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帰り道は遠回りのステップで
しおりを挟む街灯に照らされる私の影は愉快に踊っている。耳に着けたイヤホンからはアップテンポな曲が鼓膜を心地良く叩いている。自然と身体はビートを刻んで、鼓動は加速した。心もまだ帰路には着きたくないようで。私は身体を弾ませ、夜に飛び込む。胸騒ぎがするこんな夜はスキップで。
コンビニで缶ビールとおつまみを買って、人の気が少ない道に入って、私の遠回りは始まる。今日のお供は、なんだかピーナッツの気分だったはずなのに、選ばれたのはピスタチオだった。かじかんだ指先に殻付きのピスタチオはどう考えてもミスマッチだった。そんなことは考えればわかるはずだったのに。歩きながら殻を剥こうとするものだから、足元が覚束ない。そんなことも考えればわかるはずなのに。
さっき流れていたアップテンポの曲とは打って変わって、チルな曲が流れてきて、歩くスピードもチルくなった。海に揺蕩うクラゲのようなダンス。上下左右逆様なステップ。夜に揺蕩う私の姿が幻想的に見えたのか、なんだか視界が曇った。最近はよく視界が曇るんだ。
チルな曲が終わって、またアップテンポが流れてきた。サビ前にメンバーのみんながジャンプしているのを少し前に公開されたミュージックビデオを見て知っていたから、私も一緒に飛んだ。あの星に手が届くくらいまで飛んだ。もう少しで届きそうなところだったのに袋からこぼれだしたセックスピスタチオたちに阻まれてしまった。すでに何粒か地面に落ちてくたばってたけど、物の見事にそれら全て殻が剥けていて、なんだか可愛らしく見えた。
そうこうしているうちに、冷えたビールを持っていた手が逆にビールを冷やしているんじゃないかというほどカチコチなことに気が付いた。心より先に手が家の方角を指差した。
大通りへ出ると人も車もまあまあ居た。多くも少なくもなく。まあまあ。そのまあまあな中に私も居る。歩道を歩いていたら前から人が来て、私はその人と五メートルくらい離れているのに、譲り合いのフェイント繰り広げてしまったり、音楽に合わせて回転を加えてステップを踏んだら、車道挟んで反対側のおばちゃんに白い目で見られたり。圧倒的に私は夜に浮かんでいて笑みが零れた。
すれ違う人たちは、下を向いてスマホを見たり地面見つめたりしてるけど美味しいものでも落ちてたりするのかな。上を向けばこんなにも綺麗な景色がすぐそこに在って手を伸ばせば摑めそうなのに。ほら、あの恥ずかしがり屋さんもやっと顔出した。
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