君に伝えたい言葉

マキノトシヒメ

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美鈴編

十二月

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 十二月になっても、あの件についてはそのまま。状況は変わっていません。何もありません。
 普通なら「ある」わけなんですが、ありません。うーん…。

「おめでとうございます。八週目…だね」
 あ…、やっぱり?
 来ているのは、昔からよく知っている産婦人科で、この方は院長先生。顔見知りであるのは、お母さんについて一緒に来てたからです。ただ、診察を受けたのは実は今日が初めてなんだけどね。
 でも、先生はあたしが婚約したことも知ってるし、あたしの落ち着いている様子を見て、事情は察してくれているのだと思う。
「届け出の内容とか一連のことはこのパンフレットにあるから、必要なことはできるね。一応聞いてはおくけど、問題になることはないんだね」
「あ…はい」
 先生はにっこり笑ってくれる。
「そうか。美鈴さんもお母さんになるんだね。初めてだから、わからないこと、不安になることも出てくるだろうけど、美春さんに聞いてもいいだろうし、私も相談にはいくらでものるからね。今のところ、母子共に健康。その点では心配はないよ」
「ありがとうございます」
「よく聞くことだろうけど、妊娠は病気じゃない」
「はい」
「でも、普通の事でもないんだ。特別な事なんだよ。大事な大事な命が今ここにいるんだからね」
 先生は優しく手のひらをお腹のところに当てて話をしてくれる。
「それさえちゃんとわかっていれば、いいお母さんになれるよ」
「はい」

 診察が終わって支払いを済ませる。ちょっと考えて、病院までタクシーに来てもらう。
 家に帰る車の中、色々と考えが巡ってしまう。
 翔太は、多分、否定的な事は言わないとは思うんだけど…。逆に何も反応がなかったら、どうしよう。
 やだ、変な事考えちゃった。無反応なんて…最悪じゃないの。
 こういうのもマタニティブルーみたいなことなのかな。
(大事な大事な命がいるんだよ)
 でも、先生の言葉が思い出される。そう。あたしと翔太の大切な命…。

 次の日の朝。
 あたしは受付の奥にある休憩所で座って翔太が来るのを待っていた。もっと緊張するかと思ってたんだけど、そうでもないというか…。開き直ってるとかじゃないんだけどね。
 翔太はあたしが普段はいないこの場所にいるのを見て声をかけて来てくれた。やっぱりちょっと勇気がいるなあ。
 でも、一回翔太から目線を外して、翔太に近寄って耳元で囁く。
「…2ヶ月…だって」

 あ、なんか翔太が面白い動きしてる。困っているみたいな感じはしないから、いろいろ考えてるんだろうね。
「おめでとう」
 いきなり翔太はあたしの手をとって、そんなことを言ってきた。はい?
 でも翔太の顔は真剣そのもの。いろいろ考えすぎて、こんなこと言っちゃったんだろうな。
「ぷっ」
 ああだめ。おかしいのと嬉しいのとあきれるのと全部ごちゃまぜになって、吹き出しちゃった。

 いっしょに家に行って、お父さん、お母さんに妊娠の事を報告。
 お母さんは「いや~ん、あたしがおばあちゃんになるの」って本当に嬉しそうにしてた。でもお父さんの方はと言えば「チーン…」てオノマトペまでが見えたような…。

 そして翔太の家にも行く前に、翔太はゆっくり優しく抱きしめて「愛してる」って言ってくれた。

 取り急ぎになっちゃったけど、役所に入籍の届けを出して、妊娠のことも。
 母子健康手帳をもらったら、また一層実感が深くなった気がする。

 大事な、大事な、あたしと翔太の命…。

 でもねえ。
 今更ながら、あたしも物心ついたときには当たり前のようにやっていた「神社のクリスマス会」がなぜか。あたしたちの結婚祝賀会にされちゃってた。
 お父さん…動き出したら止まらないんだから。

 まだこれから変えていくこと、していくこと、たくさんあるけど、二人で、いえ、三人で頑張っていきます。

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