

 私は聞こえないふりで腕を擦りながら窓の外を眺め続ける。

「おい」

 他人に「おい」とか声かける人は知りません。
 相手しません。

「クックル~?」

 聞こえない~っ!!
 半ば意地になって顔を向けずにいると、ヒョコっと目の前の窓枠に立派な鷲が着地した。
 迫力のある眼光と鋭い嘴と相反した可愛らしい鳴き声を上げてぽて、と私を見つめながら首を傾げる。

「……カワユス」

 なにコレ。めっちゃかわゆい。
 どっちかっていうと見た目厳ついのに、超可愛い。

「ずるいですわよ……」

 何故だか負けた気分になりながら、ため息まじりに口を開く。それでも顔を向けないのは私はちょん、と鷲の嘴を指で突付いた。

「クルルッ」

 と鷲が喉を鳴らす。

(…………相変わらずなんで鷲なのに鳩みたいに鳴くのかしら)

 もっとも鷲を近くで見かけたことなんてこれまでろくにない私は、だったら本来はどう鳴くのか、など知らないのだけど。

 だがきっと、もっとそれっぽく迫力ある系の鳴き方をしそうだとは思う。
 「ピイッ!」とかだろうか。


「何かご用ですか?」
「……わかってるだろう」
「さあ?」

 何をわかっていると?と言わんばかりにそう返す私。
 凄まじく既視感のあるやり取りである。
 それも当然で、もう片手の指では足りない回数、繰り返しているのやり取りだ。

(いい加減しつこいわね)

 男のくせに、というのは偏見だろうか。
 だがそろそろ諦めてほしい。

 そして恨むなら私ではなく自分自身の運の無さにしていただきたい。
 私よりも教室の位置が致命的に遠いという現実を。

 だいたい授業が同じ時間に終わればそりゃあ教室の位置が近い方が先に目的地にたどり着く。たとえ男女間の足の長さに差があろうと歩幅に差があろうと筋肉量の違いによって歩くスピードが異なろうと、それらを上回る距離というハンデがあれば負ける。

 何度繰り返しても結果は同じ。

 私は先にこの馬車にたどり着いてこの席に座る。
 なので後から来た彼がこの席に座れないのは必然。
 
(だいたい、ね) 

「いつも言っていることですが、他の席がいくつも……いえほとんど全部空いておりますよね?」

 隣だって後ろだって、少し離れたテーブル席だって。
 この学園には図書室が二つあって、大多数の生徒がこちらではない方を利用する。
 通常、授業の参考にされるような学術書の類や、趣味や小説の類は、新校舎にある大図書室に保管されている。
 一方、一年の教室もある旧校舎のこちら――小図書室に保管されているのはどうにもマニアックな類の専門書が幅を利かせている。
 今ではとんと使われなくなって久しい旧時代の詠唱魔術の教本だとか、だ。
 設備も古く椅子は少し体重をかけるとギシギシ軋む。

 蔵書の管理状態もよろしくないのか、単に古書が多いためか、室内は常にほのかにカビ臭く…………私がこの図書室で見た生徒の最高人数は四人。たいていは司書を入れて私含め三人。

 司書、私、そしていつも鷲を肩に乗せた男子生徒――アルトゥル・ガデウィン。

 ただいま私に話掛けてきている諦めの悪い男、である。


 
 





 
 
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