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布石の一つ。
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フィムは自身の記憶にあるものに模倣することができる。
ただし人間と同じでその記憶は少しずつ曖昧に薄れていくもので。
人間のような複雑な生物に模倣する場合、できるだけ直前にしっかりと姿形を記憶する必要がある。
私のような近しい人間であれば大丈夫らしいけど。
私は窓の外のちょうど私と似通った年代の女性をターゲットに絞ってガン見する。
馬車が走っているので、ちょっと難しい。
と思っていたらちょうど馬車が止まった。
(……チャンス!)
どうして止まったのかは謎だけど、とにかくじっくり観察するチャンスだ。
私は一人の女性をじっくりと見つめる。
長い焦げ茶色の髪にそれより薄い金茶の瞳。
白いブラウスに黄色いフレアスカート。
足元はスカートと同じ色味の低めのヒール。
手には麻布の袋。
下級貴族の令嬢か金持ち商人の娘といったところだろう。
王都には二ヶ所の外門がある。
実際には有事の際に使用される門が他にもいくつかあるんだけど、通常使用されているのは庶民や商人、旅人が使用する南西門。
貴族や教会関係者が使用する南東門。
これが教会の馬車であることと、辺りの風景からして、ここは南東門を抜けてすぐの商店街だと思われる。
下級貴族や商人たちが買い物に訪れる場所だ。
広い街路の両端には雑貨屋や服屋、武具から魔法具にアクセサリー屋と様々な店が軒を連ねている。
売っているものは庶民が買うには高級だけど、上位貴族が買うには安価なもの。
上位貴族は店に訪れて買い物するってことがないからね。
「……フィム、どう?」
『大丈夫です。覚えました』
こっそりフィムに問いかけると、頭の中にフィムの声が聞こえてくる。
「……じゃ、準備はOKだね」
私は女性から目を離して馬車の前を覗いた。
馬車が止まったのは、人に止められたからのようだ。
馬に跨がった兵士らしい人物が御者台に向けて何やら話しかけている。
(……何かしら?)
貴族令嬢が馬車の窓を開けて顔を出すなんて、はしたない行いだ。
だから、我慢するしかない。
(気になるけどー)
教会の馬車を止めるなんて、普通ないからね。
と、思いつつなかなか動き出さない馬車にソワソワしていると、視界の隅、上の方に黒いものが見えた。
見覚えのある巨大な鴉。
ゆっくりと空から近付いてくる嘴には小さな巾着袋と紙のようなものをくわえている。
私はそっと御者に気づかれないように窓を少し開けた。
数枚の羽とともにその隙間から袋と紙が落とされる。
離れていく暗綺さんに手を振って、窓を閉める。
膝の上に落ちた袋と紙を拾うと、袋は少しだけ以前より軽くなり、紙にはお世辞にもキレイでない字で
なにやら書かれていた。
小さな巾着袋は私が暗綺さんに預けたものだ。
中身はお金。
依頼料として全て受け取ってもらう予定だったのだけれど。
依頼料といっても暗綺さんにでもその主人にでもない。
散々ストーカーをしかもおそらくは現在進行形で行っている人にやるお金なんぞない。
勝手に人の周りをうろうろしてるんだから、ちょっとくらい利用させてもらってもいいよね!
私が依頼料を渡そうとしたのは、冒険者三人組。
カノンに唆されて白王を襲い、結果として私が命を助けた三人である。
教会に三人の罪の軽減を認めさせたあの後、私は暗綺さんに頼んできちんと三人が解放されたか確認してもらったのだ。
教会が私の条件をちゃんと守るなんて、信用はできないから。
いざとなれば三人をできる限り助けてもらうこともついでに頼んでみた。
一応条件は守られたみたいで、三人はグランファリアでの冒険者資格の剥奪と一月以内の国外退去を言い渡され解放されたようだ。
ただし背後からいかにも怪しげな男たちがくっついていたらしい。
『そっちはワイが処理しといたでー!』
らしい。
どう処理したのかはあまり考えないでおこう。
ちなみにそれらは紙に書かれていた。
どうやら報告書だったらしい。
どうやって書いたのだか。
ミミズののたうちまくった字の様子からして嘴にペンをくわえて書いたのかも。だとしたら器用だ。
私は続けて書かれた文字を解読して、唇を笑みの形に歪めた。
「フィム、依頼は上手く受けてもらえたみたいよ」
しかも、依頼料は一部の経費だけしか受け取らなかったらしい。
命の恩人から金は取れない、だそうな。
彼らが真実依頼を遂行するかはわからないけれど。
と、いうか、暗綺さんだってどこまで信頼できるものか知れないしね。
適当なことを書いてるだけで、実は確認なんかしてないかも知れない。
だとしてもとりあえずは問題ない。
これはあくまでも布石の一つ。
上手くいけば時間を稼げる稼げるってだけの話だから。
(……おや?)
私は何気に紙を裏返して、そこに書かれた短い文章に目を止める。
『カノン失踪。行方不明。教会も把握してない』
(これは、ラッキーというべきなのかしらね?)
