85 / 86
あの日の約束とこれからの二人。
4
しおりを挟む
『本当は、このままリディを攫っていきたい』
そっとわたしにキスをくれた『リル』はそう言って泣きそうに笑った。
『だけど今の僕にはリディを守りきる自信がない。まだそのための力も何もないーーだから』
だから、と『リル』はわたしの雨に濡れた頬に触れた。
『いつか、大人になってリディを守りきる自信と準備ができたら、必ず君を僕の国に連れて帰る』
ーーああ、あの頃の『リル』は僕だったんだ。今のリルは私、なのに。
リルの胸に抱き込まれながら、わたしはこっそりと笑う。
『だから、その時には、僕と結婚して下さい』
ギュッと抱きつくと、リルはわたしの背をポンポンして「リディ、顔を上げて?」と言った。
「一度はあなたを国に返さなくてはいけない。けれど、今度はすぐに迎えに行きます。だから、私の妻になって下さい」
わたしは一国の公主で、わたしの婚姻は国のために行われるべきで。
だけど。
「はい」
それでもわたしの答えはその一つだけ。
♢♢♢♢♢
「宿屋で話をしている時、気づいたんです。あなたが約束を忘れてしまっていると」
ベッドの上で並んで座って、リルの胸に頭を抱きしめられながら、リルの謝罪を聞いた。
「大人気なく拗ねて、依怙地になって、ずいぶんあなたにいじわるを言ってしまった気がします。それに、あなたを巻きこみたくはないと思っていたのに、結局巻き込んで利用して、危険な目に合わせてしまいました。申し訳ありません」
わたしはううん、と頭を振る。
「だってリルだって最初からわたしを餌にするつもりではなかったでしょう?わたしが我が儘を言って街に出たから。だから」
ーーでも、
と、わたしは首を傾げた。
「どうしてあの人はわたしの前に現れたのかしら」
それまではけして表に出なかったのに。
だからこそ、リルはあの人をわたしという餌で誘き出したのだけれど。
「ああ、それは。フランシスカとの国交の中に私とフランシスカの王女の婚姻があったからですよ」
さらりと言われた言葉に、わたしの脳がしばし思考停止する。
「叔父上はこの国の王族の血に人間の血が混じるのを嫌ったんです。そのくらいなら同じ獣人のガルドの属国になった方がマシだと思ったくらいに。ですから私が人間の娘をそばに置いているとなれば、気になって他人任せにはできないだろうと思ったんですよ。もちろんあなたの安全は極力図ったつもりですが、それでも危険なことには変わりなかった。……ですが、あなたもムチャをし過ぎです。大人しくしてくれていれば、こんな怪我をすることもなかったんですよ?約束したはずですよね?ムチャはしないと」
「え、と。うん?ちょっと待って?」
ーーあれ?わたし、プロポーズされたばかりよね?妻になって下さいって、つまりそういうことよね?
ついさっき、わたしは好きな人と気持ちを確かめ合ったはずなのだけど?
ーーフランシスカの王女と婚姻?リルが?
こういう場合、わたしはどういう反応を返せばいいの?
そっとわたしにキスをくれた『リル』はそう言って泣きそうに笑った。
『だけど今の僕にはリディを守りきる自信がない。まだそのための力も何もないーーだから』
だから、と『リル』はわたしの雨に濡れた頬に触れた。
『いつか、大人になってリディを守りきる自信と準備ができたら、必ず君を僕の国に連れて帰る』
ーーああ、あの頃の『リル』は僕だったんだ。今のリルは私、なのに。
リルの胸に抱き込まれながら、わたしはこっそりと笑う。
『だから、その時には、僕と結婚して下さい』
ギュッと抱きつくと、リルはわたしの背をポンポンして「リディ、顔を上げて?」と言った。
「一度はあなたを国に返さなくてはいけない。けれど、今度はすぐに迎えに行きます。だから、私の妻になって下さい」
わたしは一国の公主で、わたしの婚姻は国のために行われるべきで。
だけど。
「はい」
それでもわたしの答えはその一つだけ。
♢♢♢♢♢
「宿屋で話をしている時、気づいたんです。あなたが約束を忘れてしまっていると」
ベッドの上で並んで座って、リルの胸に頭を抱きしめられながら、リルの謝罪を聞いた。
「大人気なく拗ねて、依怙地になって、ずいぶんあなたにいじわるを言ってしまった気がします。それに、あなたを巻きこみたくはないと思っていたのに、結局巻き込んで利用して、危険な目に合わせてしまいました。申し訳ありません」
わたしはううん、と頭を振る。
「だってリルだって最初からわたしを餌にするつもりではなかったでしょう?わたしが我が儘を言って街に出たから。だから」
ーーでも、
と、わたしは首を傾げた。
「どうしてあの人はわたしの前に現れたのかしら」
それまではけして表に出なかったのに。
だからこそ、リルはあの人をわたしという餌で誘き出したのだけれど。
「ああ、それは。フランシスカとの国交の中に私とフランシスカの王女の婚姻があったからですよ」
さらりと言われた言葉に、わたしの脳がしばし思考停止する。
「叔父上はこの国の王族の血に人間の血が混じるのを嫌ったんです。そのくらいなら同じ獣人のガルドの属国になった方がマシだと思ったくらいに。ですから私が人間の娘をそばに置いているとなれば、気になって他人任せにはできないだろうと思ったんですよ。もちろんあなたの安全は極力図ったつもりですが、それでも危険なことには変わりなかった。……ですが、あなたもムチャをし過ぎです。大人しくしてくれていれば、こんな怪我をすることもなかったんですよ?約束したはずですよね?ムチャはしないと」
「え、と。うん?ちょっと待って?」
ーーあれ?わたし、プロポーズされたばかりよね?妻になって下さいって、つまりそういうことよね?
ついさっき、わたしは好きな人と気持ちを確かめ合ったはずなのだけど?
ーーフランシスカの王女と婚姻?リルが?
こういう場合、わたしはどういう反応を返せばいいの?
0
あなたにおすすめの小説
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!
ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。
前世では犬の獣人だった私。
私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。
そんな時、とある出来事で命を落とした私。
彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます
修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。
その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。
彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。
ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。
一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。
必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。
なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ──
そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。
これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。
※小説家になろうが先行公開です
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
私の手からこぼれ落ちるもの
アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。
優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。
でもそれは偽りだった。
お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。
お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。
心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。
私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。
こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら…
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。
❈ ざまぁはありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる