ぷりてぃ・すふぃんくす

マキノトシヒメ

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ぷりてぃ・すふぃんくす4

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 この国から隣国に向かうためには、大きく分けて二つのルートがある。
 山道ルートと平地ルート。
 山道ルートは半日ほどだが、平地ルートは二日ほどかかってしまう。
 だが、殆どの人は平地ルートを利用する。何故なら、この山を通るためには、山に住まう魔獣スフィンクスから問われる問題に答えなければならない。答えられなければ、食われてしまうという…。

 隣国に住まう友人がこの度婚約したということで、お祝いをしようと思ったのだが、婚約相手の女性の実家への挨拶に行く予定と仕事の予定が立て込んでしまい、明日でないと時間が取れないと言う。
 幸い、私の方は時間の融通が利いたので、急遽山越えをして向かう事とした。山道ルートが今も整備され続けていて助かった。例の話は若干気になる点もあるのだが。
 その山の中腹に差し掛かった時に現れたのは、話に聞いていたように美形のグラマラスな女性で、手足はネコ科よろしき様相。翼を背負い、毛皮のようなレオタード、ではあったのだが、あの柄は…豹?
「まいど」
「…スフィンクス…?」
「せやでー。うちが第777代目スフィンクス。人呼んでフィーバーちゃんやで」
「ひとつ聞いていいですか」
「なに、にいちゃんから聞いてくんの? おもろいやんけ。で、それに答えられへんかったら、うちが食われてまうんかいな。かなんなあ。違う意味で食われるんやったら、そこはそれ、嫌いな方とちゃうねんけどな。ぐふふ。それはさておき、早速問題いこか」
「はやっ」
「大阪モンはいらちやねん」
「おおさか?」
「あ、こっちの話。気にせんといて」
「あのう、こっちの質問はナシで?」
「うちを食いたいん?」
「食べません! どっちの意味でも。それに答えられない内容じゃないと思うんですけど」
「ほな、言うてみ」
「話では体はライオンだと聞いてたんですけど、豹なんですか」
「そんなん、大阪言うたら豹柄やろ。豹柄のライオンな」
「だからその、おおさかって、何なんですか。それに、豹柄のライオンて、ライオンなんですか」
「うちがライオン言うたらライオンやっちゅうねん。ごちゃごちゃ言うとったら、いてもうたるど。ちゃっちゃといかんかい、ちゃっちゃと。怒るでしまいに」
 なんか、このスフィンクス、動きが…。
「オッサンになってる」
「今のはオッサンやなくてヤッさんですぅ」
「ヤッさんもオッサンだろが」
「ま、これでにいちゃんのほうには答えたわけやし、こっちのターンちゅうこってええんか」
 納得いかない点も多々あるが、私は渋々ながら頷いた。仕方ないか。
「ほないくで。四本足、二本足、三本足、なんやろな」
「…」
「チッチッチッ、あと5秒」
「待てい!  あんな問題でわかるわけないでしょうが」
「チッチッチッ、ブブー。はい時間切れー。残念やったなあ。せやけど、あーんな簡単な問題も答えへんて。ひょっとしてえ? わーざとうちに食われたかったんちゅうことかいな。そーか、そーか。しゃあないなあ、そんなに食われたいなら、しゃあないなあ。ぐふふふ」
 スフィンクスは何やら嬉しそうに、いそいそと私の服を脱がそうとする。
「何するんですか」
「食うんやったら、どっちの意味でも脱がさな、しゃあないやろ。ほれ、覚悟きめえや。しゅばっ!」
「うわあっ」
 さっきまでまだ上着をちょっと着崩された程度だったのに、最後の「しゅばっ!」の瞬間にすっかり脱がされ尽くしてしまった。手慣れているにも程がある。しかも、丁寧に畳んでまであるし。一応下着だけは脱がされていなかったが、こんな所で裸にされるとは思ってもみなかった。こっちが何か言う間も反応する間もなく、あっという間にこれである。
 さすが魔獣と言うだけ…いや、そうじゃなくて。それからスフィンクスは何か周りを指差すように動いた。
「準備オッケー」
 スフィンクスが私の手を引き寄せて抱きついてくる。
「こ、こんな外で。見られますよ」
「ここは人通りは全然ないから、だいじょーぶ。それに、見られたら見られたで、そっちの方が燃えるやろ」
「それは嫌ー」
「うそうそ。さっきちゃあんと結界張っとんねん。うちかて他のスフィンクスに見られて良いことないよってな」
「いや、私も急いでいるからここを通ったわけで、そんなことをしている時間は…」
「それも問題ナーシ! スフィンクスの結界をなめたらあかんでぇ。この中は時間の経過も遅ぉなっとってな。1時間おっても外では1分しかたっとらんねん」
「だ、だからって」
 すると、スフィンクスは急にしゅんとして、少し目を潤ませ、頬を染めて私を見上げてきた。あれ、スフィンクスってこんなに背が低かったっけ? さっきまでほとんど同じ目線だったはずだが。
「あたしとするの…イヤ?」
 なんか、言葉使いも全然変わってる。いかん、完璧にタイプだ。思わず股間に力が…。据え膳食わぬは男の恥…って、え? 俺ってそんな言葉知ってたっけ?
 あっ、でも全然手を振りほどけない。離れることもできない。力加減は柔らかいけど、完全にホールドされてしまっているではないですか。こういうところは、やっぱり魔獣…。

 そんなこんなで、することをいたしてしまいました。
 どうしてこんな事になってしまったんだろう。
「もう、何百年も人間殺して食べるとかやっとらんがな。ちょお、タイプやったらこんな風につまみ食いさせてもろとるけどな。それに別にホンマに人間食うたって、うまないねん。知らんけど」
「知らんのかい」
「知らんがな。そんで実のところを言えばな、スフィンクスは簡単に人間とセックスとかしたらあかんねんで」
 なんか急にそういうことを言われても。
「心配はあらへん。人間のほうにペナルティはないし、うちはな、特別ヤっていい許可もろてんねん」
「表現ー!」
「それが何か知りたい思うんやったら、また来よったらええがな」
「ところでさ」
「なんぞ?」
「この結界って、男をその気にさせるとか、そんな効果もあったりするの?」
 そう聞くと、スフィンクスの表情が思いっきり変わった。オノマトペの「ギクッ」という文字が見えてもおかしくないような変わりようだった。
「あー、いやー、そ、そんなこと…あらしまへんでおまんがな?」
 もうしどろもどろで、目も思いっきり泳いでるし、指先を意味不明にくるくる回したりして、思いっきり動揺している。こんな大胆な事をするのに、図星を突かれると弱いんだな。
「まあ、別にいいよ。悪い気はしなかったし」
「せやったら、ええわ。ほほいのほいっと」
 スフィンクスがささっと動くと、また服をきれいに着付けられていたのだった。スフィンクスがポン、と手を打つと何か周囲の雰囲気も変わったような。結界が解かれたということだろうか。ふと太陽を見上げると、確かに全然動いていなかった。もう2時間は経ったと思ったのだが。そういえば、結界とやらの中にいた時は、明るさは全く変わらなかったが、太陽は見えていた覚えがないな。
「ほなな~。また来てや~」
 スフィンクスに見送られて山を降りつつ、何とも言えない奇妙な気分に囚われるのだった。

 一年後、今度は友人の結婚式のためにまた隣国に行くことになったのだが、今度は日程的に十分余裕があるにもかかわらず、またあの山を通ってみようかな、とか思ってしまう自分がちょっと悲しい。
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