18 / 47
第1部
第14話 沖縄観光物産店の親子(?)
しおりを挟む
4月11日、伊波普猷と月城らは人を助けたエミリーやマーティンのお礼を言いに安里のうらんだ屋敷に行った。
彼らが来たのを見てエミリーとマーティンは門の前に立った。
「あぃヤマ―あぬ2人や助たん人やる?」
白髪交じりのうちなーからじを結った女性がマーティンとエミリーに指を指した。
女性は所謂「うちなーすがい」と呼ばれる琉装をしており、女性の近くいる2人の女性も同じような格好をしていた。
彼女らは白髪交じりの女性よりもう少し若いので、普猷と月城の妻であろう。
「ぃいーやんどー2人たいやジェニーとぅウィリアムどぉー。あっ、こちらは私の母マジルーです」
「私はジェニーだ。あなたは沖縄県立沖縄図書館の館長伊波普猷さんですね?」
エミリーは普猷に日本語で話しかけた。
「はい。そうですけど、何故?」
「よくあなたは新聞に投稿なさっているので名前ぐらいわかります」
本当はスマホでエミリーは彼の事を調べていた。伊波普猷は確かに当時の琉球新報(現在と資本形態が違う)を始めとする沖縄の新聞社に論文などを投稿していた。
もちろん、弟月城が所属している沖縄毎日新報社にも投稿していた。
「あっ、私の記事見てくれていたんですねありがとうございます。母が私達を助けてくれたお礼に野菜を……」
「いっぺーにふぇーでーびたん」
マジルーはくーじと呼ばれる籠に野菜などを入れた食料をエミリーに渡した。
「こっ、こんなにいいのですか?」
「いいんですよ。あなた方が来なければ私達兄弟も殺されていましたから」
月城がニッコリ笑うと、マーティンがエミリーに「貰っとけ。彼らを助けなければ歴史が変わる可能性だってあったんだぞ」
エミリーはそのまま野菜を受け取ると、彼らはウランダ屋敷を去って行った。
一方、寄留商人が多く住む西本町では和服を着た男女2人組が歩いていた。見た感じ親子にも見えるが、容姿は全く似ていない。
「本当に古賀さんの家に行くんですか?」
20代半ばに見える女は束髪に紅型模様の着物を着ているが、現代風の言葉を話していた。
「行くんだよ。なにせあの尖閣諸島せんかくしょとうを所有した一族だからな。いいか。柔道の古賀じゃないぞ」
50代半ばに見える男は和服を着ているが、ロイド眼鏡にパナマ帽を被っており、風呂敷で包まれた何かを持っていた。
「それは流石に知っていますよ。でも昔、尖閣諸島を所有していた一族がいたんですね」
「ああ、今でこそ中国が『自国の領土』と主張しているが、元々、日本人が所有していたからな」
「そうだったんたんですね。その、古賀さんの家に言ってどうするんですか?」
「まぁ、それは古賀一族の家に言ってからのお楽しみだ!行くか!」
「はっ、はい」
2人は古賀一族の家に向かった。古賀一族の家もまた他の寄留商人の家と変わらず、赤瓦の家に町家風の建物だった。
「ここが古賀一族の家だ!入るぞ。ごめんくださーい」
男は家の中で呼びかけると、1人の青年が現れた。容姿ははっきりした顔立ちであり、歳は20代前半に見えた。
「はーい。何か御用でしょうか?」
男が要件を聞くと、「尖閣諸島を所有している古賀辰四郎という人に話がある」
男は意気揚々と言うが、青年は残念そうな顔になった。
「すいません。父は病床で伏せっているので、代わりに息子である私があなた達の要件を聞きましょう」
2人は客間に案内された。青年の名は古賀善次と言い、辰四郎の長男である。
そしてこの2人組は1年前、西本町に出来「沖縄観光物産店」の経営者である早乙女彰男とその娘の菊だった。彼らの容姿が親子であるのにも関わらず、似ていない理由は娘は彰男の死んだ妻に似ているからだとか。娘はまだ独身であり、結婚相手はこちらで探すという。
そして1年前に東京から沖縄に来て綺麗な海を利用して観光業をしたいという理由で店を立ち上げたという。
そんな彼らの熱意に善次も感心しており、沖縄本島及び周辺離島、宮古・八重山や尖閣諸島を観光化できるなら是非そうしたいと言っていた。
善次は自身の父について語り始めた。父辰四郎は現在の福岡県八女市山内で生まれ、1879年に那覇に来て寄留商人として商売を始めたという。
1884年、尖閣諸島の1つ久場島を探索させ、翌年には人を派遣してアホウドリを採取させた。11年後には本格的な尖閣諸島の開拓が始まったらしい。
