巻き込まれた村人はガチャで無双する?

黒田悠月

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(何これ?)
『うっま!超うめーよ!』
「凄く美味しいです!」
「本当に、表面はパリパリサクサクで中の肉は柔らかい。初めて食べましたよ、こんなの。見たこともないし」
「ママこれおいしーい♪」 
「むはっ!はむはむ・・・」
「うむ、さすがはドズ。これは美味いな」
「うめー!さすがはドズの旦那!」

 全員一致で大絶賛だった。
 ドズさんが夕食に作っていたのは日本人にはお馴染み、この世界の人間には馴染みのないトンカツ。
 ちゃんと見た目も味も、佑樹の記憶の中で味わったトンカツそのものである。

「しかしいいんですか?私たちにまでこんな高そうなもの」

 親子連れの父親が言うのにカティも内心で同意する。
 口はものを言うよりトンカツを咀嚼するのに忙しい。

「いや、珍しい料理ではあるんだが、実は金はそれほどかからないんだ。安いオーク肉に、固くなったパンを衣にして揚げてるだけだからな。油も使い古しのものだし、また何度も使えるんでね。本当ならサルエル地方の一部で栽培されている米ってのを合わせるのが一番美味いんだが、持ち合わせがなくて悪い」
「米、ですか?聞いたことがないですね」
「ああ、この辺りではほとんど見ないが、パンの代わりに食べる。なんにでも合うぞ」
『だよねーだよねー!あー米が欲しい!』
「ドズさんは冒険者なのに料理が上手ですし、詳しいのですね」

 父親が感心するのにドズさんが「あー、まーなー」とちょっと照れた様子で頭を掻く。

「俺は元料理人なんだよ」
「ドズの旦那は料理好きが高じて、自分で食材を集める為に冒険者になったんだよ。しかも今じゃあグルメハンターにまで登り積めてる。凄い人なんだ」
「「「「グルメハンター?」」」」

 親子+カティである。
 言葉を挟んだ冒険者はドズさんをずいぶん尊敬しているらしく、鼻息も荒く説明してくれる。

「ああ、冒険者や商人でないとあまり知られていないか。冒険者の中でも何かを極めた一部の者だけにハンターって称号が付けられるんだ。クエストを極めたクエストハンター。ダンジョン攻略に特化したダンジョンハンター。食材や伝説の勇者ヤスタカ・サエキの遺産を探して世界を回るグルメハンターってな感じでな!最低でも冒険者ランクC以上でないとハンター試験さえ受けられない。狭き門さ」
「ヤスタカ・サエキって?」

 カティが聞くとよくぞ聞いてくれたとばかりにテンションが上がる。

「ヤスタカ・サエキってのはずっと昔にこの世界に召喚された異世界の勇者だ。勇者ってのは普通戦力として喚ばれるんだがそいつはずいぶん変わり者だったらしくてな、まったく戦わないで召喚した国の金であらゆる食材を集めては数多くの料理を作り出した。米もサエキが作らせたって話だ。国としても最初は食べたことのない不思議な料理の数々に歓喜して、まあそれなりに儲けもしていたらしいんだが、どんどんエスカレートしていくうちに儲けよりも出ていく金の方が増えていく。そうなるとサエキを疎むようになるわけだ。これまでに作り出した料理や食材だけでも充分国は潤うわけだしな。で、サエキは暗殺されそうになるんだが、そこは腐っても勇者だ。サエキは襲ってきた暗殺者を返り討ちにして自分が作り出した料理や食材のレシピをすべて国から持ち出した。あとは世界を回りながら何を思ってかあちこちにそのレシピをばらまいたり隠したりした。中にはダンジョンの宝箱に入ってたって話もある」
「そのレシピのことをヤスタカ・サエキの遺産と言うんだが、ちなみに今食べている料理もその一つだ。たしか、トンカツとか言う」

 続けられたドズさんの言葉にその場の皆が歓声を上げる。
 伝説の勇者の遺産。
 その価値は計り知れないだろう。

「そんなもの、頂いてよかったんですか?」
「なに、俺の主義でね。美味いものは一人で隠して食べるより皆が美味しく食べてくれる方がずっといい。まだ、3つしか手に入れてないんだが、その内それなりに増えたらペルージにでも店を構えてまた料理人に専念するつもりだ。まあ、味見させられてると思って食ってくれ」
「店が出来たらぜひ寄らせて頂きたいですね」
『うおー!サエキやるじゃねーか!奴こそ真の勇者だ!』

 皆がドズさんの料理と言葉に感激しているのをよそに佑樹だけは別の方向に興奮している。 

(佑樹が言ってた面白いものってドズさんの称号のことだったのか・・・)
『おうよ!いいなー、グルメハンター!よし!決めた!』
(・・・何を?)

 何となく予想はつくけど。
 いや、聞いてたよね?狭き門だって。

『グルメハンター!俺たちもなろうぜー!』

 ぶほっとトンカツを吹き出しそうになったカティを「お兄ちゃんどうしたの?ダイジョウブー?」と隣に座っていた親子連れの子供が背をさすってくれた。
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