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桜の色
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「とても、とても大切にしてもらったの」
柔らかく、優しい声。
猫は縁側に伏せて、静かに目を閉じてそれを聞く。
「一日の終わりには丁寧に手入れをしてもらって」
ーーキレイやねえ。
そう言って優しい手でそっと撫でて。
箪笥の引き出しに寝かされる。
「嬉しかったの」
ーーだから。
「だから、いいの」
穏やかに、伏せた背を撫でるように。
声は言う。
長く長く大切に使われてきたモノには魂が宿る。
けれどもそれは壊れたり燃やされたりすれば儚く消えてしまう。
「大好きだから、いいの」
足音がして、猫はのっそりと頭を上げた。
家の中から出てきたのはお婆さんの娘。
小さくて、色白なのはお婆さんと同じ。
「ああ、こんなところにあった」
縁側に膝をついて猫の隣に畳まれて置かれていた桜色の帯を手に取った。
「なんだってこんなところに?母さんが置いたのかしら」
首を傾げていると、奥から旦那の顔が覗いた。
「見つかったのか?」
ーーええ、と応えて娘は立ち上がると旦那と話をしながら家の中に入っていく。
「見つかって良かったわ。母さんこの帯を気に入ってたから一緒に入れてあげたかったの。ふふ、きっとあの世に行ってもいつもこの帯をしてるわよ」
足音と共に娘の声が遠ざかる。
風が吹いて、桜の枝を揺らした。
風に乗って聞こえてくる柔らかい声。
「私は消えてしまうけれど」
ーーいいの。
大好きだから。
最後まで、お婆さんと一緒。
柔らかく、優しい声。
猫は縁側に伏せて、静かに目を閉じてそれを聞く。
「一日の終わりには丁寧に手入れをしてもらって」
ーーキレイやねえ。
そう言って優しい手でそっと撫でて。
箪笥の引き出しに寝かされる。
「嬉しかったの」
ーーだから。
「だから、いいの」
穏やかに、伏せた背を撫でるように。
声は言う。
長く長く大切に使われてきたモノには魂が宿る。
けれどもそれは壊れたり燃やされたりすれば儚く消えてしまう。
「大好きだから、いいの」
足音がして、猫はのっそりと頭を上げた。
家の中から出てきたのはお婆さんの娘。
小さくて、色白なのはお婆さんと同じ。
「ああ、こんなところにあった」
縁側に膝をついて猫の隣に畳まれて置かれていた桜色の帯を手に取った。
「なんだってこんなところに?母さんが置いたのかしら」
首を傾げていると、奥から旦那の顔が覗いた。
「見つかったのか?」
ーーええ、と応えて娘は立ち上がると旦那と話をしながら家の中に入っていく。
「見つかって良かったわ。母さんこの帯を気に入ってたから一緒に入れてあげたかったの。ふふ、きっとあの世に行ってもいつもこの帯をしてるわよ」
足音と共に娘の声が遠ざかる。
風が吹いて、桜の枝を揺らした。
風に乗って聞こえてくる柔らかい声。
「私は消えてしまうけれど」
ーーいいの。
大好きだから。
最後まで、お婆さんと一緒。
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あったかい、素敵なお話ですね。
ありがとうございます(^-^)
私自身好きなお話なのでそう言って頂けると嬉しいです!