(元)引きこもりダンジョンマスターが異世界生活をやり直してみた件

黒田悠月

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ローウィル子爵領

その13

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「アアアアイクさん!?」

 被った服の隙間から目を覗かせて叫ぶ女神。
 慌てすぎて上手く袖が通らないらしく、もぞもぞばたばた腕を動かしている。

 振動で白いレースに隠された二つの小山が揺れる。

 ふむ。
 着痩せするタイプだったらしい。
 ギリCカップといったところか。

 女神さまのおっぱい、ありがたやありがたや。
 南無。
 パンパン、と柏手を打って拝んでおく。

 神様、次は下もお願いします。ぜひ!

「なにしてるんですか!拝まれても嬉しくないです!」

 ようやく袖が通った上着の裾を直しながら若干涙目で叫ぶ。

「っていうかちゃんとノックして下さいね!って言いましたよね?なんでしないんですかっ!」

 スカートの形からしてもしかして……、と思っていたが。
 セーラー服かよ。
 最近ブレザーばっかりでオーソドックスなセーラーって減ったよね。

「そっちこそ何故家の外で着替える」
「う、それは、その……誰も見てないし」

 ボソボソと顔を赤らめながら言い訳する女神。
 いや、普通だからってわざわざ外で着替えるか?

「えと、あの、そのちょっと解放感っていうか、風を肌で感じたかったっていうか……」

 言い訳すればするほど変態チックだな。
 なんだ風を肌で感じたいって。

「まあいい。露出狂でも他人に迷惑はかかってないからな」

「なんですかっ!露出狂って!」叫んでふにゃふにゃっとくずおれた。
 え?外で着替えてんだから、立派な露出狂だよね?

 おっと、それより、だ。

 俺はくずおれた女神の頭を両手で掴んで上向かせる。

「ふえ?」

 と間抜けな顔で見上げてきた涙目の顔を思いきり力を込めてぐにゅにゅ、と挟み込む。
 肺に空気を吸い込んで、

「なんじゃあのステータスはっっ!?あんなんでわかるか!普通に戻せっ!あと加護よこすならせめて(中)にしろっっ!?」
「ふにゃにゃ!は、はいぃ」

 ブンブン頭を前後に振っていると、「おぇ」という声が聞こえたので慌てて距離を取る。
 いくら神様のでもゲロには触れなくない。

「……う、うぷ。ひ、ひどいです。アイクさん」

 両手で口を押さえて気持ち悪そうではあるが、なんとか我慢できたらしい。
 ふらふらと立ち上がると庭の隅に作られた小さな薬草園に向かっていく。
 二メートル四方の畑の中にはあらゆる効能の薬草がところ狭しと植えられている。
 季節や土壌が特殊なはずの薬草も関係なく育っているあたりはさすが神の畑といったところか。
 見ていると端の一つをむしってそのままかじり出した。
 二口三口はむはむと頬張って、ほう、と息をつく。
 いや、生でも効果はある薬草だけどさ、それ。

「せめて錬金でクスリにしてから飲めや」
「そんな余裕ないです」

 恨めしそうに人の顔を見て、スカートの土を払いながらたちあがった。

「……うう。口の中が苦いです」

 そりゃそうだろうさ。

「お茶淹れて来ますね。コーヒーと紅茶と日本茶、どれがいいですか?」

 俺にも淹れてくれるらしい。
 異世界には紅茶はあるが、コーヒーはない。
 日本茶は探せば他の国には似たようなものはあるだろう。
 なので。

「じゃ、コーヒーで」
「わかりました」

 嘔吐感は薬草で消えてるはずだけど精神的なものが残っているのか、まだ覚束ない足取りの後ろ姿にイタズラ心がむくむくと沸き上がる。
 歩くたびにヒラヒラと揺れるプリーツスカート。

 俺は自分の手を見下ろす。
 見馴れたものより明らかに大きなそれ。
 いつもより低い声。
 身体の奥に感じられる膨大な魔力。

 ダンジョンコンクールの時に聞いた話を思い出す。

 神の世界では人間はその魂と肉体が一番充足していた状態になる、と。
 つまり俺の場合はここに入った時から過去に戻る前、ダンジョンコンクールに挑んだ時期に戻っているということだろう。

 なら、できる。

「風の聖霊」

 俺は周囲の風の聖霊に語りかける。
 聖霊たちが俺の意図を受け取ってイタズラっぽく笑い声を上げる。

「やれ」

 俺の命を受けた聖霊が突風を吹かす。

「うひゃああんっ!」

 バサリと翻ったプリーツスカートがその中身を覗かせた。

 ちゃんと上下セットにしてるんだね。
 白のレース。

 ーー南無。
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