てっぺんに届いたから

つきねこ

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てっぺんに届いたから

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だいだい色って初めて聞いたとき、どんな色か全く想像できなかった。
母さんが、西の空を指して、
「ほら、あんなん…」
って言ったとき、
「なーんや、みかん色か。」
って、心の中で思った。
ただ、そのだいだい色って言葉のテンポと響きと、ちょっとだけ難しい言葉を使っている感が気に入って、
それからは、オレンジも、みかん色も使わずに、「だいだい色」ばっか使っている。
だから、どうって事ではないのだけども。
ただ私にとって、だいだい色は、一番馴染みの通ってる美容師さんみたいな、親しさと、やっぱりちょっと大人ぶった感じの響きが入り混じった、いい感じ、の色なんだ。

そんなだいだい色でいっぱいの公園の中で、ひろちゃんと2人、並んでブランコをこぐ。
高く、高くこいでいくと、もしかしたらくるんって一回転するんじゃないかって思えて、怖くなる瞬間がある。
でも、そこで怖気付いたなんて思われたくなくて、無茶にこぎ続ける。

9月の終わりの公園は、まだ寒い訳ではないのに、日の傾き加減とか、光の色合いとか、影の長さとか、絶妙に秋を醸しだしている。夏の間は7時までだって明るくて、平気で遊べたのに、今の時期になると、学校から帰ってきて、いくらも遊ばないうちに、すっかり夕暮れ時になってしまう。
なんとなく肌寒いような、寂しさがあって、ちょっと苦手だ。

ふと気づくと、公園のフェンスの向こう側から、女の人が手を振っている。
ひろちゃんのお母さんだ。
「あ、お母さんだ!もう、お迎えなんか来なくていいのになぁ。」
汗で額に張り付いた髪を気にして、口で下から吹き上げるようにしながら、ひろちゃんはブランコを止めた。
「ねー!おかあさーん、もうちょっと遊びたーいー!」
ひろちゃんが大きな声で呼びかけた。
お母さんは、ダメダメ、というように首を振ってから、おいで!と手を振った。
「もう、しょうがないなぁ。」
生意気な口調で言うと、ひろちゃんはブランコから立ち上がり、私の方を向いた。
「ごめんね!今日はもう帰るわ。また明日やろうね!」
バイバイ!と手を振ると、パッと走りだす。お母さんのところに着くと、もう一度、私に向き直って、大きく手を振りながら帰っていった。
気がつけば、公園には私だけ。他の子供たちも、とっくにお母さんのお迎えで帰っていった。

私は、再びブランコをこいだ。

公園の西側には「おかんきさん」って名前のお宮があって、そこには、とっても大きな銀杏がある。
公園からは、その銀杏のてっぺんだけがだいだい色に縁取られたシルエットで浮かび上がって見える。
ブランコをこいで、こいで、そうすると、銀杏のシルエットに足が重なる。
公園は、だんだんと影に包まれて、薄暗くなっていく。
でも、ブランコに乗って高くこげば、まだ、だいだい色の光の中に、足先は飛び出した。
もっと、こげば。
もっともっと、こげば。
一回転しちゃうなんて恐れもせずに、もっと高くまで行けば、足がだいだい色に突っ込んで、銀杏のてっぺんをかすめられる。
もう一回、もっと、ぐんとこいで!
次こそは…
次こそは…

日はだんだんに傾いて、銀杏のだいだい色の縁取りもすっかり小さくなり。いまや、周りにほんの一筋、残っているだけ。
私は最後のひとこぎにかけた。
足が…、ピンと伸ばしたつま先が…
てっぺんをかすめて、全部だいだいに染まったような気がした。

そして、光は消えた。

すっかり薄暗くなった公園と、銀杏のシルエット。
私はゆっくりとブランコを止めた。

近所の家から、醤油で煮炊きする香りが漂ってくる。魚の煮付けかな?

だいだい色に染まった足。
てっぺんに届いたこの足で、家に帰ろうと思う。
ポケットに入っている鍵を確かめながら、その足で駆け出した。
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