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旅立ちは突然に。
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その夜は眠れなかった。
せっかくシルルが相部屋にしてくれたのになんだか申し訳ない。
明け方になってようやく身体が疲れていたのを思い出したように深く眠った。
おかげで目が覚めたのは昼前。
そして、起きてみたらもう部屋にシルルの姿はなかった。
着替えて階下にある食堂に行く。
そこで女将さんにリルたちの伝言を聞いた。
よく眠っていたから起こさずに行くと。
リルたちはすでに『銀の雛亭』にはいない。
今頃は街の外れのある港の船着き場で出向の準備を最終確認をしているところ。
夕方には彼らの国に向けて海からフランシスカを出て行く。
さよならもなしに行ってしまったことに、軽く失望してしまう。
頭のどこかで「ほら、その程度の関係なんだよ」と誰かが囁いた気がした。
昨日は懐かしさにたくさん話をしてくれたけれど、所詮は何も言わずに行ってしまう程度のものなのだと。
起きなかったわたしが悪いのに。
女将さんは朝食に--といっても、昼食の時間になってしまったけれど。デザートを付けてくれた。
ミルクにオレンジの粒が入ったゼリー。
わたしはお礼を言って食べると、宿を出た。
仕事を探しに行かないといけない。
紹介所に行こう。
そう思うけれど、頭が重い。
おかしな時間に寝ついたから、二度寝した後のようになっているのかしら。
頭を軽く振って、紹介所の方向へと歩き出す。
頭の片隅で、別の場所へ、と思う。
港へ、リルにさよならをちゃんと言わなくていいのかって、思う。
思いながら足は紹介所への道を歩く。
カランとベルの音と共に木戸を開くと、顔馴染みの職員と目が合った。
その目がまたか、と雄弁に語っている。
--また、クビになったのか、と。
クビになるたびにお世話になっているんだから、そう思われてもムリはない。
ぺこりと頭を下げて、掲示板に貼られた求人広告を眺めた。
それを見つけたのは偶然。
掲示板の端から順に見ていって、普段は見ない左側の上部。
掲示板に貼られた求人広告は、仕事の内容によって位置が分けられている。
わたしがそれを見つけたのは、街の外での仕事が集められているあたり。
いわゆる出稼ぎの仕事が集められた場所。
『 獣人の世話人〈グルーミング〉 期限3ヶ月 』
これってもしかして?
わたしが目を止めていると、その視線を辿ったらしい職員の一人が飛んできた。
慌てた様子で貼り紙を乱暴に剥がす。
「悪い。これは募集期限が昨日までのやつだ」
剥がし忘れていたのね。
ここは大きな街だから、求人広告の数も多い。
どんどん入れ替わるから、そういうこともあるんだろう。
「……変わった仕事ですね」
意識するよりも前に、言葉が口をつく。
「ん?ああ。だろ?なんか獣人の騎士の一団でさ。できれば人間で探してるって。まずムリだよって言ったんだが、一応出してくれって話でさ。ま、やっぱり誰も来なかったけど」
「そうですね」
人間は獣人を差別している人も多いし怖がっている人も多い。
まして提示されている仕事場は内海を越えて西にある獣人の国。
彼らはこれから国に帰る。
けれど3ヶ月後にもう一度この国に来るらしい。
その行き帰りと、国での3ヶ月が就業期間。
ただし延長も可能。
そういった説明が広告には書かれていた。
わたしがぼんやり貼り紙を握った職員の手を見つめているのを、どう捉えたのか職員は「本当は長期って希望だったんだけどな」と呆れ声で言った。
「さすがに誰もいないよって言ってやったんだよ。まして募集期限も短かったしな。仲介料の無駄だって。
そしたら3月後にはまたこっちに来るっていうからさ、それならせめてその間だけの期間にしといてあとは相談して延長を頼んだらどうだって。獣人の上に騎士だろ?なかなかの迫力だったんだけど、俺も仕事だからな。言ってやんないと--ってリディアちゃん?」
不思議そうに職員がわたしを見る。
わたしの手が、彼の指の隙間からはみ出た紙の端を握ったから。
「わたし」
「へ?」
「わたし、この仕事にします。これ下さい」
「……や、もう期限も」
わたしはぎゅっと指の先で紙を握りしめる。
「自分で交渉します。だから、お願いします」
自分でも驚くほどするすると言葉が出る。
驚愕にか、動揺にか、緩んだ指の隙間から、貼り紙を奪い取って、頭を下げた。
「ムリ言ってごめんなさい!」
そう言って踵を返す。