私は複雑な気分でその文を指でなぞった。
ただし人間と同じでその記憶は少しずつ曖昧に薄れていくもので。
人間のような複雑な生物に模倣する場合、できるだけ直前にしっかりと姿形を記憶する必要がある。
私のような近しい人間であれば大丈夫らしいけど。
私は窓の外のちょうど私と似通った年代の女性をターゲットに絞ってガン見する。
馬車が走っているので、ちょっと難しい。
と思っていたらちょうど馬車が止まった。
(……チャンス!)
どうして止まったのかは謎だけど、とにかくじっくり観察するチャンスだ。
私は一人の女性をじっくりと見つめる。
長い焦げ茶色の髪にそれより薄い金茶の瞳。
白いブラウスに黄色いフレアスカート。
足元はスカートと同じ色味の低めのヒール。
手には麻布の袋。
下級貴族の令嬢か金持ち商人の娘といったところだろう。
王都には二ヶ所の外門がある。
実際には有事の際に使用される門が他にもいくつかあるんだけど、通常使用されているのは庶民や商人、旅人が使用する南西門。
貴族や教会関係者が使用する南東門。
これが教会の馬車であることと、辺りの風景からして、ここは南東門を抜けてすぐの商店街だと思われる。
下級貴族や商人たちが買い物に訪れる場所だ。
広い街路の両端には雑貨屋や服屋、武具から魔法具にアクセサリー屋と様々な店が軒を連ねている。
売っているものは庶民が買うには高級だけど、上位貴族が買うには安価なもの。
上位貴族は店に訪れて買い物するってことがないからね。
「……フィム、どう?」
『大丈夫です。覚えました』
こっそりフィムに問いかけると、頭の中にフィムの声が聞こえてくる。
「……じゃ、準備はOKだね」
私は女性から目を離して馬車の前を覗いた。
馬車が止まったのは、人に止められたからのようだ。
馬に跨がった兵士らしい人物が御者台に向けて何やら話しかけている。
(……何かしら?)
貴族令嬢が馬車の窓を開けて顔を出すなんて、はしたない行いだ。
だから、我慢するしかない。
(気になるけどー)
教会の馬車を止めるなんて、普通ないからね。
と、思いつつなかなか動き出さない馬車にソワソワしていると、視界の隅、上の方に黒いものが見えた。
見覚えのある巨大な鴉。
ゆっくりと空から近付いてくる嘴には小さな巾着袋と紙のようなものをくわえている。
私はそっと御者に気づかれないように窓を少し開けた。
数枚の羽とともにその隙間から袋と紙が落とされる。
離れていく暗綺さんに手を振って、窓を閉める。
膝の上に落ちた袋と紙を拾うと、袋は少しだけ以前より軽くなり、紙にはお世辞にもキレイでない字で
なにやら書かれていた。
小さな巾着袋は私が暗綺さんに預けたものだ。
中身はお金。
依頼料として全て受け取ってもらう予定だったのだけれど。
依頼料といっても暗綺さんにでもその主人にでもない。
散々ストーカーをしかもおそらくは現在進行形で行っている人にやるお金なんぞない。
勝手に人の周りをうろうろしてるんだから、ちょっとくらい利用させてもらってもいいよね!
私が依頼料を渡そうとしたのは、冒険者三人組。
カノンに唆されて白王を襲い、結果として私が命を助けた三人である。
教会に三人の罪の軽減を認めさせたあの後、私は暗綺さんに頼んできちんと三人が解放されたか確認してもらったのだ。
教会が私の条件をちゃんと守るなんて、信用はできないから。
いざとなれば三人をできる限り助けてもらうこともついでに頼んでみた。
一応条件は守られたみたいで、三人はグランファリアでの冒険者資格の剥奪と一月以内の国外退去を言い渡され解放されたようだ。
ただし背後からいかにも怪しげな男たちがくっついていたらしい。
『そっちはワイが処理しといたでー!』
らしい。
どう処理したのかはあまり考えないでおこう。
ちなみにそれらは紙に書かれていた。
どうやら報告書だったらしい。
どうやって書いたのだか。
ミミズののたうちまくった字の様子からして嘴にペンをくわえて書いたのかも。だとしたら器用だ。
私は続けて書かれた文字を解読して、唇を笑みの形に歪めた。
「フィム、依頼は上手く受けてもらえたみたいよ」
しかも、依頼料は一部の経費だけしか受け取らなかったらしい。
命の恩人から金は取れない、だそうな。
彼らが真実依頼を遂行するかはわからないけれど。
と、いうか、暗綺さんだってどこまで信頼できるものか知れないしね。
適当なことを書いてるだけで、実は確認なんかしてないかも知れない。
だとしてもとりあえずは問題ない。
これはあくまでも布石の一つ。
上手くいけば時間を稼げる稼げるってだけの話だから。
(……おや?)
私は何気に紙を裏返して、そこに書かれた短い文章に目を止める。
『カノン失踪。行方不明。教会も把握してない』
(これは、ラッキーというべきなのかしらね?)
私は複雑な気分でその文を指でなぞった。
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