1 / 2
桜の色
しおりを挟む
「その奇妙な店は」
ーー置いているものすべてに魂が宿っていたの。
柔らかい少女の声はそう言ってくすくすと笑った。
「月に一人、二人お客さんが来ればいいようなお店。商売というよりは店主の趣味のお店。昼間でも薄暗くて開いてるのかどうかもよくわからないお店」
楽しげに、懐かしげに語る声を聞くのは一匹の老いた猫。
白い身体にお尻の辺りにだけ3つ斑(ぶち)がある。
古い家屋の縁側。
狭い庭ながら丁寧に手入れがされているのがわかる、そんな庭の縁側に身体を丸めて。
その庭に一本だけ植えられたのは淡く色づく八重桜。
風に揺られてヒラヒラと花びらが地に落ちる。
この家には夫に先立たれた小さなお婆さんが一人で住んでいた。
いつも着物を着ていたお婆さん。
それが昨日亡くなって、家の奥ではお婆さんの娘や親戚たちが葬式の支度をしながら故人を懐かしんでは、時折庭の桜の木を眺めにくる。
春が来る度に色づく桜と、小さな庭を、お婆さんはとても大事にしていた。
いつも着物の膝の上に猫を乗せて縁側から庭を眺めるのが日課。
「軒先の小さな木の看板とガラス張りの引き戸が唯一そこがお店らしいところ」
その店は骨董品屋さんでね、と声は言う。
ガラスの向こうには様々なモノが置かれていたのだと。
壁には古い色褪せた掛け軸。
棚に並べられた白い香炉。
硯にべっこうのかんざし、漆塗りの手鏡。
桜色の帯ーー。
その奇妙な店には時折何かに惹かれるようにお客が訪れては一つ道具を買い求めて去っていく。
ある日訪れたのは小さなお婆さん。
「ああ、桜の色やねえ。ウチの八重桜とおんなじ色」
お婆さんはその帯を買っていった。
そうしていつも腰には桜色の帯。
庭の八重桜、縁側、膝の上の猫、桜色の帯。
それがお婆さんの日常。
ーー置いているものすべてに魂が宿っていたの。
柔らかい少女の声はそう言ってくすくすと笑った。
「月に一人、二人お客さんが来ればいいようなお店。商売というよりは店主の趣味のお店。昼間でも薄暗くて開いてるのかどうかもよくわからないお店」
楽しげに、懐かしげに語る声を聞くのは一匹の老いた猫。
白い身体にお尻の辺りにだけ3つ斑(ぶち)がある。
古い家屋の縁側。
狭い庭ながら丁寧に手入れがされているのがわかる、そんな庭の縁側に身体を丸めて。
その庭に一本だけ植えられたのは淡く色づく八重桜。
風に揺られてヒラヒラと花びらが地に落ちる。
この家には夫に先立たれた小さなお婆さんが一人で住んでいた。
いつも着物を着ていたお婆さん。
それが昨日亡くなって、家の奥ではお婆さんの娘や親戚たちが葬式の支度をしながら故人を懐かしんでは、時折庭の桜の木を眺めにくる。
春が来る度に色づく桜と、小さな庭を、お婆さんはとても大事にしていた。
いつも着物の膝の上に猫を乗せて縁側から庭を眺めるのが日課。
「軒先の小さな木の看板とガラス張りの引き戸が唯一そこがお店らしいところ」
その店は骨董品屋さんでね、と声は言う。
ガラスの向こうには様々なモノが置かれていたのだと。
壁には古い色褪せた掛け軸。
棚に並べられた白い香炉。
硯にべっこうのかんざし、漆塗りの手鏡。
桜色の帯ーー。
その奇妙な店には時折何かに惹かれるようにお客が訪れては一つ道具を買い求めて去っていく。
ある日訪れたのは小さなお婆さん。
「ああ、桜の色やねえ。ウチの八重桜とおんなじ色」
お婆さんはその帯を買っていった。
そうしていつも腰には桜色の帯。
庭の八重桜、縁側、膝の上の猫、桜色の帯。
それがお婆さんの日常。
0
あなたにおすすめの小説
真実の愛ならこれくらいできますわよね?
かぜかおる
ファンタジー
フレデリクなら最後は正しい判断をすると信じていたの
でもそれは裏切られてしまったわ・・・
夜会でフレデリク第一王子は男爵令嬢サラとの真実の愛を見つけたとそう言ってわたくしとの婚約解消を宣言したの。
ねえ、真実の愛で結ばれたお二人、覚悟があるというのなら、これくらいできますわよね?
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
義弟の婚約者が私の婚約者の番でした
五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」
金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。
自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。
視界の先には
私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。
他国ならうまくいったかもしれない話
章槻雅希
ファンタジー
入り婿が爵位を継いで、第二夫人を迎えて後継者作り。
他国であれば、それが許される国もありましょうが、我が国では法律違反ですわよ。
そう、カヌーン魔導王国には王国特殊法がございますから。
『小説家になろう』『アルファポリス』に重複投稿、自サイトにも掲載
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
- - - - - - - - - - - - -
ただいま後日談の加筆を計画中です。
2025/06/22
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる