ボッチのお花畑令嬢に転生した私、断罪回避のためにストーキングはじめました。

黒田悠月

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旧礼拝堂の怪異? ①

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 一限目もあと僅かという時間に教室入りした大遅刻な私に、担当教諭は理由も尋ねることなく「授業が終わるまで立ってなさい」と告げて、授業を再開した。

 それで私には向けられていたクラスメイトたちの目も教壇へと戻される――ことはなかった。

 しっかり注目されているわね。

 皆教諭に注意されない程度に前を向き黒板の文字をノートに書き写したりもしているけれど。
 合間合間にチラチラと私を見やる目、目、目。
 侍女様力作のサラサラストレートヘアーの効果もあるん
だろうけど、原因はそれ以上にパンッパンに腫れた瞼や真っ赤に充血した目に違いない。
 トイレに籠もって涙だけはなんとか止めてきたものの、すでに腫れ上がった瞼や眼球の充血は短時間ではどうにもできなかったのよ。

 うぅ、ちょっと恥ずかしいわ。
 だって誰が見てもめちゃくちゃ泣いた後だってバレバレなんだもの。
 侍女様渾身の清楚系メイクもぐちゃぐちゃに崩れちゃったから洗い落として、今の私はほぼスッピン。
 正直、あんまり見ないでほしい。
 
 どうにも皆の視線が気になって落ち着かない私は、俯いて羊の数を数えはじめた。

 羊が一匹。羊が二匹。
 頭の中で何故かピンク色をした雲から羊がぴょこん、ぴょこんと飛び出てくる。

 羊が三匹。羊が四匹。…………五、六、七。
 ぴょこん。ぴょこん、ぴょこんぴょこん。

 そうだわ前世でよく緊張しないおまじないに人を芋と思えみたいなのがあったわよね?
 つまりクラスメイトの皆のことも芋、じゃなく可愛らしい羊だと思えばいいのよ!

 あっちも羊、こっちも羊。
 私からナナメ前に見えるギルバートだけは特別に人間のままにしてあげましょう。
 
 ほぉらこうすれば視線なんてたいして気にならない。
 かわいい羊ちゃんのちょっと冷たい視線なんて愛おしいくらいのものだわ。

 立ちっぱなしで疲れて足がソワソワしだした頃に、終業のチャイムが鳴って、教壇に立つトンガリ帽子みたいな頭の羊さんが「ミス・モンターニュ」と私の名を呼ぶ。

「遅刻のペナルティとして放課後旧礼拝堂の掃除をするように。シスターにはわたくしから話をしておきます」

――は?

 ショックでせっかくの自己暗示が解け、かわいいトンガリ帽子な羊さんがしかつめらしい顔の女教諭に早変わりした。ちなみに教諭の髪型は頭のてっぺんで角みたいにクルクル髪を巻き込んでビシッと固めている。

「ああああの、旧礼拝堂ですか?新じゃなくて?」

 この学園には女神様を祀る礼拝堂が二つあるのだけれども、現在使用されているのはニ年前新築された新礼拝堂。
 旧礼拝堂は老朽化のため取り壊しが決まっている古くてボロくて――極めつけに幽霊と鼠が出ると噂の建物だ。
 しかもなんでこんな辺鄙な場所に建てたの?と生徒全員が疑問視するような敷地の端っこにある。

 誰もいないはずの建物内から人の気配がするとか雨が降った日には音の外れたオルガンの音色が聴こえるのだとか、取り壊しが決まっていると言いながら二年間放置されているのは取り壊さないのではなく
――何かがあるのだとか。
 実際噂では二度、解体工事を予定していたのに、中止になったという。
 
 そんないわゆる曰く付きの旧礼拝堂。

 扉には頑丈に施錠がされていて、時折教会から派遣されているシスターが空気の入れ替えをする以外二年間人の入っていない古くてボロくて取り壊せない何かがあるという噂の礼拝堂?そんな場所の掃除を、私が?

 生まれてこの方雑巾を持ったことすらない私が?
 子供の頃自分の足音が怖くて夜一人でトイレに行けずにシーツに世界地図を描いたことのある私が?
 
「そうですよ?何か問題があって?したことはなくてもやり方くらいはわかるでしょう?ああ一日では掃除しきれないのではと憂慮しているのかしら?」
「………は?い、いえ…………」

 思わせぶりな物言いに嫌な予感がヒシヒシと湧き上がる。

「(こうなりゃヤケよっ!)やりますっ!やらせて下さい!ええ是非。全身全霊を持って取り組ませて頂きますわ!!」

 ですから一日で勘弁して下さい!
 キレイに掃除しきるまでなんてなったらどれだけ日数が必要になるか。

――でなくとも今の私には早く帰ってやることも考えることも山盛りあるのよっ!
 なくても怪談スポットへ日参だなんて絶対の絶対にあり得ないけど!!
 考えただけで背筋がヒュンとする。
 それなら一日だけサッといってパパッと終わらせた方がマシってもの。

 私は泣き過ぎてどことなく強張りのある頬の筋肉を総動員して決死の愛想笑いを浮かべてみせた。
――けれど嫌われ者に現実は厳しいらしい。

「まあ素晴らしい心がけですこと。でしたら一日と言わず二日でも三日でもなんなら一週間でも、そうね、シスターがもう充分と納得するまで通ってもらいましょうか。きっと建物だけでなくあなたの心も清められることでしょうよ」

 オホホホホ、と鬼が笑う。

「あ、は、はは…………」

 私は乾いた笑い声ともに顔を引きつらせ、心で号泣した。






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