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Stage1 目覚め
story18 出口の見えない地獄を照らす明かり
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「そう? 君も一人でケニアまできたじゃん。
なかなか出来ることじゃないと思うよ~。その根性があれば、何でも出来るって」
「それは……、投げやりになってたからね。どうせ死ぬんだし、なんかもうどうでもいいやって」
「じゃあさ、その勢いでサイキックになって敵と戦うのはどう? このまま死ぬのをただ待ってるよりも、そっちの方が良くない?」
「う~ん、そうなんだけどね……」
明るく笑う彼に何て返せばいいのか分からなくなり、口ごもる。しばらく二人とも無言だったけど、いつまでも黙ってるのもどうかと思い、私から話しかけてみることにした。
「ケニアはもう長いの?」
「12才の時にこっちにきたから、もう7年かな」
12の時にきて7年ってことは、私と同じ19才?
ということは、自分の意思できたわけじゃなくて、親の仕事の都合とかなのかな。
「そうなんだね。英語もこっちの言葉も話せるみたいだもんね」
「一応ね。英語とスワヒリ語と日本語の3カ国語マスターだから」
「3カ国語話せるのはすごいけど、日本語はちょっと怪しいよね」
「えっ、マジ? 俺の日本語って下手?」
得意げな彼をちょっとからかってみると、大げさに落ち込むから面白い。変わった人だけど、見てると元気が出るよね。
「うそ、冗談だよ」
「なんだよもう、焦った~。本当に日本語下手なのかと思っちゃったじゃん」
「あはは……、ごめんごめん。
私はね、日本からほとんど出たことなかったの。だから、外国で暮らしてる日本人に会うのは新鮮だし、なんだかすごいなって。
私は、みんなが行くから高校行って、大学行って、そうやって生きてきたのに、みんなとは同じように生きられないんだって……」
こうやって改めて言葉にすると、夢も何もなく適当に生きてきた自分が恥ずかしくなる。まだまだ人生は長いと思ってたし、焦る必要もないと思ってた。まだ大学一年生で就活まで時間もあったし、今はただ毎日楽しく過ごせれば良いと思ってたの。
「今まで気楽に生きてきたくせに今さらだけど、まだ夢も見つけてないのに死にたくない。死にたくないよ……。でもね、……戦うのも怖い。どうすればいいか分からないの。あなたたちは戦ってるのに、情けないよね」
死ぬのも戦うのも怖い。想像しただけで手が震える。話しているうちに涙が浮かんできてしまい、それをごまかすように作り笑いを浮かべる。
「怖いのは当然だよ。そのために、俺がいる。
美しいレディを守る正義のヒーローの俺にいつでも頼ってよ」
小刻みに震える私の手をそっと握り、バチンとウインクを決めてきた彼に思いきり吹き出してしまった。
「ちょ、今の笑うとこじゃないって! きゃ~かっこいい~♡って惚れるとこだよ!?」
「最後の余計な一言がなければ惚れてたかも」
「マジか。惜しかったな~」
顔もかっこいいし、言ってることもたぶんかっこいいのに、いまいち決まらないんだよね。だけど彼と話していると悩んでいることがばかばかしくなってくるっていうか、なんだか心が軽くなってきた。
「ありがとう、少し元気出てきた。
今日一緒にいた金髪の人、ブレットだっけ? あの人もここにきて長いの?」
あの人とも目の前の彼くらい気さくに話せたら良かったのにな。さっきの失言で怒らせちゃったかもしれないけど、今度会ったらお礼を言って、それから謝らなきゃ。
「ブレットが来たのは、半年前ぐらいだったかな? 何で?」
「仲良さそうだったからどうなのかなって思って。半年前なら、高校卒業したくらいかな。もっと長くいるのかと思ったけど、そこまで長くないんだね。どこの国の人なの?」
「アメリカ人だけど……って、なになに、何でそんなあいつのことばっかり聞くの? もしかして、ああいうのがタイプなんだ?」
「何でそうなるのよ。ただ昼間助けてもらった恩もあるし、どんな人なのかなって思っただけ」
いきなりそんなことを言われ、ニヤニヤしている彼に反射的に反論してしまったけど、言われてみればわりとタイプかもしれない。色々とそれどころじゃなかったから意識してなかったけども。
「へ~、ふ~ん、なるほどね~。助けてもらった恩ね。俺もあの時一緒にいたのになぁ。俺には名前も聞いてくれないんだ~。これだからイケメンは得だよなぁ。口説かなくても立ってるだけでいいんだから」
