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百日紅
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電車を降りると、白く乾いたコンクリ打ちのホームは、滑らかではあるけど、なんとなく傾いていて、波打っている。まっすぐ立っていづらい。
プラスチックのベコべコしたベンチには、田村医院と書いてある。錆びた鉄筋の柱には、うずら卵の缶詰が針金でくくりつけてあり、どうやら灰皿のようだ。
昔の映画とかに出てきそう。
雫は、ホームのなだらかな坂を下り、踏切を渡ると、無人の駅舎で切符を箱に入れた。
初の経験だ。
そのまま通り過ぎていいものかどうなのか、一瞬迷ったけれど、通り過ぎるより、ほかに方法はないと判断して、外へ出る。
空は作り物めいて青く、雲がかけらも見当たらない。とんでもなく良い天気だ。
駅前には特に店も見当たらなく、ただ広い駐車場になっていて、ど真ん中になぜか百日紅の木が立っていた。
しかも、かなり大きな木だ。まだ、花には少し早く、滑らかな木の表面ばかりが気になったが、あと一週間もすれば咲き始めるだろう。
百日紅の独特な木の形や、ヌメッとしたようや木肌は、好きというか、気になる存在だと、常々思っていた。
家の近所にも一本あって、子供の頃から、その木をくすぐって遊んだりしていた。百日紅は、枝の脇をくすぐると、全体が大きく揺れるのだ。それを、木が笑っていると言って、喜んでいたものだ。最近は、もう流石にやらなくなったが。
こんなに大きな木でも、あんな風に揺れるのだろうか?
ふと気になって、百日紅に近づき、一番近場の枝に手を伸ばした時、木の幹の裏側に、一人の人がいたことに気がついた。
腕を伸ばし、枝に手をかけた瞬間に目があったもので、なんとなく体裁が悪い。ゆっくりと腕を下ろすと、その人が口を開いた。
「雫くん?」
突然、名前を呼ばれたので、驚きながらも、もう一度よく相手を見てみる。
2番目までボタンを開けた真っ白な開襟シャツに、紺の綿パンツ。清潔を形にしたら、こうなるだろうというような、味気のない、なんでもない服装なのに、妙に洒脱な雰囲気になるのは何故だろう?白い陶磁器のような硬質で、生身ではないように思わせる肌に、さらさらとした色素の薄い髪。少しだけ、雫より高い背の少年だった。
「久しぶり、わかるかな…。秀真(ほつま)だけど。」
祖父が迎えに来てくれるとばかり思っていたので、不意打ちだったのもあるけれど、数年前にあったきりの、一つ年上の従兄弟は、随分と成長していて、パッと見には本人だと分からなかった。
以前にあった時は、小さくて、ガリガリで、整えていない伸び放題の髪が顔を隠してしまう、見ているだけで悲しくなってしまうような様子だった。
あー、しかも、おばさんのお葬式だったんだ…
水に落ちて溺れかけた猫のように、ショボショボしていて、貧相で惨めで、顔が見えないから、泣いているのかどうかも分からなかったけど。
寄る辺なくなった子供の不安定さは全身から滲み出していた秀真…。
もう、四年前?
今では、すっかり少年らしく、まだ伸びようとしている手足はスッと長く、無駄な肉はつく暇もない、かといって貧弱でもなく、絵に描いたように理想の少年らしさで、立っていた。
「あー、おじいさんが来るように思ってた。久しぶりだね。」
久々の再会にして、なんとも間抜けな第一声を放ってしまったが、秀真はそれはそれは綺麗に微笑んで、ただ頷いたのだった。
プラスチックのベコべコしたベンチには、田村医院と書いてある。錆びた鉄筋の柱には、うずら卵の缶詰が針金でくくりつけてあり、どうやら灰皿のようだ。
昔の映画とかに出てきそう。
雫は、ホームのなだらかな坂を下り、踏切を渡ると、無人の駅舎で切符を箱に入れた。
初の経験だ。
そのまま通り過ぎていいものかどうなのか、一瞬迷ったけれど、通り過ぎるより、ほかに方法はないと判断して、外へ出る。
空は作り物めいて青く、雲がかけらも見当たらない。とんでもなく良い天気だ。
駅前には特に店も見当たらなく、ただ広い駐車場になっていて、ど真ん中になぜか百日紅の木が立っていた。
しかも、かなり大きな木だ。まだ、花には少し早く、滑らかな木の表面ばかりが気になったが、あと一週間もすれば咲き始めるだろう。
百日紅の独特な木の形や、ヌメッとしたようや木肌は、好きというか、気になる存在だと、常々思っていた。
家の近所にも一本あって、子供の頃から、その木をくすぐって遊んだりしていた。百日紅は、枝の脇をくすぐると、全体が大きく揺れるのだ。それを、木が笑っていると言って、喜んでいたものだ。最近は、もう流石にやらなくなったが。
こんなに大きな木でも、あんな風に揺れるのだろうか?
ふと気になって、百日紅に近づき、一番近場の枝に手を伸ばした時、木の幹の裏側に、一人の人がいたことに気がついた。
腕を伸ばし、枝に手をかけた瞬間に目があったもので、なんとなく体裁が悪い。ゆっくりと腕を下ろすと、その人が口を開いた。
「雫くん?」
突然、名前を呼ばれたので、驚きながらも、もう一度よく相手を見てみる。
2番目までボタンを開けた真っ白な開襟シャツに、紺の綿パンツ。清潔を形にしたら、こうなるだろうというような、味気のない、なんでもない服装なのに、妙に洒脱な雰囲気になるのは何故だろう?白い陶磁器のような硬質で、生身ではないように思わせる肌に、さらさらとした色素の薄い髪。少しだけ、雫より高い背の少年だった。
「久しぶり、わかるかな…。秀真(ほつま)だけど。」
祖父が迎えに来てくれるとばかり思っていたので、不意打ちだったのもあるけれど、数年前にあったきりの、一つ年上の従兄弟は、随分と成長していて、パッと見には本人だと分からなかった。
以前にあった時は、小さくて、ガリガリで、整えていない伸び放題の髪が顔を隠してしまう、見ているだけで悲しくなってしまうような様子だった。
あー、しかも、おばさんのお葬式だったんだ…
水に落ちて溺れかけた猫のように、ショボショボしていて、貧相で惨めで、顔が見えないから、泣いているのかどうかも分からなかったけど。
寄る辺なくなった子供の不安定さは全身から滲み出していた秀真…。
もう、四年前?
今では、すっかり少年らしく、まだ伸びようとしている手足はスッと長く、無駄な肉はつく暇もない、かといって貧弱でもなく、絵に描いたように理想の少年らしさで、立っていた。
「あー、おじいさんが来るように思ってた。久しぶりだね。」
久々の再会にして、なんとも間抜けな第一声を放ってしまったが、秀真はそれはそれは綺麗に微笑んで、ただ頷いたのだった。
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