「以上、父が行った事はここまでです。それであなた達の要件とは?」
彰男は隣にあった風呂敷を善次の前に出した。
「こちらをあなたにあげたいのです」
風呂敷の包を開けると、木製で出来た出前箱だった。出前箱には「消人器」と書かれていた。
「消人器と書かれていますが、これはただの出前箱では?」
善次が出前箱に指を指すと、彰男はにっと笑って出前箱について説明した。
「この出前箱はただの出前箱ではございません。これは消人器と言って人が消えるのですまぁ正確に言うと、人の存在が消えるのです」
「はぁ?」
善次は彰男の言っている意味がわからなかったが、彰男は「善次さんちょっとよってください」と言うと、善次はちょっとより、彰男は出前箱を開けた。
出前箱を開けるとそこにはブラックホールのような黒い穴があり、そこからは強い風がピューピュー吹いていた。
「なんだこれは?」
善次は木箱に近づこうとしたが、「ダメです。あなたが消えてしまいます」と娘の菊が止めた。
「そうなんですか?じゃあ近づくのをやめます」
善次は消人器と呼ばれる出前箱に近付けるのを辞めた。
「とにかくこれを使うと人の存在が消え、その人の存在は最初からいなかった事になります。あなたも都合の悪い人物にこれを使ってみませんか?」
彰男の誘いに善次はその子供騙しの出前箱を使う気になれなかった。
すると、従業員の男が「面白そうですね。貰っていきます」と言ってその出前箱を貰った。善次は「え?」という顔になっていた。
「ありがとうございます。ちなみに料金はいりませんので」
彰男らはその場を去って行った。
彼ら親子が去ると、善次は怪しいと思ったのか、従業員の男に出前箱を人目がつかない場所に置くか、警察に届けるかどちらかにしろと言われ、従業員は出前箱を持って人目がつかない場所に置いた。
善次はその後、病床で伏せっている父辰四郎の元へ行った。
「父さん、僕らに協力したいという沖縄観光物産店の経営者がおりますが、その方がどうも胡散臭いのです」
善次が話すと、辰四郎は起き上がった。
「……胡散臭いのか…まぁ別に協力的ならいいじゃないのか?」
「それが…」
「それがどうした?私は別にどちらでも良い。彼らに協力するもしないもお前次第だ」
辰四郎はまた寝てしまった。
古賀商店から出た彰男と菊は西本町4丁目にある「沖縄観光物産店」に入った。この店も赤瓦に町家風の建物だった。
「あっ、ちくじゃなかった早乙女さんお店、開きますよ!」
「佐藤、わかった。すぐに仕事に取り掛かる!古里!急げ!」
何故か彰男は娘の菊に対してなぜか古里と呼んでいた。
菊は急いで急いで当時の女給が着ていたひらひらのエプロンに着替え、自ら作ったであろうちんすこうとサーターアンダギーの商品と試食の食べ物を出した。
サーターアンダギーは当時のプレーンのサーターアンダギーではなく、紅芋や様々な味の入った小さめのものだった。ちんすこうも当時のちんすこうと言うよりは様々な味が入ったものを売った。看板にはちんすこうとサーターアンダギーの値段が書かれていた。
「ちんすこうとサーターアンダギーいかがですか!」
菊は呼び込みをしていると、向こうから伊波普猷と月城らが歩いて来た。
「あの、こちらのサーターアンダギーはいかがでしょうか?」
菊は普猷がこの辺にいる沖縄の人に見えないので、観光客だと思っていた。
「サーターアンダギーあらん。サーターアンダギー」
普猷は言語学者という事もあり、サーターアンダギーのアクセントを訂正した。
「えっ?」
「#我ったーやまーや大和人あらんどー」
マジルーが「へへっ」と笑うと、普猷は黙って試食のサーターアンダギーをバクバク食べていた。子供ならまだしもいい年こいた大人が試食コーナーの食べ物を多く食べるのは異常としか思えなかった。
「ぃえーあんまー!やっちーが!」
それに気づいた月城はマジルーに呼びかけると、マジルーはスーツのジャケットを掴み、「ぃえーヤマー!噛まんけー!」マジルーは普猷を連れて帰ろうとしたが、菊が「そっ、そのサーターアンダギー買いませんか?安いですよ」と勧めたが、それに対して普猷ぼそっと口を開いた。
「じゃあツケ払いで」
菊はさらにドン引きし、マジルーと月城とその妻は「ぃえー!」「やっちー」「はっさびよー!」と怒り、普猷の妻であるマウシは苦笑いした。