「ごめん、聞くタイミングなくしちゃって。それより、あなたも口を開かなければモテると思うよ?」
分かりやすくいじけ始めちゃったけど、これだからイケメンは~って言われても、十分この人もイケメンだと思うんだけど。ただいちいち余計な一言が多いから、三枚目になっちゃってるだけで。
「俺にしゃべるなって? それ、死ねって言ってるようなもんじゃん」
「……そんなにしゃべりたいの? ねえ、今さらだけど名前聞いてもいい?」
「いいですよ。ずっと聞いてくれるのを待ってました。御堂千明(みどう ちあき)です。よろしく、美菜ちゃん☆」
「あれ、名前知ってるんだね」
「へへ、人から聞いちゃった。可愛い子の名前はすぐに聞かないと気が済まないんだ」
病気のことも知られてるぐらいだし、名前を知っててもおかしくはないよね。きっと御堂先生辺りから……ん? 今、御堂千明って言ったよね? 御堂って、もしかして……。
「千明……くんって、もしかして御堂先生の関係者だったりする?」
「あ、千明でいいよ。御堂の関係者になるのかな? 一応俺の親父だし」
ええ……、全然似てない。外見もだけど、あの人間味がない先生の息子がこんなに明るい男の子だなんて想像もしなかったよ。千明はお母さん似なのかな? 千明のお母さんというか、あの先生の奥さんもどんな人なのか予想出来ないけど……。
それに、千明が御堂先生の息子ってことは、御堂先生は自分の息子を実験体みたいにしたってこと? 千明は自分から希望したって言ってたけど、病気だったわけではなさそうだし、それなのに成功率の低い手術を受けさせたんだ……。それって、どうなんだろう。
どんな事情があったのか分からないけど、なんか……、思ったより千明の家庭環境が壮絶……。
「美菜ちゃんさぁ、ブレットのことマジでタイプなら、俺協力するよ?」
「違うってば。これから戦わなきゃいけないっていうのに、そんなこと言ってる場合じゃなくない?」
千明と御堂先生の関係について考え込んでいると、またそんなことを言われたので遠慮しておくことにする。たしかにタイプといえばタイプだけど、正直恋したり彼氏とか作ってる場合じゃないよね。そんなことよりも、明日をどう生きるかを考えないと。
「そう? こんな時だからこそ彼氏がいた方がいいと俺は思うけどな~。生きる希望が湧いてきそうじゃん?
実際さっきまでは戦うの怖いって言ってたのに、今は戦うつもりになってるよな。これから戦わなきゃいけないって今言ったよね」
千明からそう言われて、ハッとする。何で私戦う気になってるんだろう。
戦うのは怖い。今だって泣き出したくなるくらいに怖い。私に出来るのかも分からない。でも、私……。
「そう、だね、戦う気になってたのかも。どこまでやれるのか分からないけど、やってみるよ」
やっぱり、まだ生きたい。
怖いけど、千明もいるし、ブレットにもまた会いたい。だから、私は生きるよ。
「よく言った! 一緒にがんばろうな☆」
「うん。ありがとう、千明。私がもう少しがんばろうって思えたのは、千明のおかげだよ」
「俺は何もしてないけど、美菜ちゃんが元気になってくれたなら良かった。で? ブレットのことはどうする?」
「もう!それはいいの。そういうんじゃないから」
「ブレットじゃなくても、ときめきは大事だと俺は思うよ~。俺も全力でサポートするし、脅すわけじゃないんだけど、マジでここからキツいから」
「……うん」
最後の方は真剣な表情で言われ、こくりと頷く。おチャラい千明がここまで言うんだから、本当にキツいんだろう。
前に進むのも地獄、後ろも地獄。立ち止まったら、この世からさようなら。希望も何もなくて泣きそうになるけど、もうこうなったら進むしかないよね。
「あ、もし俺でいいのなら、俺はいつでも大歓迎だよ?」
「それは遠慮しとく」
千明からのありがたい提案?は丁重にお断りさせてもらったけど、出口の見えない地獄の中でも不思議と暗い気分にならないのはきっと千明のおかげなんだと思う。
なかなか出来ることじゃないと思うよ~。その根性があれば、何でも出来るって」
「それは……、投げやりになってたからね。どうせ死ぬんだし、なんかもうどうでもいいやって」
「じゃあさ、その勢いでサイキックになって敵と戦うのはどう? このまま死ぬのをただ待ってるよりも、そっちの方が良くない?」
「う~ん、そうなんだけどね……」
明るく笑う彼に何て返せばいいのか分からなくなり、口ごもる。しばらく二人とも無言だったけど、いつまでも黙ってるのもどうかと思い、私から話しかけてみることにした。
「ケニアはもう長いの?」
「12才の時にこっちにきたから、もう7年かな」
12の時にきて7年ってことは、私と同じ19才?
