着いたところは異世界でした。

千野恵

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第一章  異世界にこんにちは

6.ラッキーでチート

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6.ラッキーでチート

 異世界に着いて体感的には数時間だけど、体はそれほど疲れていなかったので、神殿への奉仕は出来そうだ。
 用を済ませると、早速俺は神殿の裏手に連れて行かれた。
 
 働かざる者食うべからず、と諺にもあるように、ここでも無料では食事も宿泊もできないのは当然だろうとは思うし納得したので、村人と同じようにして葡萄ぶどうを摘む事に文句はない。
 けれど・・・、連れて行かれた裏庭には、裏庭とかのレベルじゃなかった。
 表は木々や花が植えてあったのだが、裏庭の敷地内にはこれでもかと、一面葡萄畑が植わっていたのだ。この収穫を手伝わなくてはならないのだ。
 葡萄の収穫をほぼ村人全員で行っているというが、村人が葡萄を入れる籠かごの大きさを見て、同じように背負しょっていけるのか不安に思った。

 俺は元の世界では、一応ホワイトカラーだった。
 ガテン系の肉体労働は、高校の時のアルバイトでした事があるのだが一日で音を上げた。
 ヒョロヒョロした体で、半端なく力がいる肉体労働系は無理があったのだ。
 体力テストでは一応平均男子並みだったけど。
 そのため、ウエイターとかならまだ力仕事はいらなかったから良かったので、それ以来、室内のアルバイトを厳選して行った。
 そんな俺に、この広大な葡萄畑の収穫を手伝えと?
 かなりな重労働であろうことを覚悟しながら、指示された通り籠を背負って畑に出た。
 頭には村長からの指示で、ファンがずっと座っている。巣を作ってんじゃないかってくらい、さっきから頭の上でモゾモゾしていたが、今は落ち着いて大人しくなった。
 寝てる?なんか寝息が聞こえる。
 通訳だけだから用事がない時は自由でいいとは言ったけれど、人の頭の上でよく寝られるな。
 結構動きがあると思うんだけど、上から落ちないのかな~。
 まあ、いいや。取りあえず、摘み方を教わったし、指示された区域でできる限り葡萄を摘む、こういった単純作業は却って何も考えないで済むからよいかもしれない、そう思いながら作業をこなしていくことにした。
 スーツでは汚れるからネクタイを取って上着とYシャツは脱いで、ランニングだけになった。
 汗ばむくらいの気温で良かったと思いながら、作業に勤むことにした。

 結果として、葡萄摘みの作業は思っていたより簡単だった。
 籠の重さもなんだこれ、っていうくらい軽かった。中身をいっぱい詰めてもさほど重くなかった。
 ただ、葡萄を摘むとき優しく扱わないと、すぐに潰ぶしてしまうので慎重に摘み取ることを心掛けた。こっちの葡萄がこんなに繊細だとは思わなかった。元の世界では、俺が多少強く握ってもそれほど軟(やわ)じゃなかったけど、こっちのはちょっと持っただけですぐ潰れてしまうのだ。
 最初は何個もダメにしてしまって村長からあきれられたけど、次第にコツをつかんで最後はスピードも乗ってヒョイヒョイ出来るようになった。
 俺ってすごいじゃん。なんて自画自賛してしまった。

 それが違うと気づいたのは、作業が終わって皆のところに行った時だった。

 ワインを作るためと言って、籠の葡萄を倉庫に持っていくのだが、軽かったから片手で持っていたら、村人たちが俺を見て何やら喚わめいていた。
 なんて言ってるのか分らないから、頭の上で寝ているファンを起こして通訳してもらった。

 『 わたしたちがりょうてでもってもおもいかごを、かたてでもってるのはばけものじゃないのか、だって。イチローはおもくないの? 』
 「そんなに言うほど重くない。見た目より軽いけど?ほら。」

 俺はちょっと調子に乗って、籠を肩まで持ち上げると、また村人が、おお~っと声を上げた。

 『 ちからもち? それともオウラのちからをつかってるの? 』
 「力持ちってほどじゃないよ。元の世界では非力とまではいかないけど、成人男子の平均位だったからさ。オウラの力が魔法みたいな力って言ってたけど、俺の世界にはなかったから、オウラの力を使ってるとは思えない。籠は普通に重くないから持ち上げられたんだけど。」

 『 もとのせかいではそれがふつうだったの? 』
 「まあ、ここの基準からしたらそうなのかもね。」
 『 そうなんだって。 』

 ファンも俺の言葉を通訳するのに慣れたみたいだ。村長に説明してくれている。
 それにしても、ここの人たちは見かけに因らず非力なんだ~、と俺は少し優越感を覚えた。

 あ、でも待てよ。

 重力が元の世界よりもここの方が弱いのかな。
 そう言えば、さっき高い枝にある葡萄を取る時にジャンプしたけど、軽くしても結構な高さにまで飛べたからなあ。
 ということは、筋力もこちらの人たちよりもあるかも。
 重力が強い所では背が低くなるって聞いたことがある。重力に押しつぶされて、高くならないって。
 その代り、筋力は強くなるとも聞いた。
 火星人と地球人ではどちらが力が強いか、っていうテレビ番組で評論家みたいな人が、小難しい顔でそう言ってたような気がする。

 きっとそうだ。ってことは、俺はプチスーパーマンか?

 そう思っていたけれど、実際は『 あたらずとも遠からじ 』という所だったのだが、この時の俺はのほほんと(やったー、ラッキーでチートな力が俺にある)なんて暢気に考えていた。

 しかし、それのおかげで、というか、そのせいでこの世界を放浪する破目になろうとは、この時の俺には知る由もなかった。
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