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翔太編
四月
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神社宛というか、俺と美鈴宛に一通の書状が届いた。
大輔と裕美さんの結婚式の招待状だった。挙式は六月。ジューンブライドになるのだが、日本では梅雨真っただ中なわけで、大丈夫なのかなとは、いつも思う次第である。
もちろん、俺も美鈴もすぐに出席の返答をした。
ときに四月と言えば、やはり花見だろう。今年はというか、ここ数年、上塚岡神社の人事的な動きはなく、花見をするにしても全く同じ顔ぶれである。窓口受付のアルバイトもいる時はあるが、この季節は募集していないので、花見に参加しているのは、変わらない顔ぶれになる。
昨今の情勢もあり、今年は本当に花を愛でることをメインにする花見をすることとした。花見と言って想像できる、どんちゃん騒ぎは町内会の花見に参加すればできる。しかし、実のところ花見となると必ず出現する不良中年が結構いて、美鈴や美春さんは参加しないし、俺自身もそこまでの酔い方は好きではない。ただ、さっき言った不良中年の中に松陰さまの姿が毎年あるというのは、皆さまの想像に難くないであろう。
今年の桜は例年より一週間ほど早い開花となった。町内で一番の桜の景観スポットは花町公園で、神社からは若干遠めにある。歩いて行けない事はないが、一人自由気ままに行くならまだしも、集団で行くとなれば、自動車や交通機関が必要だ。まあ、そこはそれ。神社での職場行事の名目だから、レンタカーくらいの費用は出しても問題はない。
俺と美鈴、事務方同僚の青沼さんが運転免許を持っているから、移動も楽だ。基本、飲酒はしない(節度があるならしてもいいけど)会なので、送迎も車で皆の家まで行ける。
どんちゃん騒ぎはしないならばと、事務方同僚の青沼さんと佐川さんのご家族も参加する事になったので、車は予定よりワンサイズ上の15人乗りのマイクロバスにした。青沼さんと佐川さんの家を経由して、花町公園に到着。青沼さんと佐川さんのお子さんもいるので、結構賑やかな団体になった。ちなみにうちの両親にも打診はしたが、美鈴さんと楽しんでこいとのことで、そこは素直にお言葉に甘えさせてもらう事にした。もう一つの注文もあったのだけれども…。
花見の当日は好天に恵まれた。晴れてはいるものの、薄い雲も出ており、日差しは厳しくない。その上、風はそよ風程と花見に最適の休日であるから、よほど混雑しているかと、多少は覚悟もしていたのだが、予想よりかなり人出は少なかった。
松蔭さま、ひょっとしてまたなんかやったんですか?と聞きたい気持ちは山々なのだが、そこはとりあえずやめといた。
桜は七分咲きくらいで、つぼみも結構多かったが、逆にそのコントラストが見栄えするものに思える。
これがまだ人出が多くなかったわけなのかな。松蔭さまを疑ったのは悪いとも思ったが、普段が普段だから仕方ない。
「つぼみも多いけどきれいね」
「そうだね」
ああ、こういうことでも同じ気持ちなのだと思うと、本当に嬉しくなる。
公園の中にもあちこちで、花見に来ている人がいた。うちも一本の桜の下に居をかまえる。食事にするにはまだ早いが、うららかな日であるゆえ、何もしないでのんびりとただ桜を眺めるのもいい。子供たちは近くで遊んでいる。
しばらくして、美鈴と二人で公園の桜並木を散策することにした。
ゆっくりと、並んで歩を進める。実は両親に言われていた事の話をしたかったのだ。
「美鈴」
「うん?」
「去年の夏に…、結婚を申し込んだわけだけど」
「う、うん」
美鈴がちょっとこわばるのがわかる。微妙に歩くのもぎくしゃくしたような。
「その…、松蔭さまも、美春さんも交際は認めてくれてはいるんだけど、ええと、こ、婚約をちゃんと」
「うん、うん」
美鈴の足が止まる。多分、俺も同じことになっているのだと思うが、美鈴の顔は赤く染まっていた。
「来週、時間とれるかな」
「うん。多分、大丈夫」
「婚約指輪を見に行かないか」
「うん、うん」
美鈴の頭がすごい勢いで上下する。俺は美鈴の手を取って、またゆっくりと歩きだす。
「時間とかは連絡するし、美鈴の方からしてもらっても…」