ということは、自分の意思できたわけじゃなくて、親の仕事の都合とかなのかな。
「そうなんだね。英語もこっちの言葉も話せるみたいだもんね」
「一応ね。英語とスワヒリ語と日本語の3カ国語マスターだから」
「3カ国語話せるのはすごいけど、日本語はちょっと怪しいよね」
「えっ、マジ? 俺の日本語って下手?」
得意げな彼をちょっとからかってみると、大げさに落ち込むから面白い。変わった人だけど、見てると元気が出るよね。
「うそ、冗談だよ」
「なんだよもう、焦った~。本当に日本語下手なのかと思っちゃったじゃん」
「あはは……、ごめんごめん。
私はね、日本からほとんど出たことなかったの。だから、外国で暮らしてる日本人に会うのは新鮮だし、なんだかすごいなって。
私は、みんなが行くから高校行って、大学行って、そうやって生きてきたのに、みんなとは同じように生きられないんだって……」
こうやって改めて言葉にすると、夢も何もなく適当に生きてきた自分が恥ずかしくなる。まだまだ人生は長いと思ってたし、焦る必要もないと思ってた。まだ大学一年生で就活まで時間もあったし、今はただ毎日楽しく過ごせれば良いと思ってたの。
「今まで気楽に生きてきたくせに今さらだけど、まだ夢も見つけてないのに死にたくない。死にたくないよ……。でもね、……戦うのも怖い。どうすればいいか分からないの。あなたたちは戦ってるのに、情けないよね」
死ぬのも戦うのも怖い。想像しただけで手が震える。話しているうちに涙が浮かんできてしまい、それをごまかすように作り笑いを浮かべる。
「怖いのは当然だよ。そのために、俺がいる。
美しいレディを守る正義のヒーローの俺にいつでも頼ってよ」
小刻みに震える私の手をそっと握り、バチンとウインクを決めてきた彼に思いきり吹き出してしまった。
「ちょ、今の笑うとこじゃないって! きゃ~かっこいい~♡って惚れるとこだよ!?」
「最後の余計な一言がなければ惚れてたかも」
「マジか。惜しかったな~」
顔もかっこいいし、言ってることもたぶんかっこいいのに、いまいち決まらないんだよね。だけど彼と話していると悩んでいることがばかばかしくなってくるっていうか、なんだか心が軽くなってきた。
「ありがとう、少し元気出てきた。
今日一緒にいた金髪の人、ブレットだっけ? あの人もここにきて長いの?」
あの人とも目の前の彼くらい気さくに話せたら良かったのにな。さっきの失言で怒らせちゃったかもしれないけど、今度会ったらお礼を言って、それから謝らなきゃ。
「ブレットが来たのは、半年前ぐらいだったかな? 何で?」
「仲良さそうだったからどうなのかなって思って。半年前なら、高校卒業したくらいかな。もっと長くいるのかと思ったけど、そこまで長くないんだね。どこの国の人なの?」
「アメリカ人だけど……って、なになに、何でそんなあいつのことばっかり聞くの? もしかして、ああいうのがタイプなんだ?」
「何でそうなるのよ。ただ昼間助けてもらった恩もあるし、どんな人なのかなって思っただけ」
いきなりそんなことを言われ、ニヤニヤしている彼に反射的に反論してしまったけど、言われてみればわりとタイプかもしれない。色々とそれどころじゃなかったから意識してなかったけども。
「へ~、ふ~ん、なるほどね~。助けてもらった恩ね。俺もあの時一緒にいたのになぁ。俺には名前も聞いてくれないんだ~。これだからイケメンは得だよなぁ。口説かなくても立ってるだけでいいんだから」
「ごめん、聞くタイミングなくしちゃって。それより、あなたも口を開かなければモテると思うよ?」
分かりやすくいじけ始めちゃったけど、これだからイケメンは~って言われても、十分この人もイケメンだと思うんだけど。ただいちいち余計な一言が多いから、三枚目になっちゃってるだけで。
