着いたところは異世界でした。

千野恵

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第二章  魔法使いイチロー

18.俺でないだれか

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18.俺でないだれか

『もちろん、貴方にできることですよ。いえ、貴方だからできること、と言ったらよいでしょうか。その代り、わたくしの要請に応えてくれる対価として、貴方がわたくしに聞きたいと思っている事について答えましょう。』

おっと。女神さまが対価とか言う?

あ、いや、そう言えば、神だからこそ対価なのか。

大体神様にお願いするには、対価として何かを我慢するとか願掛けとかあるもんな。
今回は俺が女神の手伝いをすることで、対価をくれるからちょっと違うけど。
う~ん。聞きたいことは山ほどある。
答えをくれるというのはうれしい。
でも・・・。

「その情報はお手伝いする対価として見合ったものですか?」

『 神に対価を要求して、不公平なことはありませんよ。きちんと見合っているでしょう。』
 
「・・・・」

俺はしばらく考えるふりをしていた。
もちろん、答えは決まっているけれど。

「イチロー、勿体つけるんじゃない。女神にお聞きしたいことを聞くのではないのか。」
「いえ。聞きたいことはたくさんあるんですが、少し考えたくて。」

そう、自分一人でもできるかもしれないけれど、でも・・・。

『 そうですね。イカルスも同道しても良いししなくても良いし、どちらでも構いませんよ。ただ し、私からの要請はイチロー一人に対してです。イカルスに同道してもらうならば、貴方がその対 価をイカルスに支払わなければなりませんよ。』

げっ。こっちの思惑見透かされてた。

イカルスと二人なら引き受けるとか言おうとしてたのに、先手を打たれてしまった。
どうしよう。一人でするってのはなんかヤバそうな気がする。

中身を聞くのもヤバい気がするけど、俺が聞きたいことはいくつもあるし、答えはたぶん神にしか わからないだろう。
どうしたらいい。

「女神の要請っていうのは、実行困難なことですか。」
『 普通の人間には絶対に無理なことですね。魔法使いの上級者にもかなり困難なことでしょう。 けれど先ほども言いましたが、貴方なら困難ではあってもやり遂げられることでしょう。』

きたよ。そうか。俺なら困難であっても出来るって。

俺が知りたいこと。

イカルスにはお見通しなんだろうか・・・。

俺は、俺自身のオウラのこともだが、異常な腕力についても知りたいのだ。

最初にこの世界で働いたとき。

そう、あの最初の日の葡萄の収穫の時、物が軽く感じるのは重力の違いのせいかと思ってたんだよ な。
でも、しばらくして下に物が落ちた時に気が付いた。その物の撥ね具合とかが同じだったから、重 力は関係なくて結局、俺の腕力が異常だと言う事に気づいたのだ。

おかげで、ドアノブやらナイフやら、軽く持っておかないとグニャリと曲がってしまうので、常に気を使わないといけなかった。

他にも、本来知るはずのない知識が、ふと頭の中に浮かんでくるっていう経験を何度もした。
これは有難いような気もするけれど、その不気味さはちょっと来るものがある。

絶対元の世界の常識では考えられないことが、当たり前のように{これが正しい}と納得してしまえていることが多々あったのだ。

俺は、ここに来た当初のファンとの会話を思い出していた。

(イチローがいたところはどんなところ?)
(東京っていう日本の首都に住んでたよ。それは大きな都市でね、人が大勢住んでて一杯の職業があったよ。戦争もなく平和だったな)

(ご飯は何をたべてたの?)
(朝の光を浴びて野原に寝転ぶだけで、栄養は取れてた、、、ような・・・えっ、、、いや、そんなことないよな。ちゃんと米食ってたし、肉食ってたし。なんで、光を浴びて?野原とか寝ころばないし。)

(光を浴びるだけなんて、仙龍せんりゅうみたいだね)
(仙龍ってなんだろう)

 と思ったら頭の中にその答えが浮かび上がってきた。

 ーーー仙龍、、、光が主食、時々植物や動物の生気を食事として摂ることもあるが、命に危険が迫ったりしなければ光だけで事足りる。元はリバイアサンとして海の底で生活をしていたが、永く生きたものが魔法で地上へと飛び出せるようになると、口からの食事をとらなくてもよくなり、光から栄養を取るのみで生きることが出来る。また思想に耽ふけるようになるため、ほとんど動かずしまいには岩と化すこともあるが、時々若い空龍に知識を与え、その後空気中に溶けるようにして散ることもあるーーー

これは、俺が絶対知りえるはずもないことだった。
本でも読んだ覚えはないと言い切れる。
なのに、当たり前のようにすらすらと頭に浮かんだのだ。
そして、これは自分のことだと頭の中の俺が感じているのだ。

ぞっとした。
俺ではない何かが、俺の中にいる?

パニックになりそうになった時、またすんなりと、頭の中で考えが浮かんだ。

― 知っているものは知っている、それで良い。深く考えることはない。そのうち整理もつくだろう。

俺であり、俺でない誰かが考えたことに、すんなり納得する自分がいた。
これが今の俺ってことで、深く考えずとも良い、なんて、自分の疑問に自分で応えてる俺がいるのだ。

そんな風に、時々知らない知識がふと浮かんだり、自分の事ではないのに自分の事のように思えたりすることが、この五年間で度々あった。 

イカルスにも相談したが、いずれわかる時もあるだろう、と、対して気にしてはくれなかった。

いや、気にしてくれてはいただろうけれど、深くは追及してこなかったのだ。

いや、違う。

そうだ。

一流の魔法使いになった時に、女神に相談するとよい、と言われていたことがあった。
なんでそれを今まで忘れてたんだろう。
いつか女神にお会いする機会があれば、相談したらよいといってくれたんだった。

ああ。そうか。だからか。
今回のこの天界行きは、イカルスが俺に女神に相談というか、聞きたいことを聞かせようとしていたのか。
俺は、なんでこんな大事なことを忘れてたんだろう。
色々なことが思い出されて、俺はパニックになりそうになった。

すると、イカルスが俺の手を強く握り言ってくれた。
「大丈夫だ。女神にききたいことを聞いて、すっきりするといい。お前自身が一番聞きたいことを聞くんだ。ここに私もついている。」

俺の知りたいこと。

謎だらけのこの自分とこの世界との関係。

俺は知りたかったんだ。

そう。だから決まっている。

俺は女神に応える。
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