VANISH!

浮島龍美

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第1部

第31話 兵士襲来

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 亮太達の前を駆け抜けたのはやはり沖縄警備隊区の兵士だった。まあ実際には現代から来た帝国機関の人間が一部いるが。
 亮太は彼らを見て驚いていた。なぜなら2016年の日本に軍隊はもういないからだ。

(へぇ・・・・あの時代って軍隊がいたんだ・・・・)

 亮太は自衛隊しかいない今の時代の日本にやや憤りを感じていたので、100年前の軍隊を見て少し喜んでいた。

「本当に軍隊なのかい?」

 亮太は兵士達を見て驚いていた。

「そうよ本物よ。きっと波上祭を監視しているんだわ」

 大久保は兵士達を見てやや怖がっていたが、亮太は特に気にしなかったし、むしろもっと監視をして欲しいと思っていた。


  ____________


 一方、波上祭の会場を走っていた兵士達はある人物を探していた。

「この辺りに県庁職員の伊舎堂盛一以下4人、沖縄県師範学校2年の石垣永一と同じく女子師範学校2年の宮平じんを探せ!奴らは琉球独立を画策している可能性があるぞ!」

 兵士達をまとめる隊長が言うと、「はい!」と言って兵士達はばらばらになって彼らを探し始めた。

「谷口曹長、いいんですか本当に?アルバース財団の職員ならまだしもその師範学校に通う石垣永一と宮平じんまで捕まえるんですか?」

 隊長はイヤホンで井上肇の潜入捜査の名前を呼んだ。

「そうだ捕まえろ!石垣永一と宮平じんはアルバース財団の創設者とされる人物だ!あの2人を消せば財団ごと壊滅できる」

「そうなんですか!わかりました。あの2人を探してみます」

 隊長はジニーと永一を探し始めた。

 波上祭の会場を歩いていた未来達は「ぃえー大綱どぉー」という声が聞こえて来た。

「綱引きってあの『大綱挽』だよね?ギネス世界記憶にもなった」

 蓮は2016年の今も続いている大綱挽が行われるのかと思った。

「多分、行ってみますか?」

 未来は蓮に尋ねると、未来達は大綱挽が行われている方へ向かった。そこでは今と変わらず、旗頭が行われていたが、大綱は今と違い、小さな綱だった。

「あれ、今より小さいね」

 蓮は当時の綱を見て小さいなと感じた。

「そうですね…恐らく、与那原大綱挽ぐらいの大きさぐらいだと思いますよ」

「だよね。あとさ那覇大綱挽って5月じゃなくて10月ぐらいにする祭りじゃなかった?」

 蓮はテレビで大綱挽の中継を見たことがあるが、だいたい秋ぐらいに放送される。5月はどちらかと言うと、那覇ハーリーだ。

「そうです。大綱挽は10月10日です。でも、10月10日ではありません」

 未来が言うと、蓮はふとその日を思い出した。そうだ。沖縄戦の前に

「やっぱり・・」

 蓮がつぶやくと、「すいません」と当時の陸軍の恰好をした兵士達が蓮や未来達に声を掛けた。

「え?ねぇこれってがちの兵隊じゃん?」

 蓮は未来に話しかけると、未来は「うん」と頷いた。

「あのどうしたんですか?」

 未来はきょとんとした表情で兵士達に尋ねると、兵士達が口を開いた。

「我々は沖縄警備隊区の者だ。君達は真和志にある女学校の生徒だろう?」

 兵士達はなぜか未来達が県立高等女学校の生徒達である事を知っていた。

「はいそうですが・・・」

 未来が兵士達を見ながら答えた。

「それなら話が早い。実は女師に通う宮平じんという生徒を探している」

「ジン?それってジニーっていううちの生徒ですよね?あの子が何かしたんですか?」

 蓮は兵士達が彼女を探しているって事は彼女の身に何か起こっただろうと思った。

「その銭《じん》という生徒がとんでもない生徒でな。男子の師範学校に通う石垣永一や社会主義勢力と共謀して琉球独立を画策しているいう噂だ。君達は彼女がどに行ったか知らないか?」

