出稼ぎ公女の就活事情。

黒田悠月

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すれ違いと不穏な噂。

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 リルの職場でもある軍基地は高い外壁に囲まれた石造りの砦だった。

 鬱蒼とした林に左右を挟まれた馬車道を抜けた先に見えた巨大な壁に、わたしは息を呑む。

 フランシスカの貴族街を囲むそれによく似た灰色の壁は左右どちらを見ても端が見えない。
 目の前には大きな鉄の門。
 シルルが言うにはいくつか同じような鉄門があり、それぞれ関所が設けられているらしい。

 この中に、基地の中心である2つの砦と騎士たちの宿泊する寮、それにいくつかの訓練所があるらしい。

 一般の見物が許可されているといってもわたしたちが入れるのは外壁に近いほんの一部。

 それでも充分に広い敷地のため、驚くほど大勢の馬車と人が集まっていても、まだぎゅうぎゅう詰めということはない。

 舗装されていない剥き出しの地面に無骨ないくつかの石造りの建物。
 全体的に平屋の多いルクランディリアには珍しく階層の高い建物もある。

 わたしはおのぼりさんの気分で人の波に流されてどんどん歩いた。

「みんな同じ方向に歩いているわね」

 示し合わせたように進んでいく人波に、わたしは首を傾げる。
 
「ん、だいたい順路は決まってるからね。慣れた人間ならどの時間帯にどこを見るべきかちゃんとわかってる。一番の見所は正騎士の模擬戦闘。それは円形場で市場最後に行われる。日暮れ前だね。その前に新人の訓練所が行われている第三訓練所、獣型での訓練をしてる第二訓練所を見物してから円形場に向かうってのが基本のセオリーなのさっ♪」
「……ふうん」

 よくわからないが、とりあえずいくつもの訓練所があるらしい。
 そりゃそうよね。
 ヴィルドルでさえ軍にはたくさんの訓練所があるもの。一昔前にはいくつかここのような(規模は小さいけれど)基地だってあった。
 今は公都に砦があるのと、フランシスカとの国境線に2つ、公家が直接保有する砦があるだけで、後の軍は各領ごとに貴族が所有するものになっている。
 もっとも職業軍人などは公家直属のものと一部の高位貴族がわずかに持つだけ。
 ほとんどは有事の際に集められる農民である。


「ちなみにうちの隊の出番は最後の模擬戦闘だからね♪隊長はなかでも大トリだよ!」

 エッヘン、と誇らしそうにシルルが言う。
 ピン、と尖った猫耳が可愛い。
 

「ならまずは第三訓練所という場所に向かってるのね?」
「そう。新人訓練には貴族も平民もなく同じだから、この中には自分の子供の様子を見に来てるって親も多いよ」

 言われてみれば夫婦や家族連れらしい人たちも多い。

「新人騎士は全員寮生活で三年間は夏の休暇以外家には帰れないから。結構遠くから見に来る家族もいるんだ♪見るだけで、話とかはできないけどね」
「……大変なのね」

 ならばその家族にとってはとても大切な1日なのだろう。

 わたしは周りを歩く人たちを見渡しながら、国の家族のことを思った。

 国を飛び出してすでに三年と少し。
 手紙一つ出さずにたまにお金だけを送っている状態のわたしは、きっと親不孝なのだろうな、なんてことも。
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