72 / 86
カランコエの花言葉。
9
しおりを挟む
きっと、そういうことなのだ。
モンタさんはわたしを拉致した人たちと少なくとも顔見知りだった。
おそらく顔見知りどころか、モンタさん自身もアチラ側、の人間なのだろう。
怪我をさせられてわたしと共に縛られている様子からして『だった』というべきか。
「モンタさん」
けれど。
あの人ーーあの銀狼の男性は貴族だった。
リルとよく似た顔、同じ銀狼。
思い出して比べてみれば少しだけ掠れてはいたけれど、それでもリルとよく似た低い落ち着いた声音は視界を塞がれていればどちらとわからないだろうほどそっくりで。
あれでまったく血縁関係がないと言われる方が不自然だ。
親類、どころか親子と言われてもきっと納得してしまう。
それほどの類似。
リルはルグランディリアの貴族で。
だとすればそのリルと血縁関係にあるのだろうあの人もまた貴族。
しかもそれ相応の高位の貴族であるはず。
「わたしに『仕事を紹介してくれる知り合い』はあの人だったんでしょう?」
そんな地位の人が平民で、しかも他国の生まれであるモンタさんと『知り合い』になんてなるだろうか?
普通なら知り合いどころか雇用主と被雇用者にすらならない。
ただ利用されるだけ。
「わたしをそう言って連れて来るようにと言われたんでしょう?」
脅しか。
見返りか。
「何を与えられるはずだったの?」
脅しというのは考え憎い。
モンタさんは根無し草だ。
日雇いの仕事を渡り歩いていることからして、きちんと定まった仕事を持つわけでも住居があるわけでもない。
生まれも違う。
家族がそばにいる様子もない。
「ねぇ、モンタさん」
わたしは“壁に手を着いて”立ち上がった。
痛む左足を引きずり、モンタさんの目の前まで歩み寄る。
『お嬢、とっておきを教えてやるよ』
ーーただし痛みに耐える覚悟があるのなら。
護身術だと言っても、大抵の令嬢はせいぜい短刀や簡単な剣術を身につけているくらいだと思う。
わたしみたいに体術だの、まして関節をわざと外しての縄抜けなんて習得しているお姫様なんてまずいない。
なんといっても痛い。
両手の指十本、場合によっては手首の関節も外すとなれば何度痛みに耐えることやら。
しかもはめる時も似たような痛みあるのである。
花よ蝶よと育てられた深窓のご令嬢には最後まで耐えられまい。
それよりは、痛みも苦しみもずっと短くて済む方法を教えられる。
国にも家にもかかる損害を最低限にする方法。
ーー自害。
実際にいざという時の毒を常に身につけている女性をわたしは知っている。
即効性の毒を煽れば、短刀で首を掻き切れば、それができない状態でも舌を噛み切れば。
痛みや苦しみは一瞬で済む。
簡単で、ある意味とても楽で。国にも、家にも、傷は少なくて済む方法。
だけれどわたしが教えられてきたのはむしろ本当にギリギリまで足掻く方法だ。
足掻いて足掻いて、最後まで諦めずに足掻き続けるための技。
わたしの周りの優しい人たちは、一番簡単な方法を選ぶより前に、まず足掻くことを教えてくれた。
だからわたしは足掻く。
時には危険な賭けにも出る。
「……姉ちゃん」
モンタさんは両手の自由なわたしの姿に小さく呻くようにそう声を出しただけだった。
声を上げて人を呼ぶことはせず。
驚きに目を見開いた後は、居たたまれなさの見える表情でただ俯いた。
ーー賭けには勝ったみたいね。
わたしは痛みに悲鳴を上げる指先に顔をしかめながらも、唇の端をほんのわずか、笑みに持ち上げた。
モンタさんはわたしを拉致した人たちと少なくとも顔見知りだった。
おそらく顔見知りどころか、モンタさん自身もアチラ側、の人間なのだろう。
怪我をさせられてわたしと共に縛られている様子からして『だった』というべきか。
「モンタさん」
けれど。
あの人ーーあの銀狼の男性は貴族だった。
リルとよく似た顔、同じ銀狼。
思い出して比べてみれば少しだけ掠れてはいたけれど、それでもリルとよく似た低い落ち着いた声音は視界を塞がれていればどちらとわからないだろうほどそっくりで。
あれでまったく血縁関係がないと言われる方が不自然だ。
親類、どころか親子と言われてもきっと納得してしまう。
それほどの類似。
リルはルグランディリアの貴族で。
だとすればそのリルと血縁関係にあるのだろうあの人もまた貴族。
しかもそれ相応の高位の貴族であるはず。
「わたしに『仕事を紹介してくれる知り合い』はあの人だったんでしょう?」
そんな地位の人が平民で、しかも他国の生まれであるモンタさんと『知り合い』になんてなるだろうか?