彼らが来たのを見てエミリーとマーティンは門の前に立った。
「あぃヤマ―あぬ2人や助たん人やる?」
白髪交じりのうちなーからじを結った女性がマーティンとエミリーに指を指した。
女性は所謂「うちなーすがい」と呼ばれる琉装をしており、女性の近くいる2人の女性も同じような格好をしていた。
彼女らは白髪交じりの女性よりもう少し若いので、普猷と月城の妻であろう。
「ぃいーやんどー2人たいやジェニーとぅウィリアムどぉー。あっ、こちらは私の母マジルーです」
「私はジェニーだ。あなたは沖縄県立沖縄図書館の館長伊波普猷さんですね?」
エミリーは普猷に日本語で話しかけた。
「はい。そうですけど、何故?」
「よくあなたは新聞に投稿なさっているので名前ぐらいわかります」
本当はスマホでエミリーは彼の事を調べていた。伊波普猷は確かに当時の琉球新報(現在と資本形態が違う)を始めとする沖縄の新聞社に論文などを投稿していた。
もちろん、弟月城が所属している沖縄毎日新報社にも投稿していた。
「あっ、私の記事見てくれていたんですねありがとうございます。母が私達を助けてくれたお礼に野菜を……」
「いっぺーにふぇーでーびたん」
マジルーはくーじと呼ばれる籠に野菜などを入れた食料をエミリーに渡した。
「こっ、こんなにいいのですか?」
「いいんですよ。あなた方が来なければ私達兄弟も殺されていましたから」
月城がニッコリ笑うと、マーティンがエミリーに「貰っとけ。彼らを助けなければ歴史が変わる可能性だってあったんだぞ」
エミリーはそのまま野菜を受け取ると、彼らはウランダ屋敷を去って行った。
一方、寄留商人が多く住む西本町では和服を着た男女2人組が歩いていた。見た感じ親子にも見えるが、容姿は全く似ていない。
「本当に古賀さんの家に行くんですか?」
20代半ばに見える女は束髪に紅型模様の着物を着ているが、現代風の言葉を話していた。
「行くんだよ。なにせあの尖閣諸島せんかくしょとうを所有した一族だからな。いいか。柔道の古賀じゃないぞ」
50代半ばに見える男は和服を着ているが、ロイド眼鏡にパナマ帽を被っており、風呂敷で包まれた何かを持っていた。
「それは流石に知っていますよ。でも昔、尖閣諸島を所有していた一族がいたんですね」
「ああ、今でこそ中国が『自国の領土』と主張しているが、元々、日本人が所有していたからな」
「そうだったんたんですね。その、古賀さんの家に言ってどうするんですか?」
「まぁ、それは古賀一族の家に言ってからのお楽しみだ!行くか!」
「はっ、はい」
2人は古賀一族の家に向かった。古賀一族の家もまた他の寄留商人の家と変わらず、赤瓦の家に町家風の建物だった。
「ここが古賀一族の家だ!入るぞ。ごめんくださーい」
男は家の中で呼びかけると、1人の青年が現れた。容姿ははっきりした顔立ちであり、歳は20代前半に見えた。
「はーい。何か御用でしょうか?」
男が要件を聞くと、「尖閣諸島を所有している古賀辰四郎という人に話がある」
男は意気揚々と言うが、青年は残念そうな顔になった。
「すいません。父は病床で伏せっているので、代わりに息子である私があなた達の要件を聞きましょう」
2人は客間に案内された。青年の名は古賀善次と言い、辰四郎の長男である。
そしてこの2人組は1年前、西本町に出来「沖縄観光物産店」の経営者である早乙女彰男とその娘の菊だった。彼らの容姿が親子であるのにも関わらず、似ていない理由は娘は彰男の死んだ妻に似ているからだとか。娘はまだ独身であり、結婚相手はこちらで探すという。
そして1年前に東京から沖縄に来て綺麗な海を利用して観光業をしたいという理由で店を立ち上げたという。
そんな彼らの熱意に善次も感心しており、沖縄本島及び周辺離島、宮古・八重山や尖閣諸島を観光化できるなら是非そうしたいと言っていた。
善次は自身の父について語り始めた。父辰四郎は現在の福岡県八女市山内で生まれ、1879年に那覇に来て寄留商人として商売を始めたという。
1884年、尖閣諸島の1つ久場島を探索させ、翌年には人を派遣してアホウドリを採取させた。11年後には本格的な尖閣諸島の開拓が始まったらしい。
「以上、父が行った事はここまでです。それであなた達の要件とは?」
彰男は隣にあった風呂敷を善次の前に出した。
「こちらをあなたにあげたいのです」
