出稼ぎ公女の就活事情。

黒田悠月

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新しい仕事と生活。

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 唐突なわたしのキスはリルの予測の範囲外だったのだろう。

 ビクッと狼の耳が動いて、銀色の瞳が驚きに見開かれた。

 わたしはしてやったりという気になって自然と笑ってしまう。
 ふわふわモフモフなリルは、唇で触れても気持ちいい。不思議と恥ずかしいという気持ちはあまりなかった。

「できました」

 ブラシを置いて言うと、数秒の間を置いてリルが頭を上げる。
 そのリルに、

「あの、お世話係の話なんだけど。できればもっと恥ずかしくない仕事から慣れていきたいです」

 と言ってみた。

 甘えた話かも知れないけれど、できればお茶を入れたるとか、部屋の掃除をするとかから始めたい。
 上手くできるかは、正直微妙だけど。

 呆れた顔をされているんじゃないかしら。
 そんな気がして、リルの顔は見れない。
 それで下を向いて、リルの返事を待った。

「…………」

 リル?
 沈黙がつらい。
 呆れ果てて声もでないのだろうか。
 
 沈黙が長くて、そわそわしてしまう。
 意味もなく自分の爪を眺めて痛んでいるな、とか思う。ミラさんに手入れはしてもらっているけれど、三年間もほとんど放置だった両手の指先はカサつきもあればさかむけもある。

 後で手入れ用のオイルを分けてもらおうか、そんなことを考えていると、クスリとリルの笑い声が耳を打った。

……え?

 気の、せい?

 なん、だか……、笑い方が--。
 考えごとをしていたからいつもと違う風に聞こえただけだよね?

 そう自分に気のせいだと、納得させていたのに。

「これまで散々そうした仕事をして、クビになってきたんじゃないんですか?」

 ヒヤリと首筋を何か冷たいものに撫でられたように感じた。

 わたしは自分の指先を見下ろしたまま立ち尽くす。
 振り向けない。
 リルの顔が見れない。

 怖くて。

 リルは時々いじわるな物言いをする。
 そのことはなんとなく感じていたけれど。
 
「なのにここでもまた同じように仕事をしたいと?」
「……リル?」
 
 わたしはドジで役立ずでどんくさくて、いくつもの仕事をクビになってきた。
 そんなこと実際クビになってきたわたしが一番わかっている。

 だから上手くできるかは、正直微妙だと自分でも思ってもいた。

「……ねぇ、リディ」
「はい」

 わたしはリルに背を向けたままの背を震わせてしまう。
  
--リル、どうして?

 わたし、なにかしてしまった?
 わたしみたいな役立たずの箱入りがもっと別の仕事がしたいだなんて生意気だと思われた?

 それともさっきのキスが良くなかったのだろうか。
 わたしにキスされたのがそんなにイヤだった?

 こんなに冷たい声を向けられるほどに。

「できもしない人間ができもしない仕事をムリに行っても、それは他の人間にとっては迷惑なだけではないですか?」
「っ!」

 ひどい。

「それは、でも……そんな言い方っ!」

 リルの言う通りかも知れない。
 でも、だからってこんな言い方はないんじゃないの?

 わたしは悔しさに唇を噛みしめながら、溢れそうになる涙をこらえた。
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