美鈴が俺の方に頭をもたげてきたので、それ以上は何も言わず、ゆっくりと並んで歩いた。
大輔と裕美さんの結婚式の招待状だった。挙式は六月。ジューンブライドになるのだが、日本では梅雨真っただ中なわけで、大丈夫なのかなとは、いつも思う次第である。
もちろん、俺も美鈴もすぐに出席の返答をした。
ときに四月と言えば、やはり花見だろう。今年はというか、ここ数年、上塚岡神社の人事的な動きはなく、花見をするにしても全く同じ顔ぶれである。窓口受付のアルバイトもいる時はあるが、この季節は募集していないので、花見に参加しているのは、変わらない顔ぶれになる。
昨今の情勢もあり、今年は本当に花を愛でることをメインにする花見をすることとした。花見と言って想像できる、どんちゃん騒ぎは町内会の花見に参加すればできる。しかし、実のところ花見となると必ず出現する不良中年が結構いて、美鈴や美春さんは参加しないし、俺自身もそこまでの酔い方は好きではない。ただ、さっき言った不良中年の中に松陰さまの姿が毎年あるというのは、皆さまの想像に難くないであろう。
今年の桜は例年より一週間ほど早い開花となった。町内で一番の桜の景観スポットは花町公園で、神社からは若干遠めにある。歩いて行けない事はないが、一人自由気ままに行くならまだしも、集団で行くとなれば、自動車や交通機関が必要だ。まあ、そこはそれ。神社での職場行事の名目だから、レンタカーくらいの費用は出しても問題はない。
俺と美鈴、事務方同僚の青沼さんが運転免許を持っているから、移動も楽だ。基本、飲酒はしない(節度があるならしてもいいけど)会なので、送迎も車で皆の家まで行ける。
どんちゃん騒ぎはしないならばと、事務方同僚の青沼さんと佐川さんのご家族も参加する事になったので、車は予定よりワンサイズ上の15人乗りのマイクロバスにした。青沼さんと佐川さんの家を経由して、花町公園に到着。青沼さんと佐川さんのお子さんもいるので、結構賑やかな団体になった。ちなみにうちの両親にも打診はしたが、美鈴さんと楽しんでこいとのことで、そこは素直にお言葉に甘えさせてもらう事にした。もう一つの注文もあったのだけれども…。
花見の当日は好天に恵まれた。晴れてはいるものの、薄い雲も出ており、日差しは厳しくない。その上、風はそよ風程と花見に最適の休日であるから、よほど混雑しているかと、多少は覚悟もしていたのだが、予想よりかなり人出は少なかった。
松蔭さま、ひょっとしてまたなんかやったんですか?と聞きたい気持ちは山々なのだが、そこはとりあえずやめといた。
桜は七分咲きくらいで、つぼみも結構多かったが、逆にそのコントラストが見栄えするものに思える。
これがまだ人出が多くなかったわけなのかな。松蔭さまを疑ったのは悪いとも思ったが、普段が普段だから仕方ない。
「つぼみも多いけどきれいね」
「そうだね」
ああ、こういうことでも同じ気持ちなのだと思うと、本当に嬉しくなる。
公園の中にもあちこちで、花見に来ている人がいた。うちも一本の桜の下に居をかまえる。食事にするにはまだ早いが、うららかな日であるゆえ、何もしないでのんびりとただ桜を眺めるのもいい。子供たちは近くで遊んでいる。
しばらくして、美鈴と二人で公園の桜並木を散策することにした。
ゆっくりと、並んで歩を進める。実は両親に言われていた事の話をしたかったのだ。
「美鈴」
「うん?」
「去年の夏に…、結婚を申し込んだわけだけど」
「う、うん」
美鈴がちょっとこわばるのがわかる。微妙に歩くのもぎくしゃくしたような。
「その…、松蔭さまも、美春さんも交際は認めてくれてはいるんだけど、ええと、こ、婚約をちゃんと」
「うん、うん」
美鈴の足が止まる。多分、俺も同じことになっているのだと思うが、美鈴の顔は赤く染まっていた。
「来週、時間とれるかな」
「うん。多分、大丈夫」
「婚約指輪を見に行かないか」
「うん、うん」
美鈴の頭がすごい勢いで上下する。俺は美鈴の手を取って、またゆっくりと歩きだす。
「時間とかは連絡するし、美鈴の方からしてもらっても…」
美鈴が俺の方に頭をもたげてきたので、それ以上は何も言わず、ゆっくりと並んで歩いた。
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