桜の色

黒田悠月

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桜の色

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「その奇妙な店は」


ーー置いているものすべてに魂が宿っていたの。


柔らかい少女の声はそう言ってくすくすと笑った。


「月に一人、二人お客さんが来ればいいようなお店。商売というよりは店主の趣味のお店。昼間でも薄暗くて開いてるのかどうかもよくわからないお店」


楽しげに、懐かしげに語る声を聞くのは一匹の老いた猫。
白い身体にお尻の辺りにだけ3つ斑(ぶち)がある。

古い家屋の縁側。
狭い庭ながら丁寧に手入れがされているのがわかる、そんな庭の縁側に身体を丸めて。
その庭に一本だけ植えられたのは淡く色づく八重桜。

風に揺られてヒラヒラと花びらが地に落ちる。


この家には夫に先立たれた小さなお婆さんが一人で住んでいた。
いつも着物を着ていたお婆さん。
それが昨日亡くなって、家の奥ではお婆さんの娘や親戚たちが葬式の支度をしながら故人を懐かしんでは、時折庭の桜の木を眺めにくる。


春が来る度に色づく桜と、小さな庭を、お婆さんはとても大事にしていた。
いつも着物の膝の上に猫を乗せて縁側から庭を眺めるのが日課。


「軒先の小さな木の看板とガラス張りの引き戸が唯一そこがお店らしいところ」

その店は骨董品屋さんでね、と声は言う。

ガラスの向こうには様々なモノが置かれていたのだと。


壁には古い色褪せた掛け軸。
棚に並べられた白い香炉。
硯にべっこうのかんざし、漆塗りの手鏡。

桜色の帯ーー。


その奇妙な店には時折何かに惹かれるようにお客が訪れては一つ道具を買い求めて去っていく。


ある日訪れたのは小さなお婆さん。


「ああ、桜の色やねえ。ウチの八重桜とおんなじ色」


お婆さんはその帯を買っていった。
そうしていつも腰には桜色の帯。

庭の八重桜、縁側、膝の上の猫、桜色の帯。



それがお婆さんの日常。
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