「怪奇小説」ー短編集

『むらさき』

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「深夜のアプリケーション: 連鎖」

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ある夜、大学生の陽太は目新しいスマートフォンアプリ「ミッドナイト・ビジョン」を発見した。このアプリは、夜間にのみ使用でき、ユーザーの周囲に隠された「何か」を映し出すという。興味本位でダウンロードした陽太は、その夜、部屋の灯りを消してアプリを起動した。

画面には、普段見慣れた自室が映し出されていたが、なにかが違った。「これ、マジか…?」画面の隅に、ぼんやりと人影が浮かんでいる。しかし、振り返るとそこには何もない。ただのバグだろうと思いつつ、陽太は興味を抑えられず、アプリを通じて部屋を探索し始めた。

「おい、聞こえるか?」突然、スマートフォンのスピーカーから声が漏れた。驚いた陽太が「誰だ?」と返すと、画面の中の人影がゆっくりと頷いた。

「俺は、このアプリに閉じ込められたんだ。助けてくれないか?」その声は、どこか懇願するようだった。陽太は恐怖と同時に、この声の主を助けたいという奇妙な義務感を感じた。

その後の数日間、陽太はアプリを通じて声の主と交流を深めた。彼の名前は渉といい、かつては普通の大学生だったが、ある日このアプリを試したことで現在の状況に至ったという。

「解放する方法はあるのか?」陽太が尋ねると、渉は「真夜中に古い神社で特定の儀式を行えばいい」と教えてくれた。それは危険を伴う行為だが、陽太は渉を助ける決意を固めた。

そして、その夜、陽太は指示された神社へと向かった。アプリを起動し、渉が教えてくれた儀式を開始する。不安と恐怖が交錯する中、突然スマホの画面が真っ白になり、強い風が吹き荒れた。

「ありがとう、陽太。おかげで解放されることができたよ。でも、警告しておくべきだった…」

その声と共に、アプリは自動的に消えた。しかし、陽太が自分の姿を確認しようとスマートフォンのカメラを起動すると、画面には彼の姿ではなく、ぼんやりとした人影が映っていた。

「まさか…俺が?」

アプリの呪いは、一人を解放するたびに新たな犠牲者を求める連鎖であったのだ。陽太は自分が次の「閉じ込められた者」になってしまったことを悟り、絶望の中でスマートフォンの画面を見つめ続けた。

これは、技術の進化が生み出した未知の恐怖と、その恐怖が生む予期せぬ連鎖の物語である。
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