一方通行な運命の人はただの迷惑でしかないと思います。

黒田悠月

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チートは案外取り扱いが難しい。

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ゲームならば、多少リアルの自分自身とゲーム内のアバターのサイズに違いがあっても動かすことにさしたる差異は感じない。

女性が男型のアバターを使用することもあるし男性が女性型を使用するだってあるだろう。
子供が大人のアバターを使用することも、私のようにその逆だって。

けれど初めてそのアバターでゲームにログインしたからといって、感覚が掴めなくて上手くしゃべれないし動けない、なんてことはないはず。
あったとしてもそんなゲームは間違いなくクソゲーと呼ばれ淘汰されるだろう。

でも現実にいきなり子供が大人になったら?
大人が子供になったら?

いきなり自分の身体がまったく別物に作り変えられて、それまで通りに動かせるものだろうか。

私はその答えを知っている。
知ってしまった。

答えは--否だ。


カウントダウンで飛び起きた私は、無様に足ガックンとなり、の石の床にダイブした。

顔面から。

骨も無事だったし、鼻血が出なかったのは不幸中の幸いだけれど、いまだにオデコと鼻の頭がヒリヒリ痛い。
滑舌が悪過ぎるのも同じ理由。
まだ口を動かすのにも、声を出すのにも、肉体の細かい差異に慣れていないから。
もっとも全体的な身体の影響と比べるとまだ差異はマシな気もする。

「意識していれば普通に話せるようにはなってきたものね」

演劇部の訓練さながら発声練習をひたすら行ったおかげね。
他に誰もいないダンジョンの一室で5歳の幼女が一人、ウロウロ歩きながら「あえいうえおあお」言っている状況は、想像するとちょぴり精神的にキツイものがあるけど。

やめよう。
うん。考えない方がいいわ。
  

さて、とりあえずまともに舌も動くようになったし、手足もゆっくり歩いたり動かす分には大丈夫になった。
そろそろ腰を落ち着けて現状の確認とこれからのことを考える時期か。
調子に乗るとこけるんだけどね。

まずは自分の姿。
これはすでに確認済み。

祭壇の流れ落ちる水がちょうど水鏡になって全身を映すことができた。

前世で使用したアバターと同じ。
ピンクブロンドのフワフワな髪を頭の左右でツインテールにした朱金の瞳の美幼女。
『リーナ』は人間ではない。 
わたしが設定したリーナの種族は狐族。
その最大の特徴が私の頭の上とお尻でその存在を主張している。

ピコピコ、ふわふわと揺れ動く狐の耳と尻尾。

--可愛い。

自分で言うのもなんだけど、可愛いわ。
もふもふだし。
私が私のままで目の前に『リーナ』が現れたら思わずきゅうっと抱きしめて尻尾にすりすりしちゃいそう。というかたぶん絶対にする。

触ってみた感触や……その生理的な、あのいわゆるお花摘み?なものは人間と同じ。
あ、ダンジョン内でいたした排泄物はすぐに吸収されてなくなるから検証結果はすでにないのよ?
ええぇ、仕方ないじゃない。
したくなっちゃったんだもの!
部屋の端っこでしたわよ。
この時だけは子供の姿で良かったと心底思いましたとも。

お腹もすくみたい。

ええ、現在お腹の虫が令嬢には許されない勢いで鳴っていますから。






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