 え?ジニーってそんな子だったか?蓮は学校で彼女を見る限り、うちなーぐちばかり話す子だなと思っていたが、そんな壮大な事を考えるような子に見えなかった。

「いいえ。どこに行ったか知りません」

 蓮が首を横に振ると、兵士達は「わかりました。彼女を見かけたら教えてください」と兵士の1人が360度に礼をすると、「いくぞ!」と言ってどこかへ走って行った。

「なんだろう?この人達」
「さぁ」
「蓮さん、なんかヤバい人じゃん」

 未来と蓮、麗奈は彼らを見てなんだろうなと思っていたが、ウタとモーガンは彼らを見て「あれは日帝の兵士よ。SSみたいな人達だから信用しない方がいいよ」

「そうだ。あいつらは後のドイツで台頭するナチスと変わらない・・・いや、あいつらの方が先輩だからナチスよりたちが悪いかもしれねぇ」

 とかなり敵対視していた。

「そうなの?戦争の時の軍国主義は酷かったけど、アンシュビッツみたいな所を作っていないよ?」

「蓮、それが違うんだ。お前ら知らないだけで大日本帝国も731と言ってアンシュビッツみたいな所を作っている」

「え・・・やっぱり酷い国じゃん・・・」

「蓮さん、それは2016年も変わらないかもよ。沖縄を見る限り」

 未来は蓮に言った。


 _________


「ハマーなんかうまいもんはないか?」

 ジニーはハマーに声を掛けると、ハマーは「うーん。ラムネと1銭洋食ぐらいしかないよ」

「1銭洋食か。どうせ大和人がやっている店だろ?」

「そうだね」

「1銭洋食か・・・食べようかな・・・」

 すると、背後から「いたぞ!宮平銭だ!捕まえろー!」と言って兵士達が追いかけて来た。

「は?何ーそーがいったー?ハマーひんじちどー」

「ぃいー」

 ジニーはハマーの手を引き、行きかう人を掛け切って猛ダッシュで走った。

 彼らは兵士達から逃れようと、近くにある西武門と書かれた電車の停留所に行こうとしたが、最終の停留所が久米なのでそこで留まれば兵士達に囲まれる可能性があったので、ジニーは走って大門前通りまで走った。とそこに拓也らしき男がいた。ジニーは拓也に「ぃえー兵隊に追っかけられている助けてー」と言われたので拓也はジニーを見てアルバース財団の創設者の1人であると知っているため、彼女らを助けるかどうか迷っていたが、拓也の近くに中学生か高校生ぐらいの少年が立っていた。その少年は小柄だが、はっきりとした顔立ちのイケメンだった。

 (もしかしてこいつが創設者の石垣永一か・・・・・)

 拓也は近くにいる永一を見てそう思った。すると、永一が口を開いて

「何だ?兵隊に追っかけられている?おぃそこの官人、我んと協力してあの女学生を助けてくれないか?」

 なんと拓也は創設者である永一に声を掛けられた。

「え?あっわかった」

 拓也は永一と協力してジニー達の逃走を手伝う事になった。

 まず、拓也は寄留商人が住む町屋に逃げようと思っていたが、彼らが帝国機関の人間と繋がっている可能性があったため、そこに逃げる事は出来なかった。

「官人、うちなーんちゅだろ?」

 永一は走りながら拓也に声を掛けた。

「うん、そうだけど・・・」

「我んはよ。八重山《やいま》んちゅだ」

 永一はにっこりと拓也に笑顔を向けた。

「そうか・・・八重山の人か・・・」

「ぃいーそう言えば安全な場所がここにあるぜ」

 と永一が教えてくれたのは久米大通りから右の角を曲がり、大門前通りにあるアールデコ調の丸窓が特徴的な郵便局を通って建設途中の区役所から左に曲がると、赤瓦の小屋があった。小屋の目の前では傘を立て、女性達が市場を開いていた。

「はー商いあちねーするところやっしぇーどこも隠れるところ無いだろ!」

 ジニーが永一に文句を言った。

「実はあるんだよ。この消防小屋だ」

 と永一が指を指したのは消防小屋だった。消防小屋は普段、誰も使用していない小屋らしい。

「消防小屋?こっちに隠れたら見つかるんじゃないか?」

「そうだよ。誰も使っていないし」

 ジニーとハマーが心配そうに言うと、永一がふふふと笑い、消防小屋の中へ入ると、
 他の3人もついって行った。

(この3人について行っていいものなのか・・・歴史が変わらないのか・・)

 拓也は3人について行くことで歴史が変わらないか心配していた。

 消防小屋の内部は昔の火消し道具があり、今と違ってあまり性能が良いものではなさそうだった。

「実は我ん学校の寄宿舎から脱走した時、ここに隠れたら見つからなかったぞ。なんでってみんなあの市場にいるって勘違いしているからな」

「寄宿舎から脱走ってまさかお前、師範学校の人間か?」

 ジニーが永一に指をさすと、「そうだよ。お前もそうだろ?なんか見た事あるぜ」永一もジニーの顔を知っているようだ。

「そうだよ。我んも同じ師範学校の人間だよ。我んは女師2年の宮平ジニー。北谷の屋良って所の人間だ。で、こっちはハマー。北谷は北谷でもこっちは嘉手納だ」

「よろしく」

 ハマーは永一にお辞儀をした。

「よろしくな。我んは師範2年の石垣永一だ。石垣島の新川の出身だ。宮良先生やみんなからはホクリと呼ばれているよろしくな」

 ホクリはジニーに握手をした。

「よろしく。宮良先生って付属小学校にいるあの宮良先生か?」

「そうだ。宮良長包先生だ。我んの小学校時代の恩師だ」

 永一はどうやら宮良長包の事を知っているらしい。

「そういえばあんたの名前聞いていなかったな。おじさん、名前は何だ」

 永一から名前を言われると、拓也は「え?」という表情になったが、過去での名前を名乗った。

「俺は伊舎堂盛一だ。県庁で働いている。4月に東京から来たばかりだ」

 拓也が名前を言うと、ジニーとハマーは「伊舎堂」という苗字に反応したのか

「伊舎堂?もしかして高女の転入生と同じ苗字じゃない?もしかして親?」

 ハマーが拓也に指を指した。拓也は逃げる事で精一杯でハマーを見ていなかったが、ハマーをよく見ると、未来や亡き妻である明に似ているなと思った。

「そう。カマドの親」

 拓也が答えると、ハマーが「カマドさんのお父さん、男前ですねぇ。カマドさん、なんでお父さんに似なかったんだろう」

 ハマーが笑っていると、拓也が「さあ・・・母親似ですかね?」と嘘をついた。

 すると、消防小屋の向こうから「くっそ見失ったかやつらはどこだ」という兵士の声がした。

「うっ、あれなんかここまで来ているやっさーまずいな」

 永一やジニー、ハマーと拓也は口を抑えて、じっとしていた。

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