33 / 41
ひとひねり
しおりを挟む
「ウチの会社のエレベーター、幽霊が出るらしいぞ」
「夜中の0時を過ぎて呼ぶと、中に“背中を向けた女”が乗ってるんだとさ」
終業間際、隣の席の佐藤が声をかけてきた。
まったく嫌な奴だ。俺が今夜残業するのを知っていて、脅かそうとしているに決まっている。
ビビってると思われるのも癪なので、わざと軽口で返す。
「エレベーターの幽霊って、なんでか決まって背中向けて立ってるよな」
「テンプレっつーか、ワンパターンっつーか、マニュアルでもあるのかって話」
「なんかこう、もうちょっと“ひとひねり”欲しいよな、ホラー的に」
軽口が効いたのか、佐藤はやや不満げに口をつぐんだ。
そのあとも「顔を見られたら終わりだ」とか、「振り向かれる前に『閉』ボタンを押せ」だの、いろいろと“アドバイス”してきたが、適当に相槌を打っていると飽きたのか、さっさと帰っていった。
さて、邪魔者はいなくなったが、作業はまだ山積みだ。
──日付が変わる前に帰れるといいが……。
◇
結局、作業は終わらず、気づけば時計の針は深夜0時を過ぎていた。
幽霊のことは少し気になったが、疲労のほうが勝っていた。俺は無造作にエレベーターを呼ぶ。
到着音と共に扉が開く。
そこには──背を向けた女が、ぽつんと立っていた。
(……ほんとに“マニュアル”でもあんのかよ)
さっきの冗談が、頭をよぎる。
確かに気味は悪いが、思ったほど怖くはなかった。変に予備知識があるせいか、どこか現実味が薄れている。
女は微動だにしない。音も気配もない。ただ、じっと“こちらに背を向けて”立っている。
(……『閉』ボタンを押せばいいんだよな)
そっと腕を伸ばす。音を立てないように、慎重に──
ガタン
自動で閉まりかけた扉が、伸ばした腕に当たる。反応して扉が再び開いた。
その一瞬の音に、女がピクリと動いた気がした。
見ると、女がゆっくりと腕を上げ、後頭部に手を添える。
そして、そこから髪を掻き分けるようにして──
“後頭部だと思っていた場所”から、ぎょろりと目が現れた。
──その首は、180度、完全に捻じれていた。
見開かれた両目が、こちらを睨んでいる。
『ひとひねり欲しいよな』
──あのときの軽口が、今、呪いとなって返ってくる。
『閉』ボタンは指のすぐ先にあるのに、身体が動かない。足も、腕も、声さえも。
女が“後退して”こちらに向かってくる。
そして、無音のまま両手を伸ばし──
俺の頭を、掴む。
そして──
ひとひねり
「夜中の0時を過ぎて呼ぶと、中に“背中を向けた女”が乗ってるんだとさ」
終業間際、隣の席の佐藤が声をかけてきた。
まったく嫌な奴だ。俺が今夜残業するのを知っていて、脅かそうとしているに決まっている。
ビビってると思われるのも癪なので、わざと軽口で返す。
「エレベーターの幽霊って、なんでか決まって背中向けて立ってるよな」
「テンプレっつーか、ワンパターンっつーか、マニュアルでもあるのかって話」
「なんかこう、もうちょっと“ひとひねり”欲しいよな、ホラー的に」
軽口が効いたのか、佐藤はやや不満げに口をつぐんだ。
そのあとも「顔を見られたら終わりだ」とか、「振り向かれる前に『閉』ボタンを押せ」だの、いろいろと“アドバイス”してきたが、適当に相槌を打っていると飽きたのか、さっさと帰っていった。
さて、邪魔者はいなくなったが、作業はまだ山積みだ。
──日付が変わる前に帰れるといいが……。
◇
結局、作業は終わらず、気づけば時計の針は深夜0時を過ぎていた。
幽霊のことは少し気になったが、疲労のほうが勝っていた。俺は無造作にエレベーターを呼ぶ。
到着音と共に扉が開く。
そこには──背を向けた女が、ぽつんと立っていた。
(……ほんとに“マニュアル”でもあんのかよ)
さっきの冗談が、頭をよぎる。
確かに気味は悪いが、思ったほど怖くはなかった。変に予備知識があるせいか、どこか現実味が薄れている。
女は微動だにしない。音も気配もない。ただ、じっと“こちらに背を向けて”立っている。
(……『閉』ボタンを押せばいいんだよな)
そっと腕を伸ばす。音を立てないように、慎重に──
ガタン
自動で閉まりかけた扉が、伸ばした腕に当たる。反応して扉が再び開いた。
その一瞬の音に、女がピクリと動いた気がした。
見ると、女がゆっくりと腕を上げ、後頭部に手を添える。
そして、そこから髪を掻き分けるようにして──
“後頭部だと思っていた場所”から、ぎょろりと目が現れた。
──その首は、180度、完全に捻じれていた。
見開かれた両目が、こちらを睨んでいる。
『ひとひねり欲しいよな』
──あのときの軽口が、今、呪いとなって返ってくる。
『閉』ボタンは指のすぐ先にあるのに、身体が動かない。足も、腕も、声さえも。
女が“後退して”こちらに向かってくる。
そして、無音のまま両手を伸ばし──
俺の頭を、掴む。
そして──
ひとひねり
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる