出稼ぎ公女の就活事情。

黒田悠月

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すれ違いと不穏な噂。

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 お祭り、と言われるとすごく気になってはしまう。
 でも--。

「街に出るだけでも護衛をつけてもらってるのにいいのかしら」

 わたし、一応仕事で来ているのよね?
 観光で来ているわけではないのだ。

「いいっていいって!だーいじょうぶ♪このシルルさんからもカルッちには伝えとくから」
「カルッち?」

 ってカルダさんのことよね?
 カルッち。
 あのカルダさんが?

 あまりのギャップに唖然として、次にお腹から笑いがこみ上げてくる。

「やだ、カルッちって」

 似合わない。
 似合わなすぎる。

 あの堅物無表情のカルダさんがカルッち。

 ついクスクス笑ってしまうと、「やっと笑った!」とシルルが何故かガッツポーズをした。

「……へ?」

 わたしがキョトンと見返すとシルルは「へへ」と舌を出す。

「船ではよく笑ってたのに、こっち来てから全然笑わないんだもん。でもようやく笑ったね!」
「……そう、だった?」
「うん。リディアは笑ってる方が可愛いよ♪」

--女の子はみんなそうだけどね♪

 なんて、まるでキザな男性のようなセリフ。
 それに二人して笑っていると、目的地--職業紹介所についた。


「んじゃ、外にいるから♪」

 と、見送ってくれるシルルと別れて、わたしは一人で紹介所の中に入る。

 中に入るとすでに見慣れた景色。
 正面には3人の職員が座るカウンター、左右の壁一面の掲示板にびっしりと貼られた求人広告の貼り紙。

 そしてその前をぴょんぴょん飛び跳ねては次々に紙を剥がして回る小さな身体。

「モンタさん、こんにちは」

 わたしはその小さなお猿さんにいつも通り挨拶した。

「おぅっ!姉ちゃんまた来たんか!」

 こちらもいつも通り。
 両手いっぱいに貼り紙を握ったお猿さん--モンタさんが振り向いて「おぅっ!」と片手を上げてくれる。

 モンタさんはお猿の獣人さんだ。
 ちゃんと成人しているから、本当は人の姿にもなれる。だけど服を着るのが苦手らしく、いつもお猿さんの姿でいる。
 今も着ているのは下だけ。
 膝上のゆったりしたズボンを肩からサスペンダーで下げている。
 お尻の部分には穴が空いて、茶色の長い尻尾がせわしなく揺れる。

 モンタさんは毎日のように昼前のこの時間にここにいる。

 おかげで週に一度必ずここに来るわたしともすっかり顔馴染み。 
 けれど挨拶以外はほとんどしたことがない。
 いつもいつも、モンタさんは広告剥がしに忙しいからだ。

 モンタさんは文字が読めない。
 ただ簡単な二桁の数字だけは紹介所の職員さんに教えてもらったらしい。それで自分の仕事を探すついでに前日までの日付--募集期限の切れた貼り紙を剥がしてわずかだけど駄賃として紹介所から小遣いをもらっている。

 だとしても多すぎる貼り紙の数はやはりモンタさんが字が読めないから。

 文字が読めないモンタさんは掲示板から適当に広告を剥がしてはカウンターに持っていく。
 そこから自分にできる仕事を見繕ってもらう。

 モンタさんのように文字の読めない人には、職員さんが始めから希望に合う仕事を探してくれる。その中から選ぶのが普通だ。
 
 なのにモンタさんが自分で剥がして回るのはモンタさんなりのこだわりらしく「自分で探したもんの方がキツくても自分で取ったんやからって諦めがつく。それに自分で探して剥がしたもんの方がなんとなしええ仕事が紛れてきそうな気がせえへんか?」なのだとか。

 昼過ぎまではここでそうして過ごして夕方から明け方にかけて日雇いの荷運びや溝掃除の仕事をしているらしい。

--明け方まで仕事しているのに毎日元気よね。

 モンタさんを見ていると、こちらまで元気がもらえる気がする。

 また掲示板の前でぴょこぴょこと跳ね回るモンタさんの様子にホッコリさせてもらいながら、わたしはカウンターに向かった。

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