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Stage2 始動

story24 謎の黒猫

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 そういえば、どこに食べに行くのか聞いてないけど、何食べに行くのかな。そんなことを考えながら歩いていると、突然目の前を黒い生き物が横切った。
 
「なに……ああっ! 私の腕時計!」
 
 黒い生き物は目にも止まらない早さで飛び上がり、私の腕から腕時計を引きちぎってしまう。私の腕時計をくわえた黒い生き物は少しだけ走ってからこちらを振り返り、三日月のような目を細めた。
 
 ね、こ......?
 
 黒猫だと気がついた次の瞬間、猫は私に背を向け、どこかに駆けていく。
 
「返して!」
「Mina?」
 
 ブレットが私を呼ぶ声が後ろから聞こえてきたけど、それに返事をしている余裕もなく、腕時計を盗んだ黒猫を追いかける。
 バイト代を貯めて買った、ずっと憧れてたブランドの時計なの。絶対に返してもらわなきゃ!
 
 早足で駆けていく黒猫に誘い込まれるように細い路地に入り込む。細い路地の行き止まりが見えたところで、猫は逃げるのを止め、にゃーおと高い声で鳴いた。
 
「さあ、返して......?」
 
 行き止まりだし、もう逃げられないよ。
 私はゆっくりと猫に近づき、腕時計を取り返そうとする。
 
「Stop! Mina! Don't get close to it! (ミナ、やめろ! それに近づくな!)」
 「へ......?」
 
  焦ったような声が聞こえてきて振り向くと、ブレットが血相を変えてこちらに走ってくるのが見えた。
 
 何でただの黒猫にそんなに慌てているのか分からないけど、ただごとじゃないことを察し、猫との距離を空けようとしたけれど、すでに遅かったかもしれない。
 
 猫は三日月の目を妖しく光らせながら、その形を変化させていく。気がついた時には可愛い黒猫はどこにもいなくなっていて、目の前にいたのは鋭い眼光を放つ、大きな黒豹だった。
 
 ギラギラとした目つきの黒豹が大きく口を開けて、私に飛びかかろうとしている。
 
 何で黒猫が黒豹に!? 逃げないといけないのに、身体が固まってしまって一ミリも動いてくれない。
 
 黒豹が飛びかかってくる———!
 絶体絶命のところで後ろから片腕をつかまれ、ぐいっと引かれて、気がつくと私はブレットの腕の中にすっぽりとおさまっていた。

 危機を逃れた私の身代わりとばかりに、黒猫いや黒豹の口から取り返そうとした腕時計が噛み砕かれ、見るも無惨な姿になってしまっている。
 
 あぁぁ、私のお気に入りの腕時計が粉々に……。
 
 大声で嘆きたい気分になったけど、ブレットが助けてくれなければ、今頃粉々になっていたのは私の方だったかもしれない。そう思うと、ぞっとするよ。
 
 ただの可愛い黒猫だと思っていたら、まさか黒豹になるとは思わなかった。もう何でもアリなの?
 
 黒豹は低く喉を鳴らし、今にも飛びかかってきそうな様子でこちらをうかがっている。
 恐怖で固まったままの私を抱きしめたまま、ブレットは後ろに飛びのき、黒豹から距離をとった。
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