着いたところは異世界でした。

千野恵

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第一章  異世界にこんにちは

1.典型的な中二病

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1.典型的な中二病
ああ、死んだな。
俺は崩れる大地の亀裂の中へ、頭から落ちて行きながら漠然とそう思った。

その日世界中で大地が激震したのだった。

それは、新入職員がそろそろものになりだしてきた夏の初めのことだった。
吉祥寺の零細企業に就職して五年、僕こと鈴木一郎はもうすぐ二十三歳になろうとしていた。
毎日が大変で睡眠時間もろくにとれず、俺はパソコンでプレゼンのやり直しを何度も家でやっていたので、足元がぐらり崩れたと思ったのは、自分が寝不足のためだからだと思った。

俺が、交差点で信号待ちをしていた時だ。突然地震があり、道路が波打ち足元が崩れ落ちた。周りの人は悲鳴を上げて、次々と大地に飲み込まれていった。
そして俺も、そのうちの一人で、大地に飲み込まれていった。
死ぬ前に走馬灯のように昔のことがよぎる、と聞いたことがあるが、本当にそうだった。
俺は短い人生の思い出をめまぐるしく思い出していた。

俺は高校生のころまで、昔小さい頃にテレビで見ていた漫画の世界が本当に目の前に広がったら、どんなに素敵だろうかとよく妄想していた。
俺はその漫画のようにある日突然、異世界に召喚される。
そこでは俺は聖戦士みたいに恰好よく悪と戦うのだ。
きっと、主人公のように何かの事故に合って、オー〇ロードを通って異世界に行くのだ。そして、召喚された世界で俺はその世界のために戦って華々しい活躍をする。

今でいう典型的な中二病であった。

妄想世界では、さえない俺ではない恰好の良い俺が大活躍するのだ。
小学校のころからそう願い、いつ召喚されてもいいように、一人運動場を走ったり棒切れで素振りをしたりしていた。

中学生になっても、高校生になっても、俺は妄想していた。
現実があまりにもつらかったので。

俺はいわゆる交通事故遺児である。
小学一年の時、両親ともに自動車事故で亡くなった。
両親は一人っ子でどちらの両親もなくなっていたので、俺には親戚はほとんどおらず、天涯孤独という身だったため施設に入るしかなかった。
そこでは、様々な理由で両親と暮らせない子供たちが大勢暮らしていた。
けれど、俺のように全くの天涯孤独というのは数えるほどしかいなかった。
捨て子、育児放棄による親権剥奪でここに入った子、片親のため生活が苦しいため一時預かりの子、などなどなど。

現実的に前を見据えて生活する子は結構いたが、俺のように空想のごっこ遊びをする子も何人かいた。その中でも一つ下の齢の男の子とは話が合った。
俺たちは仲良くなり、よく空想し合った世界で遊んだものだった。

しかし、俺が中学を卒業するころから、空想世界は僕だけのものになった。
その子が遠い親戚の家に引き取られていってしまったので。
その子は成績が良かったので、医者の跡取りのいない家に養子として入ったのだ。今まで引き取らなかったのは、医者になれるほどの成績が良いかどうか分らなかったから、らしい。
そう言ったわけで、俺は一人残されたのだが、相変わらず空想世界へとのめりこんでいった。

そうして俺は高校を卒業し、零細企業へと就職し寮暮らしを始めた。

恋人もいたし、それなりの経験もしたけれど、つい最近振られてしまった。
医学生になった施設のころの年下の友人とは、今もまだ交流を続けているし、友達も少ないけれどいいやつがいた。

概ね短いけれど良い人生だった。

目をつむりながら感慨にふけっていると、落ちていくのがやけに長いことに気付いた。
白い光の中で、一人浮かんでる。周りには誰もいない。
いや、すごく遠いけれど、影が二つばかり見えた。
それにしてもあの亀裂に飲み込まれたんだよな?
よくわからんが、大地が裂けただろ?
関東大地震かな?とうとう来たんだろうな。

なんて思っていたが、それは間違いで世界中が未曾有の危機だったってことが後で分ったが、この時は日本で、というか、関東で地震があったのだと思っていた。その事が間違いであると知ったのは、かなり後になってからだったが、その時の俺には知る由もなかった。

そうして、いつまでたってもどこにも着かないことを不思議に思い、ひょっとしてもう死んだのか、これは死後の世界か、と疑問を持った頃だった。
どこかに行きつくことがあるのか、と思っていたらひと際まばゆい光に包まれた。

そして、目を覚ますと。

着いたところは異世界でした。
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