「俺にしゃべるなって? それ、死ねって言ってるようなもんじゃん」
「……そんなにしゃべりたいの? ねえ、今さらだけど名前聞いてもいい?」
「いいですよ。ずっと聞いてくれるのを待ってました。御堂千明(みどう ちあき)です。よろしく、美菜ちゃん☆」
「あれ、名前知ってるんだね」
「へへ、人から聞いちゃった。可愛い子の名前はすぐに聞かないと気が済まないんだ」
病気のことも知られてるぐらいだし、名前を知っててもおかしくはないよね。きっと御堂先生辺りから……ん? 今、御堂千明って言ったよね? 御堂って、もしかして……。
「千明……くんって、もしかして御堂先生の関係者だったりする?」
「あ、千明でいいよ。御堂の関係者になるのかな? 一応俺の親父だし」
ええ……、全然似てない。外見もだけど、あの人間味がない先生の息子がこんなに明るい男の子だなんて想像もしなかったよ。千明はお母さん似なのかな? 千明のお母さんというか、あの先生の奥さんもどんな人なのか予想出来ないけど……。
それに、千明が御堂先生の息子ってことは、御堂先生は自分の息子を実験体みたいにしたってこと? 千明は自分から希望したって言ってたけど、病気だったわけではなさそうだし、それなのに成功率の低い手術を受けさせたんだ……。それって、どうなんだろう。
どんな事情があったのか分からないけど、なんか……、思ったより千明の家庭環境が壮絶……。
「美菜ちゃんさぁ、ブレットのことマジでタイプなら、俺協力するよ?」
「違うってば。これから戦わなきゃいけないっていうのに、そんなこと言ってる場合じゃなくない?」
千明と御堂先生の関係について考え込んでいると、またそんなことを言われたので遠慮しておくことにする。たしかにタイプといえばタイプだけど、正直恋したり彼氏とか作ってる場合じゃないよね。そんなことよりも、明日をどう生きるかを考えないと。
「そう? こんな時だからこそ彼氏がいた方がいいと俺は思うけどな~。生きる希望が湧いてきそうじゃん?
実際さっきまでは戦うの怖いって言ってたのに、今は戦うつもりになってるよな。これから戦わなきゃいけないって今言ったよね」
千明からそう言われて、ハッとする。何で私戦う気になってるんだろう。
戦うのは怖い。今だって泣き出したくなるくらいに怖い。私に出来るのかも分からない。でも、私……。
「そう、だね、戦う気になってたのかも。どこまでやれるのか分からないけど、やってみるよ」
やっぱり、まだ生きたい。
怖いけど、千明もいるし、ブレットにもまた会いたい。だから、私は生きるよ。
「よく言った! 一緒にがんばろうな☆」
「うん。ありがとう、千明。私がもう少しがんばろうって思えたのは、千明のおかげだよ」
「俺は何もしてないけど、美菜ちゃんが元気になってくれたなら良かった。で? ブレットのことはどうする?」
「もう!それはいいの。そういうんじゃないから」
「ブレットじゃなくても、ときめきは大事だと俺は思うよ~。俺も全力でサポートするし、脅すわけじゃないんだけど、マジでここからキツいから」
「……うん」
最後の方は真剣な表情で言われ、こくりと頷く。おチャラい千明がここまで言うんだから、本当にキツいんだろう。
前に進むのも地獄、後ろも地獄。立ち止まったら、この世からさようなら。希望も何もなくて泣きそうになるけど、もうこうなったら進むしかないよね。
「あ、もし俺でいいのなら、俺はいつでも大歓迎だよ?」
「それは遠慮しとく」
千明からのありがたい提案?は丁重にお断りさせてもらったけど、出口の見えない地獄の中でも不思議と暗い気分にならないのはきっと千明のおかげなんだと思う。
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