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『初夜から三日目の朝までは、あまり早起きをしてはいけません。旦那様が起き出すのを確認してからベッドを出るくらいでOKです。
夜の気怠が雰囲気を引きずるくらいのゆったりとした動作を心がけるのがコツ。
ただし見送りだけは必ず庭先まで行いましょう。
「お気を付けていってらっしゃいませ」
「お帰りをお待ちしております」
など、見送りのセリフはありきたりで充分です。
むしろあまりしつこくならないように気をつけて。
セリフの際はしっかりと視線を合わせて、その後、思わせぶりに旦那様の胸あたりまで視線を落としましょう。
袖を少し掴むや、そっと二の腕に触れるというのもおすすめです。』
『三日目を過ぎれば、そろそろ新妻らしい気遣いを見せる時期です。
朝は少し先に起きて旦那様とモーニングティーはいかがでしょうか?その時は是非侍女任せにせず自分の手でポットからカップに注いでくださいね』
『十日目にもなると新婚生活にも少しずつ慣れた頃。
ただそろそろお互いに新たな生活の疲れが出てきたり、相手の粗が見えてくる頃です。――――――――――――――――――――――――――――――――』
「ね~ぇ、ミリー」
熟読していた書物から顔を上げ、アリシアは部屋の済に控えていたミリーに声を掛けた。
「はい」
「新妻っていつまで有効なのかしら?」
「――はい?」
いきなり何を言い出すのか、と顔に書いて聞き返すミリーに、アリシアはぷっくりした下唇に指先を当てて言う。
「だから、私ってば一応今日で新婚十日目になるわけじゃない?」
「そう、ですねぇ。一応」
旦那は現在進行形で別の女性と愛の逃避行中であるが。
ついでに無断で侯爵家の金銭を『借りて』いったので、窃盗罪で手配中でもある。
「つまり新妻ってことでしょう?でも新妻っていつまでが新妻なのかしら?ひと月?それとも一年くらい?」
コテン、と可愛らしく小首を傾げて訊いてくるのに、ミリーは内心「いや、知らんわ」と思いつつ、素知らぬ顔で話を逸らした。
「さあ、ところで先ほどから熱心に何の本を読んでらっしゃるんです?」
「これ?ふふん『新妻の朝の心得20日間コレで貴女も愛され妻!』よ」
「…………はぁ」
「ほら、しばらくは新婚生活送んなきゃなんない予定だったんだから。どうせならイヤイヤなだけよりも新妻気分盛り上げて楽しまなきゃやってらんないと思って。買っといたのよ~」
「なるほど、買ったからには読むだけでもですか」
「笑える内容で案外面白いわよ~。最後まで読む気にはならないけど。こんなんでホントに愛され妻になれるんだったら楽なもんよね~」
ケタケタと笑いながら、アリシアは本を閉じる。
「あ~平和。平穏だわ。隣に害虫がいないってだけで毎日空気が清々しいわ」
「だからといって、この十日間――少々だらけ過ぎな気もしますが」
別邸から子爵家がいなくなってからというもの、アリシアはわかりやすく気を抜いていた。
当主としての仕事だけはしているものの、それ以外はほぼゴロゴロダラダラしている。
「さすがに一日寝間着で過ごすというのは淑女として」
と苦言を口にしていたミリーの唇が言葉半ばで止まる。
わずかに開いて、風を通していた窓の外から、かすかな馬の嘶きが聞こえたのだ。
「客人でしょうか」
「来客の予定はなかったはずだけどね?」
「「とりあえず着替えましょう」か」
と、主従は顔を見合わせた。
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