ボッチのお花畑令嬢に転生した私、断罪回避のためにストーキングはじめました。

黒田悠月

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旧礼拝堂の怪異? ②

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「では私は職員棟に戻ります。閉門時間の十五分ほど前に施錠と進捗状況の確認にこちらに参りますので、それまでにキリの良いところまで終わらせておいて下さいね。あ、ただしまったく手つかずなんて状態のようでしたら明日からは閉門後一時間居残りの許可を出すそうですわ。暗くなるまでに帰宅出来るように頑張りましょうね?」

 一見人畜無害そうな顔でシスターがにっこりと首を傾げるのに、私はヒクリと顔面を引くつかせた。
 サラリと脅しが入っている上に、もはや今日だけですまないのが確定事項のようになっている。
 いや、つい往生際悪く『ように』とつけてしまったが、実際、確定事項なのだろう。
 というか今ボソッと「私も暗くなってからここ来るの嫌だしぃ」って言いましたよね。
 私、耳はいいみたいなのよ。
 しっかり聞こえましたわよ!

 やっぱりここ何かあるの?!

 とはいえ、たとえ何もなくてもけして長居したい場所でないことは確か。
 
 私は去って行く修道服の背中を見送りながら、ゴクリと唾を飲むだ。
 両手にシスターから渡された掃除道具一式を抱えて立ち竦む。

 前にはシスターが去っていった校舎の裏手へと続く小路。そして振り向けばそこにあるのは噂の怪談スポット。

「と、とりあえず……どうしよう?中に入る?でも水道は使えないから井戸の水を使えって言ってたよね?先に水をくんだ方がいいかな?あ、でも桶以外は先に中に置いとく方がいい?」

 怖いから声に出して疑問を口にする私。
 なんにせよまず振り向かなければ何をどうもできないのだけれども。

「ム、ムリムリムリ――ってひぃぃ~っ!」

 なんとなくぬめ~とした生暖かい風が吹いて、頬を撫でた。

「逃げたい!マジ逃げたい!けどここで逃げたらたぶんダメな気する」

 清楚、控えめをモットーに真面目な学園生活を送って無事に卒業することが目下の目標の一つである以上、ここで逃げる教師の命に逆らうのはやはりよろしくない
だろう。なんといってもすでに崖っぷちをはみ出ている私の現状。下手をすれば『反省の色がない』とされこれまでのやらかしを加味して謹慎やら停学やらの処分を下されかねない。

 ちなみにルクルシル魔法学園では謹慎処分を一度受けたら次からは停学になり、停学二回で留年。そこで一度でも処分対象になったら退学、となっているが、実際には一度でも停学になると貴族子女として失格の烙印を押されるため、その時点で自主退学を促される。

「平民ルート目指すにしても学は必要だわ。職探しにしてもその職場の待遇にしても学がある方が絶対的に有利になりんだもの」

 そうだわ!前世でも散々「もっとちゃんと勉強しといたら良かった~」って嘆いていたじゃない!

「…………よ、よし」

 気合を入れて――いっせいの~せっっ!! 
 気持ちだけはバビュンッ!くらいの勢いで振り向いた私は、勢いそのままで片手の荷を脇に挟み込み、空いた手を扉に掛け全開にした。

 
「……………………あれ?」

 意外と普通?

 ガランと物のない室内は埃っぽくて、長く閉め切られていたからか、空気が淀んでいるけれど。
 高い天井のところどころに嵌め込まれた色とりどりのステンドグラスと、左右の壁に等間隔に並んだ硝子窓からも、明るい日差しが差し込んでいて、不気味~って雰囲気は――うん、あんまりないわね。
 建物の造りが室内全体に外の明りが行き渡るように設計されているのだろう。
 一部だけ薄暗く陰ができていることもなく、いかにも何か出てきそうな物陰もない。

 ただ奥の祭壇は空だし、床に並べなれていたはずの椅子は撤去されているせいか、物がなさすぎて寂しい印象はあるといえばあるかも?な感じだ。

「オルガンもないし」

 これではまことしやかに流れていた『オルガンの音が~云々』な噂は無理ではなかろうか。
 だってオルガンないし。
 幽霊だってさすがにその場にない楽器を奏でることはできそうにない。前世でよくあった『音楽室のビアノが~云々』な七不思議だってそこにピアノありしのものよね?

「そっか、噂はしょせん噂ってことなんだわ」

 よくよく考えてもみれば、二年前までは普通に使われていたわけだし?
 取り壊し予定なのは老朽化と新しい礼拝堂が建てられたから。

 そもそも噂なんてものは広まれば広まるほど面白可笑しくもよりおどろ恐ろしくもなってゆくもの。

――つまり。

「人気のない場所にある古い閉鎖された礼拝堂なんて、いかにも何かある、感じだもの。皆が想像や作り話でああたこうだ言ったものが尾びれ背びれをつけて広がった結果立派な怪談スポットになっただけで実際はただの古い建物なんじゃない?」

 うんうん、と私は一人でブツブツ呟いてはそれに相づちを打つ。

 そう、きっとそうなのだ。
 その方が私にとっても好都合だし。
 今のところ何もないし。
 まだ外も明るいし。

「……そういうことにしときましょ!」

 何もない、何もない~。
 と口ずさみ、自分に言い聞かせながら、私は手にした荷を下ろして礼拝堂の真ん中に進んだ。

 ぐるりと中を見渡し、改めて室内の状態を確認する。

――あ、蜘蛛の巣発見!というか、壁際や天井付近は蜘蛛の巣だらけね。
  カーテンの取り外された窓はどれも灰色っぽくくすんで見えるし、床や台座だけの祭壇はうっすら埃を被っている。

「まずは換気よね」

 私は腕まくりをして手当たりしだいに窓を開け放った。
 
――うん。まだ全然埃っぽいけれど、新鮮な空気が入ってくるだけでもなんだかスッキリするわね。

「この調子で頑張ってみますか」

 なんだか少しだけやる気が出てきた気がするわ。
 それに集中していれば恐怖心もきっと頭の隅っこに追いやれるに違いない!

 と、床に置いた荷の中からハタキを手に取った私の耳が、コツン、という小さな音を拾った。
 

 
  

 




 
  
 

 



 
 

 
 
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