出稼ぎ公女の就活事情。

黒田悠月

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カランコエの花言葉。

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♢♢♢♢♢


 たまに、奇妙な夢を見る。
 幼い頃のとある日の夢。

『リル』と別れた日の夢だ。


 わたしは『リル』と離れたくなくて、朝からずっとずっと『リル』にしがみついている。

 朝起きて、いつも通り『リル』と一緒に朝食を取って、蜂蜜入りのホットミルクを飲んで。 
 さあ散歩へ出かけようと意気揚々なわたしに、突然知らされた『リル』との別れ。

 幼かったわたしは、その時まで『リル』との別れがこんなに早く来るなんて想像もしていなかった。

 お家は見つかったし、怪我が治ればお家に帰るのだ、と何度も聞いていたけど、まだ本当に子供なわたしは「よかったねー、リル!お怪我が治ったらお父さんがお迎えに来てくれるね!」なんて口先では言いつつ、全然わかっていなかった。

 お家に帰る、ということは『リル』がわたしの側からいなくなってしまうとということなのだ、という当たり前のことを。

 わかっている顔をして、これっぽっちもわかっていなかったのだ。

 だからだろう。
『リル』の怪我が治るにつれて進められていたお別れの段取りも何も、わたしには何一つ知らされていなかった。 

 いよいよお別れだというその日の朝まで。

 今にして思えば、わたしに何も言ってくれなかった周りの態度もわかるのだ。

 あの頃のわたしは、『リル』が大好きな子供で、きっと事前に知らされていれば『リル』を連れて家出くらいはしていたかも知れない。

 それこそ自分が病気にでもなれば『リル』だって心配して留まってくれるくらいのことは思って仮病に走るかも知れなかったし、自室に閉じこもって扉を塞いで籠城くらいはしていたかも知れなかった。

 そういったわたしの行動を防ぐためにギリギリに、本当にギリギリになるまで告げられなかったのだ。

 夕刻には迎えが来る。
 共にいられるのはあと数時間というその朝まで。

 わたしは泣いて、泣いて『リル』にしがみついた。
 ずっと、ずっとそれこそ何時間も。
 恥ずかしながらお手洗いに行く時でさえ『リル』に扉の前までついて来させた。

 だけどいざ時間になると、わたしと『リル』は大人たちに引き離されて、わたしは泣いてばっかりでまともにお別れの言葉さえも言えなかった。


 引き離されて、泣いて、いつの間にかベッドの上で泣き疲れて眠っていた。

 それが『リル』とわたしの別れの日。
 しがみつくばかり、泣いてばかりで、ろくに話も出来なかった別れ。

 そのはずなのに。

 夢の中の『リル』は人の姿をしている。
『リル』とさよならしたあの日、空は晴天の青で雨など一滴も振っていなかった。
 新月の日ではあったと思う。
 けれど『リル』は夜になる前に去って行ったのだ。
 そしてわたしはその夜、泣き疲れて眠っていた。

 なのに夢の中の『リル』は人の姿で、わたしの手を優しく握っている。

 泣き濡れて赤く腫れたまぶたに唇を落として何かを言う。

 何を言っているのかはわからない。
 けれど、確かに何かを言って笑うのだ。

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