出稼ぎ公女の就活事情。

黒田悠月

文字の大きさ
31 / 86
新しい仕事と生活。

11

しおりを挟む
 リルがわたしに用意してくれた服は、本当にすべて庶民的ではないドレスだったらしい。
 
 わたしの持参したトランクケースは衣装部屋にちゃんと保管されていたので、わたしは渋るミラさんを急かしてトランクごと出してもらうとその中からブラウスとカーディガン、スカートと靴下、踵の低い靴を選んで取り出した。

 丸首に飾りボタンの白いブラウスはわたしのお気に入りだ。それに淡いレモンイエローのカーディガン。
 スカートはオフホワイトのフレアスカート。
 靴下は薄手のスカートと同系色で、靴はカーディガンと同じレモンイエロー。

 フランシスカにいた時にお気に入りで街に出かける時によく着ていた一揃え。

「これなら一人で着れるから」

 手伝いはいらない、と言ってミラさんには部屋を出てもらう。

 いまだ困惑して、躊躇するミラさんを半ば強引に追い出したところで、わたしは大きく息をついた。

 
「大丈夫、大丈夫」

 わたしの我が儘だもの。
 ミラさんがひどく怒られるようなことはないはず。

 侍女として着かされたからには、ミラさんがわたしに意見をしたり、行動を抑制するのにはどうしても制限がかかる。
 
「大丈夫だよね?」

 もし、わたしのせいでミラさんに迷惑がかかってしまったら、と想像すると躊躇してしまう。
 主人の言動を諫めるのも、時として侍女の仕事。

 わたしの我が儘のせいで、ミラさんがリルや上の役職の使用人に叱責されてしまったらと思うと、申し訳がない。

--ここは思いっきり我が儘を通すしかないよね。

 あれじゃあ諫められなくてもムリない。むしろお姫様の我が儘に振り回されて気の毒、くらいまで。

 服を着替えて、ミラさんに香油を塗ってツヤツヤにしてもらったプラチナブロンドの髪をハーフアップにする。結んだのは国を出た時にも髪に結んでいた白いレースのリボンだ。
 
 16才の成人の誕生日に弟たちがお小遣いを出し合ってプレゼントしてくれた大切なもの。

 決して高価なものでもないし、珍しい細工のものでもない。街の露店にでも普通に並んでいるような品。
 けれどこれを髪に結ぶと、不思議と勇気をもらえるような気がするのだ。

鏡を覗き込んで毛先を整えていると、ドアがノックされた。

「どうぞ」

 と声をかけると、ドアが開かれる。
 そこには、予想通りのミラさんと、そしてもう一人。

 この邸をリルから任されている執事長--カルダさんという名の男性がいた。


 カルダさんは黒縁の眼鏡を神経質そうな仕草でくいっと持ち上げると「失礼します」と一礼し、部屋に入ってきた。

 きっちりオールバックに整えた黒髪にひんやりとした印象の青い瞳。いつも黒縁の眼鏡をかけ、皺一つない執事服をビッシリと着こなす様はいかにも仕事のできる敏腕執事。

 顔立ちも神経質そうな細面ではあるものの、悪くはない。
 年もたぶんまだ20代の後半から30代前半といったところ。若いメイドさんたちが陰でキャーキャー言いそうなイケメン執事さんだけれど。

 うん。
 やっぱりわたしは苦手だ。

 黒縁眼鏡の奥の青い瞳はいつも静かで、何を考えているのかがわからない。

 他の獣人さんたちがなんとなく耳や尻尾の動きで気分が伺えるというのもあるかも知れない。
 彼らの耳や尻尾はとても表情豊かだもの。

 今もカルダさんと後ろに控えるミラさんの頭にはペタンと伏せてしまった犬耳がその心情を如実に物語っている。

 カルダさんは獣人だけれど、リルたちとは少し違う。
 獣人--とはいうけれども、獣だけ、というわけではない。爬虫類の獣人もいれば、鳥の獣人もいる。

 獣の耳も、尻尾も持たないカルダさんの背には、服に隠れるほどの小さい羽根がある。
 獣化して、広げれば大きく羽ばたき空を飛べる真っ黒な夜の色の羽根。

 カルダさんは、鴉の獣人なのだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

たとえ夜が姿を変えても ―過保護な兄の親友は、私を逃がさない―

佐竹りふれ
恋愛
重なる吐息、耳元を掠める熱、そして——兄の親友の、隠しきれない独占欲。 19歳のジャスミンにとって、過保護な兄の親友・セバスチャンは、自分を子供扱いする「第二の兄」のような存在だった。 しかし、初めてのパーティーの夜、その関係は一変する。 突然降ってきた、深く、すべてを奪うような口づけ。 「焦らず、お前のペースで進もう」 そう余裕たっぷりに微笑んだセバスチャン。 けれど、彼の言う「ゆっくり」は、翌朝には早くも崩れ始めていた。 学内の視線、兄の沈黙、そして二人きりのアパート――。 外堀が埋まっていくスピードに戸惑いながらも、ジャスミンは彼が隠し持つ「男」の顔に、抗えない好奇心を抱き始める。 「……どうする? 俺と一緒に、いけないことするか?」 余裕の仮面を被るセバスチャンに、あどけない顔で、けれど大胆に踏み込んでいくジャスミン。 理性を繋ぎ止めようとする彼を、翻弄し、追い詰めていくのは彼女の方で……。 「ゆっくり」なんて、ただの建前。 一度火がついた熱は、誰にも止められない。 兄の親友という境界線を軽々と飛び越え、加速しすぎる二人の溺愛ラブストーリー。

前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!

ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。 前世では犬の獣人だった私。 私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。 そんな時、とある出来事で命を落とした私。 彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

処理中です...