風呂敷の包を開けると、木製で出来た出前箱だった。出前箱には「消人器」と書かれていた。
「消人器と書かれていますが、これはただの出前箱では?」
善次が出前箱に指を指すと、彰男はにっと笑って出前箱について説明した。
「この出前箱はただの出前箱ではございません。これは消人器と言って人が消えるのですまぁ正確に言うと、人の存在が消えるのです」
「はぁ?」
善次は彰男の言っている意味がわからなかったが、彰男は「善次さんちょっとよってください」と言うと、善次はちょっとより、彰男は出前箱を開けた。
出前箱を開けるとそこにはブラックホールのような黒い穴があり、そこからは強い風がピューピュー吹いていた。
「なんだこれは?」
善次は木箱に近づこうとしたが、「ダメです。あなたが消えてしまいます」と娘の菊が止めた。
「そうなんですか?じゃあ近づくのをやめます」
善次は消人器と呼ばれる出前箱に近付けるのを辞めた。
「とにかくこれを使うと人の存在が消え、その人の存在は最初からいなかった事になります。あなたも都合の悪い人物にこれを使ってみませんか?」
彰男の誘いに善次はその子供騙しの出前箱を使う気になれなかった。
すると、従業員の男が「面白そうですね。貰っていきます」と言ってその出前箱を貰った。善次は「え?」という顔になっていた。
「ありがとうございます。ちなみに料金はいりませんので」
彰男らはその場を去って行った。
彼ら親子が去ると、善次は怪しいと思ったのか、従業員の男に出前箱を人目がつかない場所に置くか、警察に届けるかどちらかにしろと言われ、従業員は出前箱を持って人目がつかない場所に置いた。
善次はその後、病床で伏せっている父辰四郎の元へ行った。
「父さん、僕らに協力したいという沖縄観光物産店の経営者がおりますが、その方がどうも胡散臭いのです」
善次が話すと、辰四郎は起き上がった。
「……胡散臭いのか…まぁ別に協力的ならいいじゃないのか?」
「それが…」
「それがどうした?私は別にどちらでも良い。彼らに協力するもしないもお前次第だ」
辰四郎はまた寝てしまった。
古賀商店から出た彰男と菊は西本町4丁目にある「沖縄観光物産店」に入った。この店も赤瓦に町家風の建物だった。
「あっ、ちくじゃなかった早乙女さんお店、開きますよ!」
「佐藤、わかった。すぐに仕事に取り掛かる!古里!急げ!」
何故か彰男は娘の菊に対してなぜか古里と呼んでいた。
菊は急いで急いで当時の女給が着ていたひらひらのエプロンに着替え、自ら作ったであろうちんすこうとサーターアンダギーの商品と試食の食べ物を出した。
サーターアンダギーは当時のプレーンのサーターアンダギーではなく、紅芋や様々な味の入った小さめのものだった。ちんすこうも当時のちんすこうと言うよりは様々な味が入ったものを売った。看板にはちんすこうとサーターアンダギーの値段が書かれていた。
「ちんすこうとサーターアンダギーいかがですか!」
菊は呼び込みをしていると、向こうから伊波普猷と月城らが歩いて来た。
「あの、こちらのサーターアンダギーはいかがでしょうか?」
菊は普猷がこの辺にいる沖縄の人に見えないので、観光客だと思っていた。
「サーターアンダギーあらん。サーターアンダギー」
普猷は言語学者という事もあり、サーターアンダギーのアクセントを訂正した。
「えっ?」
「#我ったーやまーや大和人あらんどー」
マジルーが「へへっ」と笑うと、普猷は黙って試食のサーターアンダギーをバクバク食べていた。子供ならまだしもいい年こいた大人が試食コーナーの食べ物を多く食べるのは異常としか思えなかった。
「ぃえーあんまー!やっちーが!」
それに気づいた月城はマジルーに呼びかけると、マジルーはスーツのジャケットを掴み、「ぃえーヤマー!噛まんけー!」マジルーは普猷を連れて帰ろうとしたが、菊が「そっ、そのサーターアンダギー買いませんか?安いですよ」と勧めたが、それに対して普猷ぼそっと口を開いた。
「じゃあツケ払いで」
菊はさらにドン引きし、マジルーと月城とその妻は「ぃえー!」「やっちー」「はっさびよー!」と怒り、普猷の妻であるマウシは苦笑いした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
5
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる