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第37話 石橋との経緯~アダルト動画

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 坂巻は意気揚々とベッドに寝そべり、期待に胸を膨らませながらテレビの大画面に向かっている。
  けれど――おかしなことに坂巻の下半身は全く膨らまない。隣に石橋がいるせいかと思ったが、どうもそうでもなさそうだ。他にも女優の好みとかドラマ展開、性表現のうんぬんでもないらしい。
  アダルトチャンネルは三種類あり、種類がバラバラの映像を約四十分刻みで配信していた。それらは若手、熟女、仮装ロリータ、アニメの果てまで多岐にわたる。しかしどれも「ヒット」しない。
  石橋も最初のうちは熱心に観ていたが、慣れない運転に疲れたのか今は隣で小さないびきをかいて眠っている。なので石橋が寝ているうちにこれ幸いと射精しまくろうともくろむも、肝心な部分は沈黙して柔らかいまま。
  画面では女がバックから挿入されて騒々しく喘いでいる。男優はほとんど画面には入らず、女優の体だけが常に大写しされていた。接合部分はモザイク処理をされているがおおよそは予想できる。 けれど悲しいかな己の反応はない。それでも諦めずにチャンネルをひっきりなしに変えては少しでも興奮できる画像を探す。だが悲惨なくらい見つからず最後には目が疲れてうんざりする。
「これはきっとビールのせいだ」
 勃起しないのを酒のせいにしてみる。されど一缶しか飲んでおらず、しかも食後は風呂に入って汗を流し、酔いはすっかり醒めている。そしてついには男優の激しいピストン運動にヒイヒイとすすり泣く女優の声が耳障りになり、テレビのスイッチを切ってしまった。

 間接照明で薄暗い室内は石橋の小さないびきが聞こえるだけとなった。
「はあー……」
 坂巻はそこでなぜか安堵のため息をつく。女の画像と音声から解放されて心底ホッとしたからだ。けれどそれがまたショックでもあった。常々、女に対して淡泊で積極的でないことが、この状況に結びついているのではないか――そう考えると、言葉にしがたい漠然とした焦燥感がドッと押し寄せて来たからだ。
「どうしたんだよ。お前」
 動揺しながら己の股間に小声で話しかけてみる。もちろん返事も変化もなく、終始萎えている我が分身に強い不安を感じるばかり。将来、彼女ができてベッドを共にする時もこんな状態だったらどうしよう。これって勃起不全なのか。ならば病院に行くべきか。しかし行くのは恥ずかしい。でもこのままでは困る。いやそれよりもまず、どうして僕は女の裸に躰はおろか心も興奮しないのか。そっちの方が大問題だ。しかも何かにつけて石橋を意識してしまうのはなぜなのだ。
「まさか……」
 待て。断じてそれは違う。単なる勘違いだ。勘違いに決まっている。
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