出稼ぎ公女の就活事情。

黒田悠月

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すれ違いと不穏な噂。

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「ごめんなさい。なんでもないの」

 わたしはミラさんにそう言って笑う。
 
「さようですか?」
「ええ」

 頷きながらも、なんだか名残惜しい気持ちでいつまでも硬い金属の感触を指先で撫でた。

 リルが着けてくれたもの。
 人でも獣人でも男性が女性に送る装飾品は特別な意味を持つ。

 リルがそのことを意識して着けてくれたものか、ただの再会とさよならの記念に形に残るものを送ったつもりなのか、それはわからない。

 わからないけれど、今はただ素直に嬉しい。

 国に戻れば他の誰かに嫁ぐ身だ。
 当然ずっと着けることなんて出来ない。
 だけど国に戻るまで。それまでの間なら、きっと許されるはず。


 金に釣り鐘型の花が彫られた耳環は花びらの部分に淡いピンクのサファイアが埋め込まれていて、指先に触れると少しゴツゴツとした凹凸がある。

 花はわたしが好きな、小さなわたしたちの思い出のカランコエ。
 
『たくさんの小さな思い出』

 その花言葉はわたしたちの再会とさよならの記念にとても相応しいと思う。

「ミラさんには最後まで面倒をかけっ放しよね。今日もこうして付き合わせてしまっているし」

 帰国する前に、どうしても職業紹介所に顔を出したいとカルダさんに無理を言った。
 お世話になったお礼というのもあるし、お願いしている仕事の合否ももう必要がないことをきちんと伝えておきたかったから。

……それに。

 モンタさんにも、できればさよならを言っておきたい。
 この前の街中でのことは気にはなるし、時間があるのなら相談にくらい乗るくらいはしたかったなとも思う。もっともわたしにできることなんて本当に話を聞くくらいのことだけれど。

 今日が街に来れる最後である以上、それすらできないのだが。

ーーせめて、お別れだけでもいいたい。

 ありがとうとお礼も。
 あからさまに嫌悪や差別を向けられなくとも、人間であるわたしはここでは遠巻きにされていた。

 仕事である職業の人は別だけれど、他の周りの人たちはそうだった。
 
ーーモンタさん以外。


 モンタさんだけが人間のわたしに親しげに話しかけてくれた。
 いつも会うたびに声をかけてくれた。

 
 カルダさんもシルルもなんだかすごく忙しいらしくて、馬車を使うことと寄り道を一切しないことを条件にミラさんについて来てもらうことになったのだ。

 本来の仕事内容ではない役目を押し付けられたミラさんにはまったく申し訳ない話。
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