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第一章 異世界にこんにちは
4.おいしいけどキケンだよ
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4.おいしいけどキケンだよ
『 ねえ。イチローはいかいではなにをしていたひと?』
俺がこれからこの異世界で生活する術すべをどうするか、漠然とこれからの事を思いめぐらしていると、ファンがそう問いかけてきたので、頭をはっきりさせるため頭を振って深呼吸をした。
俺から見るとここが異界だけど、ここからすると俺がいた所が異界だよなぁ、と思いながら答えた。
「俺は、ただのサラリーマンだった。健康食品を売るために営業をしていたんだけどね。商品を売るために各会社に営業の為にプレゼンテーションしたり、個人商店に製品を置いてもらうために営業をかけたりしてたんだ。」
『 サラリーマン?ってなあに?オウラいっぱなのにまほうつかいじゃないの?しょうひんをうるひと?しょうにん?』
オウラが一杯か。魔法みたいな力の事だったよな。俺にもあるのか。
まあ、良い。後で聞こう。
それより、ちょっと言葉が難しかったか。異世界の妖精にサラリーマンとか営業とかわかるわけないよな。彼女の頭の上に大きな?マークが渦巻いているみたいだ。
「魔法使いじゃないよ。魔法使いは俺の世界には居ないんだ。サラリーマンってのはひと月ずつお給料をもらう職業人のことだよ。俺は、品物を人に買ってもらうための売り込みをしていたんだから商人な。うん。商人だよ。」
俺がそう言うと、村人たちにそれを通訳してくれ、また何かを質問するように言われている。
『 いまなにかうるものとかあるの? 』
「あ~。持っていた鞄にサンプルが結構入ってたけど、どこかに落してきたみたいだから、何も売れるような物はないな。」
俺がそう言ってファンが通訳すると、村長が村人に耳打ちした。すると村人が二人外に出ていき、外から棒切れの先にひっかけた網に入った何かを重そうに持ってきた。
よく見ると網の中のシルエットは俺の営業鞄みたいに思える。リュックにもなる中型のキャリー鞄だ。
異界モノだからだろう、持ってきた村人も戦々恐々になって扱っている。
そうか、俺と一緒にここに落ちてきたんだ。あの中には一通りのサンプルと、会社用のタブレット端末やUSBメモリーやらが入っている。けれど、この世界で売れるものなんてあるのかな。サンプルはビタミンサプリやら黒酢やリンゴ酢くらいしかないな。あ、人工甘味料はあるや。でも、これらのものが売れるかね。需要はなさそうなんだよね。
せめて、医薬品の会社だったら医薬品とか売れただろうに、健康食品だものな。
網に絡まっていたが、どうにかして取り出すとそれはやはり俺の営業鞄だった。
『 なかをみせて。 』
ファンがそう言って俺の手元を覗き込んだ。
「ああ、開けてみようか。」
鞄は濡れていないし、パッと見では壊れたような感じはない。
白い空間で衝撃があったのは俺だけだったのか?鞄は綺麗なものだ。
ファスナーに付けていたナンバー鍵も壊れてない。鍵を開けてファスナーを開こうとしたが、金属製で二重になってるし、やはり何かの衝撃で開きにくくなっていたようで動きが悪かったが、どうにかしてファスナーを動かす事が出来た。
村人が恐々と見守る中、俺はサンプルを次々と出してみた。
中身は壊れてないみたいだ。ガラス容器は割れてないし、プラスチックも変形してない。
凄い。黒酢とリンゴ酢のデカ紙パックすらも破れてない。
うん?タブレット端末もそのままだ。あとで電源スウィッチを入れてみよう。
『 イチロー、これなに? 』
ああ、医薬部外品の健康のど飴だ。結構安いし美味いから、サンプル品を持っていったら直ぐに売れる品物だ。部屋が乾燥している事務室の人に一~二個ずつ配ると、その場で結構売れるから割りと大目に入れていたけど、ひ~ふ~みぃ~、っと十二袋あるな。
これ、ここで売れたらいいな。
これからこの世界で暮らすなら、先立つものが必要だ。
試供品としてファンだけじゃなく、ここにいる人にもあげよう。気に入って買ってくれたらいいけど。
「喉に良い飴だよ。一個舐めてみる?」
『 あめなの?ちょうだい! 』
俺の手元を間近で覗き込んでいたファンが、ピュンピョン飛びながら俺が飴の袋を開けるのを待っている。微笑ましく思いながらも毒見が必要かと思い、オレンジ飴を一つ口に含んで舐めてみせる。ファンにはイチゴ味の袋を開けて中身を取り出して差し出すと、俺の指にある飴に顔を近づけてペロリと舌を出して舐めた。
『 わあ。おいしいね。こんなのたべたことないよ。あまいね。おいしいね。』
「気に入った?」
『 うん。おいしい。』
夢中になってペロペロしている。可愛いな。こんなに小さいのにちゃんと睫毛がある。
ホント、フィギュアよりよく出来てる人形みたいだ。
羽が細かく震えてホバリングしているが、ずっと羽ばたいててよく疲れないな。
ああ、手をつくとベタベタになるのに。取れなくなっても・・・。
って、やっぱり飴に引っ付いてるよ。ありゃ、髪まで。
俺は左手に飴をもったまま、右手の上にファンを乗せた。
ファンが手の上で転げそうになったので思わず、声を立てて笑ってしまった。
恨めし気にこちらを見てるから、誰かに水を持ってきてもらおうと思って村長さんの方を向いたら、吃驚びっくりした顔をしているのが分かった。
え、なんでそんなに吃驚してるんだ?