足早に紹介所を出て、走り出した。
向かうのは、港。
リルたちのいるはずの場所。
せっかくシルルが相部屋にしてくれたのになんだか申し訳ない。
明け方になってようやく身体が疲れていたのを思い出したように深く眠った。
おかげで目が覚めたのは昼前。
そして、起きてみたらもう部屋にシルルの姿はなかった。
着替えて階下にある食堂に行く。
そこで女将さんにリルたちの伝言を聞いた。
よく眠っていたから起こさずに行くと。
リルたちはすでに『銀の雛亭』にはいない。
今頃は街の外れのある港の船着き場で出向の準備を最終確認をしているところ。
夕方には彼らの国に向けて海からフランシスカを出て行く。
さよならもなしに行ってしまったことに、軽く失望してしまう。
頭のどこかで「ほら、その程度の関係なんだよ」と誰かが囁いた気がした。
昨日は懐かしさにたくさん話をしてくれたけれど、所詮は何も言わずに行ってしまう程度のものなのだと。
起きなかったわたしが悪いのに。
女将さんは朝食に--といっても、昼食の時間になってしまったけれど。デザートを付けてくれた。
ミルクにオレンジの粒が入ったゼリー。
わたしはお礼を言って食べると、宿を出た。
仕事を探しに行かないといけない。
紹介所に行こう。
そう思うけれど、頭が重い。
おかしな時間に寝ついたから、二度寝した後のようになっているのかしら。
頭を軽く振って、紹介所の方向へと歩き出す。
頭の片隅で、別の場所へ、と思う。
港へ、リルにさよならをちゃんと言わなくていいのかって、思う。
思いながら足は紹介所への道を歩く。
カランとベルの音と共に木戸を開くと、顔馴染みの職員と目が合った。
その目がまたか、と雄弁に語っている。
--また、クビになったのか、と。
クビになるたびにお世話になっているんだから、そう思われてもムリはない。
ぺこりと頭を下げて、掲示板に貼られた求人広告を眺めた。
それを見つけたのは偶然。
掲示板の端から順に見ていって、普段は見ない左側の上部。
掲示板に貼られた求人広告は、仕事の内容によって位置が分けられている。
わたしがそれを見つけたのは、街の外での仕事が集められているあたり。
いわゆる出稼ぎの仕事が集められた場所。
『 獣人の世話人〈グルーミング〉 期限3ヶ月 』
これってもしかして?
わたしが目を止めていると、その視線を辿ったらしい職員の一人が飛んできた。
慌てた様子で貼り紙を乱暴に剥がす。
「悪い。これは募集期限が昨日までのやつだ」
剥がし忘れていたのね。
ここは大きな街だから、求人広告の数も多い。
どんどん入れ替わるから、そういうこともあるんだろう。
「……変わった仕事ですね」
意識するよりも前に、言葉が口をつく。
「ん?ああ。だろ?なんか獣人の騎士の一団でさ。できれば人間で探してるって。まずムリだよって言ったんだが、一応出してくれって話でさ。ま、やっぱり誰も来なかったけど」
「そうですね」
人間は獣人を差別している人も多いし怖がっている人も多い。
まして提示されている仕事場は内海を越えて西にある獣人の国。
彼らはこれから国に帰る。
けれど3ヶ月後にもう一度この国に来るらしい。
その行き帰りと、国での3ヶ月が就業期間。
ただし延長も可能。
そういった説明が広告には書かれていた。
わたしがぼんやり貼り紙を握った職員の手を見つめているのを、どう捉えたのか職員は「本当は長期って希望だったんだけどな」と呆れ声で言った。
「さすがに誰もいないよって言ってやったんだよ。まして募集期限も短かったしな。仲介料の無駄だって。
そしたら3月後にはまたこっちに来るっていうからさ、それならせめてその間だけの期間にしといてあとは相談して延長を頼んだらどうだって。獣人の上に騎士だろ?なかなかの迫力だったんだけど、俺も仕事だからな。言ってやんないと--ってリディアちゃん?」
不思議そうに職員がわたしを見る。
わたしの手が、彼の指の隙間からはみ出た紙の端を握ったから。
「わたし」
「へ?」
「わたし、この仕事にします。これ下さい」
「……や、もう期限も」
わたしはぎゅっと指の先で紙を握りしめる。
「自分で交渉します。だから、お願いします」
自分でも驚くほどするすると言葉が出る。
驚愕にか、動揺にか、緩んだ指の隙間から、貼り紙を奪い取って、頭を下げた。
「ムリ言ってごめんなさい!」
そう言って踵を返す。
足早に紹介所を出て、走り出した。
向かうのは、港。
リルたちのいるはずの場所。
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