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第28話 石橋との経緯~出逢い

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 思い起こせば、石橋と出逢ったのは大学の時。坂巻は工学部。石橋は経済学部だった。
 畑違いの二人は「技術者と経営」と銘打ったゼミで知り合う。そこで顔を合わせるうちに隣に座るようになり、距離が近づいて行った。
  しかしそれはあくまで友人としてだと坂巻は思っていた。なぜなら、長身で屈強な体型と華やかな容貌の石橋の周囲には、常に容姿端麗で流行の服と高価なブランド品を身に着けた同級生の女達がまとわりついていたからだ。しかも街で石橋を見かける時には、毎回違う女と親しげに歩いているので、卒業後はその女達の中の誰かと結婚するものと勝手に決めてかかっていた。
  さらにその後、成績優秀かつ人目を引く派手な容姿に加え、快活な気質と人当たりの良さで大手の百貨店に内定が取れたと聞いた時、この男はきっと絵に描いたような順風満帆な人生を送るのだろうなと友として純粋に喜んだ。
  とはいえ、そんな坂巻も華奢な体型と端正な顔立ちのおかげで美青年の域に入っている。だが女性と付き合う精神的ガッツと性欲が稀薄で、たとえ彼女ができても大体二度目のデートで相手の方から離れて行く。だから肉体関係までは及ばず童貞のまま。けれど坂巻は悩まなかった。日々の勉学と、在学中に取得できる工事関係の国家資格の受験準備で忙しいうえに、自室で植物の世話をしている方が楽しいと感じていたからだ。
 そんなある日のこと。講義が終わって校舎を出た時に、石橋が一人で歩いているのを見かけた。常に数人の男友達か、あるいは目をハート型にしている女達に囲まれているので珍しいことだ。そこで声をかけてみると石橋は振り向き、陽気に手を振る。そして「オレもちょうど帰る所で、今日は予定もないから坂巻君の部屋を見てみたい」と言う。改めて考えてみれば、今まで互いのアパートへの行き来はない。いつも学食や居酒屋で喋り倒しているだけだった。
「うん。いいよ。散らかってるけど」
「おお、そうか!」
 石橋は取り巻きの女性達といる時とは全く違う種類の笑顔を浮かべ、大げさに喜ぶ。そして「オレのおごりだ」と言って、部屋までの道中にコンビニでお菓子やビールを山ほど買い込んだ。たかが男友達の部屋に遊びに行くだけなのに上機嫌全開の石橋に坂巻は戸惑ったが、深くは考えず部屋へ通す。というのも、自室には工学部の学生らしからぬ物、つまり鉢植えの植物が所狭しと陳列されていてそれらを見た石橋がどう反応するかの方が興味津々であったのだ。
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