「 **********、*** ? 」
何か叫んでる。なんだろう。
『 だって、おいしいんだもん。ねえ、イチローわらってないでひっついたのとって。』
「ごめん、ごめん。水を持ってきてもらえるか聞いてくれるかい?水で洗い流さないと駄目そうだ。」
『 みずでとれるの?ねえ、(村長に向かって)みずでとれるって。おみずちょうだい。 』
ファンが言うと村人の一人が慌てて外に出た。
『 イチロー、これおいしいけどキケンだよ。 』
と言うとファンは俺の手のひらに横になった。
「そうだね。一個丸ごとは危険だったね。ファンが食べ易やすいように小さく砕くだいた方が良かったな。気が付かなくてごめん。水で洗い流して引っ付いたのが取れたら、小さくしてあげよう。」
俺がそう言うと、ファンは涙目でコクコクと頷うなずいた。
その姿が可愛らしくもあり哀れでもあり、で、俺は一人、ファンの可愛い姿を愛でつつ、村人が水を持って来るまでずっと笑っていた。
『 ねえ。イチローはいかいではなにをしていたひと?』
俺がこれからこの異世界で生活する術すべをどうするか、漠然とこれからの事を思いめぐらしていると、ファンがそう問いかけてきたので、頭をはっきりさせるため頭を振って深呼吸をした。
俺から見るとここが異界だけど、ここからすると俺がいた所が異界だよなぁ、と思いながら答えた。
「俺は、ただのサラリーマンだった。健康食品を売るために営業をしていたんだけどね。商品を売るために各会社に営業の為にプレゼンテーションしたり、個人商店に製品を置いてもらうために営業をかけたりしてたんだ。」
『 サラリーマン?ってなあに?オウラいっぱなのにまほうつかいじゃないの?しょうひんをうるひと?しょうにん?』
オウラが一杯か。魔法みたいな力の事だったよな。俺にもあるのか。
まあ、良い。後で聞こう。
それより、ちょっと言葉が難しかったか。異世界の妖精にサラリーマンとか営業とかわかるわけないよな。彼女の頭の上に大きな?マークが渦巻いているみたいだ。
「魔法使いじゃないよ。魔法使いは俺の世界には居ないんだ。サラリーマンってのはひと月ずつお給料をもらう職業人のことだよ。俺は、品物を人に買ってもらうための売り込みをしていたんだから商人な。うん。商人だよ。」
俺がそう言うと、村人たちにそれを通訳してくれ、また何かを質問するように言われている。
『 いまなにかうるものとかあるの? 』
「あ~。持っていた鞄にサンプルが結構入ってたけど、どこかに落してきたみたいだから、何も売れるような物はないな。」
俺がそう言ってファンが通訳すると、村長が村人に耳打ちした。すると村人が二人外に出ていき、外から棒切れの先にひっかけた網に入った何かを重そうに持ってきた。
よく見ると網の中のシルエットは俺の営業鞄みたいに思える。リュックにもなる中型のキャリー鞄だ。
異界モノだからだろう、持ってきた村人も戦々恐々になって扱っている。
そうか、俺と一緒にここに落ちてきたんだ。あの中には一通りのサンプルと、会社用のタブレット端末やUSBメモリーやらが入っている。けれど、この世界で売れるものなんてあるのかな。サンプルはビタミンサプリやら黒酢やリンゴ酢くらいしかないな。あ、人工甘味料はあるや。でも、これらのものが売れるかね。需要はなさそうなんだよね。
せめて、医薬品の会社だったら医薬品とか売れただろうに、健康食品だものな。
網に絡まっていたが、どうにかして取り出すとそれはやはり俺の営業鞄だった。
『 なかをみせて。 』
ファンがそう言って俺の手元を覗き込んだ。
「ああ、開けてみようか。」
鞄は濡れていないし、パッと見では壊れたような感じはない。
