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Stage1 目覚め

story17 ヒーローの夢

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「もしかして、あなたも私の病気のこと聞いた?」
「あ~……うん、多少は?」
 
 すでに金髪の彼も知っているぐらいだから、もしかしたらと思って聞いてみると案の定だった。ヘラリと笑った彼にため息をつく。プライバシーも何もないよね。
 
「そっか、やっぱり。知られてるのなら、話が早いね。
私も勧誘されたの。サイキックになる手術を受ければ、助かるかもしれないんだって。でも手術が成功するかも分からないし、敵と戦えって言われてもよく分からないし、なんだか混乱しちゃって……」
「だよな、そうなるよな。いきなりそんな話聞かされたら、無理もないよ。それがフツーの反応だよ」
 
 共感、してくれるの?
 うんうん、と私の話を聞いてくれる彼に、落ちていた心がほんの少しだけ浮上する。
 
 御堂先生は受け入れるのが当たり前だと言わんばかりの態度だし、金髪の彼にも厳しいことを言われたあげく嫌われたかもしれないし、ケニアにきてもうこれ以上折れようにないくらいにバキバキに心折られてただけに、彼の明るい笑顔にホッとした。だって、なんかみんな受け入れられない私がおかしいみたいな態度とるし……。
 でも、そうだよね。普通の人間はいきなり戦えなんて言われて、はい戦えますなんて言えるわけないよ。
 
「あなたもサイキックなの?」
「うん、俺もサイキックだよ」
「そうなんだ。いきなり戦えなんて言われて、嫌じゃなかった? 何か戦わないといけない理由でもあったの?」
「ああ……。俺はさ、戦えって言われたわけじゃないんだ。元々サイキックじゃなかったんだけど、自分から志願したんだよ。人造サイキックってやつ?」
「人造サイキックって?」
 
 人造……? 自分から志願って、何でまたそんな。分からないことが多すぎて首を傾げるけど、こんな話をしていても相変わらず彼はニコニコしていた。
 
「サイキックは何かのきっかけで自然に力に目覚めて、手術を受けることで力をコントロール出来るようになる。
でも俺は、最初から人の手が加わっているんだ。全ての段階で人造に作り上げられた唯一の成功例ってわけ。まさに選ばれしヒーローって感じでかっこいいだろ?」
 
 彼は親指を立ててニッと笑ったけど、とてもかっこいいねと言う気分にはなれないよ。
 
「どうしてそんな危険なことをしたの? 死んじゃうかもしれないんだよ」
「たしかに~」
 
 軽く私に同意をした後で、今までヘラヘラしていた彼の表情が少しだけ真剣なものになる。
 
「俺には夢があるんだよ。そのためには、この力が必要だったんだ。
夢を叶えることが出来ないのなら、生きてたって生きてないのと一緒だから」
「そう、なんだ。どんな夢なの?」
「俺の夢? 知りたい?」
 
 知りたいと頷けば、彼は遠くを見るような目をする。月明かりに照らされた彼の横顔は相変わらず笑みは絶やしていないものの、なんだか寂しそうに見えた気がした。
 
「俺の夢は、……俺、は」
「……うん」
 
 やけにタメる彼の言葉の続きを待つと、彼はふいに私の方を見てヘラリと笑った。
 
「世界中のかわいこちゃんとお近づきになって、party nightすること!」
「あ、うん、……そう。そっか、人生楽しそうで何よりだね。うらやましいよ」
 
 どんな壮大な夢かと思えば、世界中のかわいこちゃんとパーティーナイトしたいとか、すっごいチャラい。ある意味壮大なのかもしれないけどね。
 
 でも本当なのかな。キラキラスマイルを浮かべる彼の言葉は、どこまで本気なのか冗談なのか分からない。だけど、……。
 
「あなたは、すごいね。
それがどんな理由でも、自分のやりたいことのために自分で未来を決めて、自分の力で戦ってる。私には、……とても真似できない。そんな勇気なんてないよ」
 
 うじうじ悩んでる私に共感してくれて、話を聞いてくれてすごく嬉しかったけど、思い知らされた。彼も、あちら側の、強い人間なんだ。私とは違うんだって。
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