「リリー」

『むらさき』

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読み切り短編

「リリー」

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「月が綺麗」

 


 彼女は振り向きながら、私に言った。彼女の顔は暗くてよく見えなかった。

 ◇

 私の名前はナツメ。日系アメリカ人だ。幼い頃は、引っ込み思案で友達も出来ず、一人で本を読んでいることが多かった。

 しかし、近所のリリーはそんな私に興味を持って、声をかけてくれた。

「あんた、みんなとなんで顔が違うの?」

 最初の言葉は今にしてみれば、かなり直線的だった。

 リリーはブロンドで、好き嫌いの多い少女だった。顔立ちは整っているが、決してそれを自覚しているわけでなく、自分の思うように生きていた。

「ナツメ。ちょっときなさい」

 思えば、私は彼女の子分だったかもしれない。

「ナツメ。ちょっと一緒に行きましょう」

 彼女と過ごす時間は煩わしくなかった。それは彼女の魅力だったのかもしれない。

 そんなある日、

「ナツメ、あの橋、夜に見ると綺麗じゃない?」

 リリーは私を夜の散歩に連れ出した。

 彼女と深夜の公園で橋を見た。そこから見える橋はなんの障害物もなかった。ボーっとそれを見ていると彼女が、私の視界を遮るように前に立った。

「月が綺麗」

 その晩、家に帰ると、私は両親に𠮟られた。子供二人で深夜に外出したんだ、当然だ。それから、しばらく、私はリリーと遊ぶことを禁止された。

 禁止が解けて、初めて私からリリーの家を訪ねた。しかし、リリーの家は売家になっていた...

 ◇

 それから、しばらくして、いや正確には十数年後、私は大学生になった。彼女もできて、奨学金の審査も通って恵まれた生活を送っていた。

 人見知りだったころからすれば、友人も多少は増えていた。

「ナツメ、マイナー映画でも見ないか?友達が監督をやっているんだ」

 友人からだった。マイナー映画なんて、全く見る気はなかった。しかし、その映画のキャストに知っている名前があった。

 ◇

 その日、茶髪の恋人とマイナーな映画を見るために他の大学へ行った。恋人には、友達から誘われたとだけ伝えた。

 部屋に入ると、そこに助演リリー・スミスはいなかった。彼女はその試写会の数日前に亡くなっていた。交通事故だった。

 試写室の隅には、花が飾られていた。

 映画は平凡なものだった。主人公がヒロインに恋をして告白する。ただ、それだけだ。話の展開も予想しやすい、映像も退屈だった。

 しかし、深夜、主人公がヒロインに告白するか迷って、間違って別人に声をかけてしまう場面。そこだけ、綺麗に撮られていた。

 


 ほんの数秒だったかもしれない。しかし、私にとってはそれ以上に感じられた。

 ◇

「最後の告白はよかったけど、それ以外はね。ナツメはどうだった?」

 恋人が私に聞く。

 私はただ、一言だけ答えた。

「月が綺麗だった」
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