出稼ぎ公女の就活事情。

黒田悠月

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新しい仕事と生活。

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 シャツを脱がせてって、それはお世話係の仕事に入るのだろうか。
 でもよく考えてみればわたしだって国にいた頃には着替えどころかお風呂の世話だってしてもらっていたわよね?

 身体を洗ったりとかは一応自分でしていたけれど、マッサージとか、髪に香油を塗って流してもらったりとかは普通にしてもらっていた。
 
 兄様たちはどうだったのだろう。
 たぶんお風呂まではお世話してもらってない。
 だけど着替えなんかは侍女やメイドにお世話してもらっていたはず。
 
 リルの考えるお世話係、が侍女的な扱いなのならば、リルの要求はさしておかしくもないものだ。


--言い出したのは、わたし。
--わたし。

 自分に言い聞かせて、そっと指でシャツを摘まむ。

恥ずかしい。

 でも、仕事なんだから、やらなくちゃ。
 獣の姿なら、裸でもなんともないのに。
 
 いえ、でも、毛がモフモフだし。
 お腹の側は見ないようにしているし……。

「できませんか?」

 リルの問いかけに首を振った。
 できるできないじゃなく、やらなくちゃ。

 でも、手がなかなか動いてくれない。

「……すみません。あなたにはムリなことでした」
「そんなこと」

 ない、と言いたかったけれど、言葉がでない。

「いいんですよ?あなたは一国の公女なんですから。できなくて当然です」

 リルはきっと何気なく当たり前のことを言っただけ。普通、公女は侍女の仕事なんてしないもの。
 だけど、わたしはどこか突き放されたように感じた。

 しょせん、箱入りのお姫様にまともにできる仕事なんてないのだと。

 ああそうか。
 リルはわたしにはムリだって思ってたからこそシャツを脱がせてなんて言ったのだ。
 そうして仕事がしたいと言うわたしを諦めさせるために。

 リルの中でわたしはきっと雇った使用人ではなくてムチャをしそうだから保護した世間知らずのお姫様。

 昔、怪我をしたリルを見つけて、助けたわたしへの恩返しのつもりなのかも知れない。


 でも、そんなのありがた迷惑だよ!

 そりゃ、わたしにできることなんてろくにないかもしれないけれど。
 わたしは俯いてシャツに添えた指に力を込める。

「……リディ?」

 驚いたような戸惑ったようなリルの声。

 わたしは息を一つ吐いて、手を動かした。


リルの上半身は服の上から見た印象よりもずっと筋肉質で、大人の男の人の身体だ。
 
 視界に入ってくるだけでもドキドキするのに、シャツを脱がそうとするとどうしても指先が肌に直接触れてもう心臓に悪い。

 シャツを滑らせて肩から下ろすと、左の二の腕にくっきりと残る矢傷があるのに気付いた。

「……これ」

 わたしは指を滑らせてその傷をなぞる。
 
「ええ、ずいぶん目立たなくなったでしょう?」
「でもやっぱりまだ残ってるのね」

 獣の姿なら、毛に隠れてわかりにくいけれど、人の腕だとはっきりと痕がわかる。


 わたしがリルを見つけた時に射られていた矢傷。
 もう一つ、わき腹の下側にも同じような傷があるはずだ。
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