普通なら知り合いどころか雇用主と被雇用者にすらならない。
ただ利用されるだけ。
「わたしをそう言って連れて来るようにと言われたんでしょう?」
脅しか。
見返りか。
「何を与えられるはずだったの?」
脅しというのは考え憎い。
モンタさんは根無し草だ。
日雇いの仕事を渡り歩いていることからして、きちんと定まった仕事を持つわけでも住居があるわけでもない。
生まれも違う。
家族がそばにいる様子もない。
「ねぇ、モンタさん」
わたしは“壁に手を着いて”立ち上がった。
痛む左足を引きずり、モンタさんの目の前まで歩み寄る。
『お嬢、とっておきを教えてやるよ』
ーーただし痛みに耐える覚悟があるのなら。
護身術だと言っても、大抵の令嬢はせいぜい短刀や簡単な剣術を身につけているくらいだと思う。
わたしみたいに体術だの、まして関節をわざと外しての縄抜けなんて習得しているお姫様なんてまずいない。
なんといっても痛い。
両手の指十本、場合によっては手首の関節も外すとなれば何度痛みに耐えることやら。
しかもはめる時も似たような痛みあるのである。
花よ蝶よと育てられた深窓のご令嬢には最後まで耐えられまい。
それよりは、痛みも苦しみもずっと短くて済む方法を教えられる。
国にも家にもかかる損害を最低限にする方法。
ーー自害。
実際にいざという時の毒を常に身につけている女性をわたしは知っている。
即効性の毒を煽れば、短刀で首を掻き切れば、それができない状態でも舌を噛み切れば。
痛みや苦しみは一瞬で済む。
簡単で、ある意味とても楽で。国にも、家にも、傷は少なくて済む方法。
だけれどわたしが教えられてきたのはむしろ本当にギリギリまで足掻く方法だ。
足掻いて足掻いて、最後まで諦めずに足掻き続けるための技。
わたしの周りの優しい人たちは、一番簡単な方法を選ぶより前に、まず足掻くことを教えてくれた。
だからわたしは足掻く。
時には危険な賭けにも出る。
「……姉ちゃん」
モンタさんは両手の自由なわたしの姿に小さく呻くようにそう声を出しただけだった。
声を上げて人を呼ぶことはせず。
驚きに目を見開いた後は、居たたまれなさの見える表情でただ俯いた。
ーー賭けには勝ったみたいね。
わたしは痛みに悲鳴を上げる指先に顔をしかめながらも、唇の端をほんのわずか、笑みに持ち上げた。
0
あなたにおすすめの小説
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!
ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。
前世では犬の獣人だった私。
私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。
そんな時、とある出来事で命を落とした私。
彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます
修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。
その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。
彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。
ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。
一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。
必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。
なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ──
そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。
これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。
※小説家になろうが先行公開です
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
私の手からこぼれ落ちるもの
アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。
優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。
でもそれは偽りだった。
お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。
お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。
心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。
私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。
こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら…
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。
❈ ざまぁはありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる