巻き込まれた村人はガチャで無双する?

黒田悠月

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 オトウサン、オカアサン。
 あなたたちが奴隷として売った息子は勇者の魂と同居して、どうやらグルメハンターを目指すことになるようです・・・。


 3日程の旅路を共にして、カティはすっかりゴルドンさん一行と仲良くなったが、ペルージとの国境を前に別れることとなった。
 国境までの道のりは至極順調だった。
 ちょこちょこ魔物が出るものの、ドズさんを筆頭とした護衛の冒険者たちがあっさりと倒して先に進む。
 食事は残念ながら山に入ってからは携帯食メインだったが、それでもカティが持っていたよりもずっと良い物を食べさせてもらった。
 カティも親子連れもこの先会う人に必ずゴルドンさんの商会を宣伝して歩くと誓い合った。

「ハハハ、これでまたいい宣伝ができた」

 そうゴルドンさんは笑って去っていった。

『なるほどな』
(佑樹?)
『いや、人がいいのも確かだろうけど、やっぱそれだけじゃないんだなと思って』
(は?)
『ほら、俺たちが食べさせてもらったものって全部ゴルドンさんのとこの商会で扱ってる食材を使ってるものだったろ?同行させてくれたのもどうせゴルドンさんは俺たちがいなくても同じ護衛を雇うんだし。まあ、経費は天幕の分と食費の足が出た分。けどゴルドンさんにとっちゃ微々たるもん。それで親切にしてもらったと思った人間があちこちで散々ゴルドンさんの商会や食材を宣伝しまくったら、実のところ結構な宣伝効果なんじゃないかってな。口コミってのは案外デカいもんだ』

 ゴルドンさんの商会ならメインの顧客は貴族や金持ちの商人ではあるのだろうが、やはり数でいえば庶民や冒険者になる。
 毎回こうして口コミの数を増やせば、けっして損にはならないと佑樹は言う。

(なんだかなぁ)

 せっかくの親切にしてもらったありがたい気分を台無しにされた気がする。
 そこまで深読みしなくても良いのに、と思う。

 国境の関所には3つ門が別れていて、一つは貴族が利用するもの。一つはゴルドンさんのような商人や一部の冒険者が利用するもの。残る一つがカティのような旅人が通る為のものだった。
 他の二つの門と比べ明らかに並んだ列が長い。
 一時間近くもかけてカティは関所を通った。
 通行料は金貨一枚。
 ただしそこはリューレルート側の関所で、川一つを隔てた程度の先にあるペルージ側の関所でもまた列に並び、またも金貨一枚を支払い、ペルージの国に入ったのはゴルドンさんたちと別れてから半日近くが経つ頃。

 ペルージの関所の先は小さな町になっている。
 煉瓦造りの町並みはリューレルートの町や村よりも小綺麗でところどころにサボテンやハーブの植え込みがあった。

『国境越えたとこなのにずいぶん違うもんだな』 

 佑樹の感想はカティと同じ。
 その日は関所近くの宿に泊まることにしたのだが、宿もまたリューレルートよりも上等で値段は同程度。
 それだけ国自体が豊かということなのだろう。
 リューレルートの住民が土地や店を捨てても逃げてくるはずである。

 荷物を宿に置いて、町を歩いてみることにする。
 ちょうど腹も減ったので腹ごしらえも外の露店で済ませることにした。
 買ったのはリューレルートでもお馴染みのボーボー鳥の串焼き。

『旨いってほどしゃないけど、しっかり香辛料が効いてる分全然食べやすいな』
(いや、俺は充分美味しいけど)

 頭の中でいつものように会話を続けながら町を歩いていると、至るところで香辛料を売る露店の店主が声を上げて客を呼び込んでいるのを見かけた。
 雨が少ないのはリューレルートと同じはずなのに、しっかりと作物も売られている。ただ店先に置かれている作物の多くはカティの見たことがないものだ。
 前を歩く旅装の二人連れもリューレルートから来たばかりなのだろう。物珍しそうに店先を眺めていた。

『ふーん、ちゃんと干魃に強い作物を作ってあんのかな』

 どこかの国とはえらい差だねぇ、と佑樹が毒づく。

 そうして店先を除きながら歩いていると、少し先で騒ぎが起きているのに気付いた。
 数人の男たちが薄汚れたフードを頭から被った人影を囲んでいる。フードの人物は年老いた老人のようで、背を丸め、踞っていた。

「・・・またか?」
「みたいだねぇ。まったく迷惑な話だよ」

 近くの露店の店主と客が顔を見合わせて言いあっている。
 カティは思いきって声をかけてみることにした。

「あの、あれって・・・」
「ああ、リューレルートから来た人間がまたスリでもして捕まっ
 たんだろうよ。まったく近ごろ多くて困ったもんさ」

 店主によると国から逃げてきたものの仕事もなく冒険者としても上手くやっていけず、結局スリや盗賊に身を落とす人間がかなり多いらしい。
 傍目には豊かな町でも外から来た人間にとっては必ずしもそうとは限らないということか。

 ちらと国境までの道を共にした家族の顔が頭に浮かぶ。
 彼らがあんな風にならなければいいが。
 父親は少し鍛冶の腕があると言っていたが、あのカティを気遣ってくれた子供が辛い思いをしなければいいと思った。
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