白い空間で衝撃があったのは俺だけだったのか?鞄は綺麗なものだ。
ファスナーに付けていたナンバー鍵も壊れてない。鍵を開けてファスナーを開こうとしたが、金属製で二重になってるし、やはり何かの衝撃で開きにくくなっていたようで動きが悪かったが、どうにかしてファスナーを動かす事が出来た。
村人が恐々と見守る中、俺はサンプルを次々と出してみた。
中身は壊れてないみたいだ。ガラス容器は割れてないし、プラスチックも変形してない。
凄い。黒酢とリンゴ酢のデカ紙パックすらも破れてない。
うん?タブレット端末もそのままだ。あとで電源スウィッチを入れてみよう。
『 イチロー、これなに? 』
ああ、医薬部外品の健康のど飴だ。結構安いし美味いから、サンプル品を持っていったら直ぐに売れる品物だ。部屋が乾燥している事務室の人に一~二個ずつ配ると、その場で結構売れるから割りと大目に入れていたけど、ひ~ふ~みぃ~、っと十二袋あるな。
これ、ここで売れたらいいな。
これからこの世界で暮らすなら、先立つものが必要だ。
試供品としてファンだけじゃなく、ここにいる人にもあげよう。気に入って買ってくれたらいいけど。
「喉に良い飴だよ。一個舐めてみる?」
『 あめなの?ちょうだい! 』
俺の手元を間近で覗き込んでいたファンが、ピュンピョン飛びながら俺が飴の袋を開けるのを待っている。微笑ましく思いながらも毒見が必要かと思い、オレンジ飴を一つ口に含んで舐めてみせる。ファンにはイチゴ味の袋を開けて中身を取り出して差し出すと、俺の指にある飴に顔を近づけてペロリと舌を出して舐めた。
『 わあ。おいしいね。こんなのたべたことないよ。あまいね。おいしいね。』
「気に入った?」
『 うん。おいしい。』
夢中になってペロペロしている。可愛いな。こんなに小さいのにちゃんと睫毛がある。
ホント、フィギュアよりよく出来てる人形みたいだ。
羽が細かく震えてホバリングしているが、ずっと羽ばたいててよく疲れないな。
ああ、手をつくとベタベタになるのに。取れなくなっても・・・。
って、やっぱり飴に引っ付いてるよ。ありゃ、髪まで。
俺は左手に飴をもったまま、右手の上にファンを乗せた。
ファンが手の上で転げそうになったので思わず、声を立てて笑ってしまった。
恨めし気にこちらを見てるから、誰かに水を持ってきてもらおうと思って村長さんの方を向いたら、吃驚びっくりした顔をしているのが分かった。
え、なんでそんなに吃驚してるんだ?
「 **********、*** ? 」
何か叫んでる。なんだろう。
『 だって、おいしいんだもん。ねえ、イチローわらってないでひっついたのとって。』
「ごめん、ごめん。水を持ってきてもらえるか聞いてくれるかい?水で洗い流さないと駄目そうだ。」
『 みずでとれるの?ねえ、(村長に向かって)みずでとれるって。おみずちょうだい。 』
ファンが言うと村人の一人が慌てて外に出た。
『 イチロー、これおいしいけどキケンだよ。 』
と言うとファンは俺の手のひらに横になった。
「そうだね。一個丸ごとは危険だったね。ファンが食べ易やすいように小さく砕くだいた方が良かったな。気が付かなくてごめん。水で洗い流して引っ付いたのが取れたら、小さくしてあげよう。」
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その姿が可愛らしくもあり哀れでもあり、で、俺は一人、ファンの可愛い姿を愛でつつ、村人が水を持って来るまでずっと笑っていた。
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