秘密の恋愛譚

『むらさき』

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裏の英雄譚

英雄譚の真実

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 かつて、名もなき小さな村があった。そこには古くから語り継がれる英雄譚が残っている。英雄カイは、自らの命を懸けて村を荒らし回る盗賊たちから守り抜いた。その勇敢な行いは、村人たちの心に深く刻まれ、世代を超えて語り継がれてきたのだ。

 ある日、青年ガラフが王都からの長い旅を終え、故郷の村に帰ってきた。彼の目的はただ一つ、余命わずかな母マルグリッドを看取ることだった。村に着くなり、ガラフは母が横たわる小さな家へと急いだ。家は昔と変わらず、穏やかな木の香りとともに過去の記憶が蘇る。

 医師のデビーは、ガラフを部屋に案内した後、二人きりになるようにと部屋を出て行った。そこには、弱々しくも温かな微笑みを浮かべるマルグリッドの姿があった。

「お帰り、ガラフ。待っていたわ」と母は弱々しい声で言った。

 ガラフは母の手を握りながら、涙がこぼれ落ちるのを抑えられなかった。彼は母に自分の旅の話を始めた。王都での生活、見た光景、学んだこと。そして、母が教えてくれた英雄カイの話を思い出しながら、自分も母が誇りに思えるような人間になりたいと語った。

 マルグリッドは微笑みながら聞いていた。

 マルグリッドは、ガラフが自分の過去について知っておくべきだと感じていた。彼女は息子の目を見つめながら、ゆっくりと話し始めた。

「ガラフ、実はあなたには知らないことがあるの。あなたはこの村ではなく、深い森の中で見つけられたのよ。ある冷たい夜、村の医者が森で小さな包みを見つけた。その中には、赤ん坊のあなたがいたの」

 ガラフの目には驚きが浮かび、母の言葉に耳を傾けた。彼の心は動揺と共に満たされつつあった。

「医者はあなたを私の元に連れてきたの。私には子どもがいなかったから、あなたを我が子として育てることに決めたのよ。あなたは私の命の光、私の誇り。カイのような英雄になる必要はない。あなたは、ただあなたでいるだけで、私にとっては最高の贈り物だったのよ」

 マルグリッドの声は弱まりながらも、愛情深く、誇りに満ちていた。ガラフはその言葉を胸に刻み、自分が村に受け入れられ、愛されてきた理由を改めて感じた。

「母さん、俺は...俺は本当に母さんの息子じゃないんだね...でも、母さんが俺を育ててくれて、本当に感謝している。母さんこそが俺の英雄だ」とガラフは言い、涙を抑えきれずに声を震わせた。

 マルグリッドは微笑んで、息子の手を優しく握り返した。

「血のつながりなんて関係ないわ。家族とは、心で結ばれた人たちのこと。私たちは、心からの家族よ...」

 ガラフはマルグリッドが苦しみ始めるとすぐに、医者のデビーを呼びに走った。デビーは慌ただしく部屋に入り、マルグリッドの容態を確認した後、深刻な面持ちでガラフに告げた。

「ガラフ、君の母は今夜が山だ。覚悟を決めておいた方がいい」

 ガラフは母の手を握り続けながら、デビーの言葉を受け入れることができずにいた。しかし、デビーはさらに重大な告白を彼にしようとしていた。

「実は私には、君に話さなければならないことがある。私はただの医者ではない。私は、ある種の悪魔なのだ」

 ガラフは驚愕し、信じがたい思いでデビーを見つめた。デビーは静かに続けた。

「英雄カイの物語は真実だが、全てを話したわけではない。カイは盗賊を退治する力を求めて私と契約した。力と引き換えに、彼には呪いが掛けられた。力を得る代わりに、彼は赤ん坊として生まれ変わり、愛する人に育てられる呪いをかけたのだ。そして、愛する人が死の間際になると、私が現れて同じ契約を持ちかけるのだ」

 ガラフは息を呑み、恐怖と混乱で声も出なかった。

「つまり、君はカイだ。そして今、私は君に契約を持ちかけに来た。君が同意すれば、マルグリッドは、新たな生を受けるだろう。しかし、呪いは続く」

「いや、私は契約などしない。母は私を愛してくれた。私はその愛を胸に、呪いを断ち切る」

 デビーは少し驚いた様子で、しかし冷静に頷いた。

「それが君の選択か。ならば、呪いはここで終わる。しかし、母の苦しみは自然のままに任せるしかない」

 デビーはガラフの反応を楽しむように、さらに秘密を明かした。

「私が君にこの提案をしたのはこれで3回目だ。そして今、私は君の母マルグリッドの若返りを再び提案する」

 ガラフはデビーの言葉に眉をひそめた。デビーは微笑みながら続ける。

「私は二人の恋人が永遠に出会えない運命に陥るのを楽しむ。君の母は若返り、また赤ん坊として生まれ変わる。そして、君が死ぬ直前に、私はまた現れて同じ契約を提案する。記憶は消され、呪いは永遠に続く。それが私が楽しむ永遠のゲームだ」

 ガラフはそんな残酷な遊びに愛する人を巻き込まれたくないと思い、怒りを覚えた。しかし、母親を助けるためにはどうすればいいのか、彼は深い葛藤に陥った。

「私はどうすれば、この呪いから逃れることができるのだろうか」

 デビーは首を傾げ、ある提案をする。

「君が本当にこのサイクルを終わらせたいなら、私との契約を拒否し、自然の流れに任せるしかない。君がさっき言ったようにね。だが、それは君の母が苦しむ姿を見るということだ」

 ガラフは深い苦悩の中で決断を下した。

 ガラフはデビーとの契約に同意した。契約が成立した途端、デビーは彼に告げた。

「この契約によって、我々の会話はお前の記憶から消え去るだろう」

 その言葉が終わると同時に、ガラフの意識は、マルグリッドが亡くなった直後の光景に切り替わった。デビーはガラフに近づき、マルグリッドの遺体をすでに墓に埋めたこと、そしてある孤児を見つけたことを告げる。

 記憶を失ったガラフは、深い因果関係を感じ、その赤ん坊を育てることを決意する。彼には明確な記憶はないものの、不思議とその赤ん坊に対して特別な感情を抱く。赤ん坊は何の因果か、ガラフの心に深く響く何かを持っていた。

 ガラフはその子を自分の子として受け入れ、愛情を込めて育てることにする。彼はこの子を通じて、マルグリッドの愛を感じ続けることができると直感的に感じていた。そして、ガラフはこの無垢な命が、かつて自分とデビーとの間で交わされた、忘れ去られた契約の一部であることには気づいていない。

 ガラフは新たな人生を始めるとともに、孤児に対する無償の愛を通じて、かけがえのない幸せを見出すのだった。
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