英雄と魔王の娘はまったりスローライフを送りたい。

黒田悠月

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異世界生活準備編

07

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誰か訪ねてきたのだろうか。

でも窓?

コン、コンと音は続いている。

私はひょこっとキッチンの端から店を覗く。
窓の向こうに人影らしきものは見えない。

だけど音はまたコンコンとなんだかリズミカルに鳴り続いている。

コンコンコココン、コン。

あれ?
リズムが少し変わった?

コココン、コンコン。

妙に楽しげでそれでいて忙しないリズム。
つられるように足を向けて窓を間近から覗く、と。

ーーバン!

ちっちゃなちっちゃな背中に羽の生えた女の子が透明な窓の向こうにペタリ、張り付いた。

「ティンク!」

慌てて窓を開ける。
するとちっちゃな妖精の女の子はクルクル螺旋を描きながら店の中を飛び回り、一回りしてから私の鼻先に止まった。

手のひらサイズの白い身体にキラキラと燐粉を撒き散らす薄い蝶の羽。
踝まで伸びた髪と瞳は新緑の色だ。

『コロルルン、クルクル、コルン』

ティンクはなにやら声を上げながら肩に斜めがけにかけた不相応に大きい鞄から蝋で封のされた封筒を取り出して私に差し出す。

ティンクの身体には巨大で重すぎるそれに、ちっちゃな身体がよろよろふらふら傾いだ。

ティンクの持っている鞄は『妖精の配達袋』と呼ばれるもので、特殊な妖精の魔法がかけられた鞄は綿帽子のように軽く、中に入れたものは異次元に収納されるため見た目より大量の荷物を入れることができる。

中身の重みも感じない。
ただし、重みも感じないのは鞄に入っている間だけで取り出すと元通りの重みがある。

人からすると薄くて軽い手紙一通。
だけれど手のひらサイズのティンクにとっては大荷物だ。

私は封筒を受け取って、ティンクをテーブルの上に誘う。

二人掛けの小さなテーブルだけど、手のひらサイズのティンクがちょこんと座っているとすごく大きく見える。

(かーわーいー!)

背中の羽が微妙にぱたぱた落ち着かない様子。

ティンクはこの世界の配達妖精だ。
魔法使いや魔導師が使う使い魔の一種。
ちなみにティンクというのは個別の名前ではなく種族そのものの名称である。

ティンクたち妖精は、妖精の通り路と呼ばれる次元のすき間を通って世界中を旅する。
配達妖精は妖精の配達袋と妖精の通り路を使って主人の手紙や荷物を配達してはご褒美に人のお菓子をもらう。
ティンクたち妖精は人の作る甘いお菓子が大好物だから。
ただしただのお菓子では満足感が足りないらしく、普通の人には使えない。
妖精に満足してもらうためにはほんの少し魔力を付与する必要がある。
魔力の付与されたお菓子は妖精たちにとっては堪らない美味しさ、らしい。

私が食べても味の違いはわからないのだけど。

ティンクたち配達妖精の配達はとても早い。
それこそ世界の果てと果てを一日で繋ぐくらい。
だから商業ギルドあたりが昔からなんとか魔法使い以外にも使えないかって木論でいるようだ。

ご褒美に満足しないとティンクは手紙や荷物を適当に放り出しポイ捨てしてしまったりするのでなかなか実用化は難しいみたいだけどね。

ティンクは先にご褒美を味見してから配達を受けるか決める。
なもので「これを届けてくれたら後で美味しいものあける」では動いてくれないのだ。

魔法使いだの魔導師だのは偏屈な変わり者が多いし、比較的まともな人は大抵貴族や国のお抱え。

一般に普及するにはまだまだ難しい。

「お師匠様からの返事かな?」

私は友人二人とは別に一通の手紙をある人に出していた。
その人は父の昔の仲間の一人で優秀な魔法使いで私の魔法の師匠。
とはいえ私はほとんど日本にいてたまに遊びにくるだけだから、基礎の基礎を軽ーく教わっただけどね。

我が家の方針で基本日本では魔法禁止だし。
こちらの世界と日本とは魔力の基になる空気中や地中に流れる魔素が違っているので魔法を使うにはコツがいるようで。
私にはどのみち使えなかったのだ。

けれど。

せっかくしばらく異世界にいるのならばやっぱり使いたいよね!魔法!

それにちょっとばかり考えもありまして。

改めて師匠に教えを乞うべく手紙を出していたのである。

この小さな妖精の配達人はその返事を届けてくれたらしい。

私はティンクに冷蔵庫から自分のおやつに作っていた焼き菓子をちぎって小皿に乗せて出してから、師匠の手紙を開いた。

魔力は付与されていないものだけど、上に乗っているドライフルーツが珍しいのか、ティンクは興味津々と言った様子で菓子をつついてから口に入れてにまっとする。

おきに召したようでなにより。

私はそんなティンクの様子を横目に見ながら自分も椅子に腰を下ろして手紙に目を落とした。






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