君に伝えたい言葉

マキノトシヒメ

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美鈴編

十一月

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 うわー、思い出すだけで恥ずかしい。
「だっこ」なんてお父さんにだって言ったことないわよ。
 気の迷いとか、そんなんじゃないけど、なんて言うか、なんであんなこと言っちゃったんだろ。
 …でも、その後の幸せな気持ちもいっしょに思い出すから、いいのかなっても思うんだけど。

 十一月に入ろうかという時期になると、また今年もお父さんがうるさくなります。
「いやもうクリスマスもやっちゃってるんだからハロウィンだってさあ」
 もう何年も前にハロウィンは神社行事にしませんて一筆書いてるのに、こうやって毎年攻めてくるんだから、あの書面は何のためなのやら。確かに十一月は大々的なものは神社ではないけど、だからって何をやってもいいというわけないじゃない。
 でも、町内会では子供主役の行事としてやるから、その時は三法屋家自宅の方に来てもらって、ちゃんと渡すお菓子をお母さんと一緒に準備してます。
 子供達にあげる時に、お父さんの羨ましそうな視線があるのはいつもの事なんだけど、今年は翔太の視線も混じっていた…ような?

 さっきも言ったように、十一月は忙しく立ち回らなきゃならない神社の行事はないから、休日もゆっくり過ごせてます。神社に休日とかあるのかと思われる方もいらっしゃるかと思いますが、社務所の方々にはちゃんとありますから、あたしは翔太の休日に合わせています。
 お父さんは宮司という立場上で、うちの場合は決められた休日というものはありません。ただ、そういうのって、場合によっては毎日が休日という事にもなりかねないので、扱いは慎重にしなければならないんですけどね。うちのお父さんは、性格はまあ、アレですけど、宮司のお仕事だけじゃなくて、地域の相談役という事もやっているから、皆さまに親しまれているので、なんとかなってます。
 とはいえ「あの宮司さん」で通用してしまってる点は…、まあ、置いといて。

 お花見に時に来た花町公園は秋にも色々と色づく木があって、春秋公園なんてことを言う人もいる。別の意味では、春は花びらの、秋は落ち葉の掃除が大変ってことで、言われているとかいないとか。
 翔太とベンチに座ってポットに入れていたお茶を飲む。何にもしない、ゆったりした時間が流れる。
 翔太が静かに話をする。
「この先ずっとこうやっていられたらいいね」
「この先…?」
「来年も、再来年も、ずっと」
 ずっと…? それって…。
 しばらく二人は何も言わなかったけど、あたしの方から話を始める。
「あのね、翔太。去年の夏、結婚しようと言ってくれて、嬉しかった。とっても熱い気持ちになった。そのことを思い返すたびに頬が熱くなって、一人できゃーとか叫んでたりしちゃったの」
 それを聞いて、翔太は少し照れ臭そうに微笑んでいた。
「でもね」
 あたしは言う事を慎重に進めたくて、お茶を口にしてから注ぎ直した。
「今はそういった、熱い気持ちはもうないの」
 そう言うと翔太の顔から笑みが消えて緊張が走ってるのがわかる。
 ちょっと意地悪な言い方だってわかってる。翔太がそういう反応をするってのもね。
「その代わりに、ずっとずっと暖かい気持ちになるの。ぱっと熱くなってぱっと冷める熱さじゃなくて、いつまでも暖かい気持ちになれて…、まるで翔太がいつも包み込んでくれるみたいに」
 翔太の緊張が解けて、体の力が抜けるのがわかる。あのままだったら、下手するとコップを握りつぶしていたかも?
「ずるいよ」
 緊張は解けたようだけど、翔太の顔はまだちょっとひきつってる感じ。
「ふふ。ごめんね。こういうのって、何て言うのかな。気取って言ったら、恋が終わって愛になったって言うのかな」
 あたしがそう言うと、翔太は息をのんで、小さくため息をついてから、お茶をすすった。
「…ずるいよ」
「うん?」
 どこが、ずるい、なのかしらん。
「俺の方から言いたかったのに」
「言ってくれたじゃない」
「え?」
「来年も再来年も、ずっとって」
 翔太は口をぱくぱくさせて、何か言いたげにしてたけど…。え? 一生共に生きて行こうって意味じゃなかったの?
「うわああああ! やっちまったぁあ!」
 やれやれ。深い意味は何もなかったのね。でもいいわ。その気持ちはあるっていうのは、ちゃんと知ってるから。

 ちょっと落ち込み気味の翔太に家まで送ってもらって、部屋で今日の出来事を反芻していると、また笑みが浮かんでくる。
 部屋のカレンダーを見ると、今月ももう中盤を過ぎてる。今日みたいに少し曇っていたら、暖かくはならないはずよね。
 ふとカレンダーの下にある引き出し付きの小物入れに目が行く。その中に入れてあるものが、いつもなら必要になってる頃なんだけど…。

 あれ…今月、まだ、来てないわよ…ね?

 もしかして?
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